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2型糖尿病における経口血糖低下薬の使い方(1)

経口血糖低下薬についての最新の考え方について勉強しました。
この種の薬剤については大規模臨床試験での総死亡率や心血管イベントの発生率、そして二次無効の有無が問題と思われます。
年明けに、あるメーカーの支店に招かれ、そのメーカーの経口血糖低下薬についてのコメントを求められることになっています。
そんなこともあって勉強した次第です。

特別企画
2型糖尿病における経口血糖低下薬の使い方を再考する
―よりよい併用のあり方とは

本年8月,Diabetes Care誌に衝撃的な報告が掲載された。
メトホルミンとスルホニル尿素(SU)薬併用により,食事療法やSU薬単独などに比べ心血管イベントや死亡が増加した―とする観察研究メタ解析である。
 
この解析に用いられたSU薬はグリベンクラミドなど多岐にわたる。
この解析の結果をそのまま臨床に外挿してよいのだろうか。
 
フランスにおいて,日常的にメトホルミンとSU薬を併用している専門医を招き,わが国の専門医と話し合っていただいた。

東京医科大学内科学第三講座教授
小田原 雅人 氏(司会) 
東京医科歯科大学生命倫理研究センター教授
吉田 雅幸 氏 
熊本大学大学院医学薬学研究部循環器病態学准教授
杉山 正悟 氏 
Department of Endocrinology-Diabetology, Centre Hospitalier Sud Francilien, France
Guillaume Charpentier 氏 

PRESENTATION
肥満者の多いフランスにおける,併用薬としてのグリメピリドの有用性

Guillaume Charpentier 氏 Department of Endocrinology-Diabetology, Centre Hospitalier Sud Francilien, France
なぜグリメピリドは低血糖発現リスクが低いのか
フランスでは,2型糖尿病患者に対する第一選択薬はメトホルミンであり,その理由は,患者の大部分が肥満を有するためである。
そして,メトホルミンを増量してもHbA1Cが6.5%未満とならなければ,他の経口血糖低下薬を追加する。
 
私の場合,SU薬を追加する場合が多い。
空腹時血糖だけでなく食後高血糖もコントロール可能だからである(図1)。
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SU薬のなかでの第一選択はグリメピリドである。
グリメピリドを選ぶ最大の理由は「低血糖発現リスクが低い」ことによる。
 
なぜ,グリメピリドは低血糖発現リスクが低いのであろうか。
グリベンクラミド(商品名:ダオニール®)は低血糖時の血中グルカゴン増加を阻害するが,グリメピリドにはそのような作用がないことが知られている(Szoke E, et al: Metabolism 55: 78-83, 2006)。
その差が反映されているのかもしれない。
 
そのほかに私は,グリメピリドに「膵外作用」が期待できることも大きな理由ではないかと考えている。
グリベンクラミドと同等に血糖を低下させた場合,インスリン濃度の増加はグリベンクラミドのおよそ50%であるという報告があり(Draeger KE, et al: Horm Metab Res 28: 419-425, 1996),この機序として,グリメピリドによる糖取込み蛋白遺伝子の発現増強が想定されている
(Müller G: Mol Med 6: 907-933, 2000)。
 
また,グリメピリド8週間の治療を行った2型糖尿病患者では,アディポネクチンの産生増加も報告されており(Tsunekawa T, et al: Diabetes Care 26: 285-289, 2003),それによるインスリン抵抗性の改善も期待できる。
さらに,グリメピリドにはグリベンクラミドには認められない抗炎症作用も報告されている。
2型糖尿病患者におてグリメピリドを28週間服用したところ,アディポネクチンの増加とともに,血中のinterleukin(IL)-6,tumor necrosis factor(TNF)-α,高感度C反応性蛋白(CRP)は有意に低下していた(p<0.05)。グリベンクラミド群とインスリン群ではそのような変化は認めなかった(Koshiba K, et al: J Med Invest 53: 87-94, 2006)。
一方,in virtoでの検討では,グリメピリドが脂肪細胞におけるperoxisome proliferators-activated receptor(PPAR)γ活性を増強したというデータもある(Inukai K, et al: Biochiem Biophys Res Commun 328: 484-490, 2005)。
 
これらのことが,総合的にグリメピリドの低血糖発現リスクの低さを説明している可能性がある。

虚血PCにおけるグリメピリドの作用
グリメピリドをSU薬のなかでの第一選択とするもう1つの大きな理由は,「心筋虚血プレコンディショニング(PC)を阻害しない」という点である。
心筋では,先行する短時間の虚血による虚血耐性の獲得が知られており,「虚血PC」と呼ばれている。
虚血PCが作動すると引き続いて比較的長時間の虚血にさらされても心筋傷害は軽減される。このように心保護作用が期待されている心筋虚血PCだが,その機序としてミトコンドリアATP依存性カリウム(KATP)チャネルの開口が考えられているため,KATPチャネルを閉じるSU薬には,膵選択性が低い場合,虚血PCを消失させる懸念が持たれていた。
しかしランダム化二重盲検試験の結果,グリメピリドではグリベンクラミドと異なり「虚血PC」は消失しないことが報告されている(Klepzig H, et al: Eur Heart J 20: 439-446, 1999)。

併用療法では,グリメピリド+メトホルミンが合理的選択
メトホルミンとグリメピリドの併用についても,いくつかの成績がある。
イタリアにおける3年間の観察研究において,メトホルミン+グリメピリド併用群の年間死亡率は0.4%と,ほかのSU薬併用群よりも有意に低かった(p<0.0001,検定法:Kaplan-Meier法,Monami M, et al: Diabetes Metab Res Rev 22: 477-482, 2006)。
すなわち,メトホルミンとグリメピリドの併用は,より良好な生命予後を期待できる可能性があるといえよう。
 
一方,メトホルミンを服用している2型糖尿病患者372名で検討したところ,メトホルミンにグリメピリドを上乗せすることにより,試験開始時に188mg/dLであった空腹時血糖は有意に低下したが,メトホルミンからグリメピリドへの切り替えでは,低下が認められなかった(図2)。
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この試験では,単剤での血糖コントロールが難しい場合の合理的な選択は,グリメピリドとメトホルミンの併用であると言えるだろう。 <続>

出典 Medical tribune 2008.12.18
版権 メディカル・トリビューン社

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<関連サイト>
ピオグリタゾンはグリメピリドより2型糖尿病患者の冠動脈血管内プラーク進展を抑える
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/gakkai/acc2008/200804/505944.html

欧州における2型糖尿病治療薬Tandemact?
(アクトスとグリメピリドの合剤)の販売許可取得について
http://www.takeda.co.jp/press/article_1333.html

PERISCOPE試験
http://wellfrog.exblog.jp/8726556/


2型糖尿病に対する経口血糖降下薬療法
作用と使い分け
http://www.uemura-clinic.com/dmlecture/oha.htm

リラグルチドによる血糖管理はグリメピリドより良好
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/lancet/200810/508342.html

読んでいただいてありがとうございます。
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他にもブログがあります。
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by wellfrog3 | 2008-12-23 00:10
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