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ラクナ梗塞とアテローム血栓の原因と鑑別

ラクナ梗塞とは、「単一の深部穿通枝の閉塞による脳梗塞」と定義されている。
「深部穿通枝」とは、
①中大脳動脈から分岐するレンズ核線条体動脈、
②前大脳動脈から分岐する内側線条体動脈、
③内頚動脈から分岐する前脈絡動脈、
④後大脳動脈から分岐する視床膝状体動脈、視床穿通動脈、
⑤脳底動脈から分岐する傍正中動脈、
などを指す。
 
ラクナ梗塞は、主に高血圧症や糖尿病を背景因子として、穿通動脈のlipohyalinosisやmicroatheromaによる閉塞によって発症する。
症候としては、pure motor hemiparesis(片麻痺のみ)、pure sensory stroke(半身感覚障害のみ)、ataxic hemiparesis(片麻痺+同側半身失調)、dysarthriaclumsy hand syndrome(構音障害+手の巧緻運動障害)、sensorimotor stroke(片麻癖+半身感覚障害)を呈する(ラクナ症候群)。
画像(CT、MRI)上は深部穿通枝領域に最大15mm未満の小梗塞を認める。
意識障害を伴うことはほとんどなく、皮質症候は原則として伴わない。

アテローム血栓性脳梗塞は、動脈硬化性の危険因子(高血圧、糖尿病、高脂血症、喫煙)を背景として、頭蓋内外の主幹脳動脈の粥状硬化性病変によって生じる脳梗塞である。
したがって、冠動脈疾患や閉塞性動脈硬化症を合併することも少なからずある。
主幹脳動脈には、内頚動脈、中大脳動脈、前大脳動脈、椎骨動脈、脳底動脈、後大脳動脈が含まれる。
 
発症機序としては、
①血栓性、
②塞栓性、
③血行力学性
がある。

血栓性とは、粥状硬化性病変での粥腫内出血、粥腫破綻などによる狭窄または閉塞を来すもの、塞栓性とは、粥腫由来の遊離血栓による末梢動脈の閉塞を来すもの、血行力学性とは、主幹脳動脈の閉塞もしくは高度狭窄性病変の存在下に血圧低下や心拍出量低下などの血行力学的要因が加わった場合に発症する。
これらの発症機序が複合的に作用する場合もある。
 
症候としては意識障害を伴うことが多く、特に脳底動脈閉塞例の意識障害は高度である。
皮質症候(失行、失認、失語、半側空間無視など)を伴うことも多い。
画像(CT、MRI)上は、脳深部、境界域、皮質に病巣を生じ、大きさは小さいものから比較的大きなものまでさまざまである。
 
両者の鑑別は、神経症候(意識障害、皮質症候、ラクナ症候群の有無)、他の動脈硬化性疾患(虚血性心疾患など)合併の有無、画像(深部穿通枝領域に最大径15mm未満の小梗塞はラクナ梗塞)に加え、頚部血管エコーやMRA、脳血管撮影などの血管評価(主幹脳動脈病変の有無の確認)によって行う。

ラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞の定義で区別し難い穿通枝系梗塞にbranch atheromatous disease(BAD)という概念がある。
これはCaplanにより提唱され、病理学的に定義された概念である。
すなわち、ラクナ梗塞が穿通枝自体の血管病変であるのに対し、BADでは主幹脳動脈の穿通枝入口部でのアテローム硬化性病変が原因となる。
複数の穿通枝が同時に起始部で閉塞することもある。
 
ラクナ症候群で発症しながら階段状の症候増悪を呈し、画像(CT、MRI)所見では、最大径15mm以上の穿通枝の支配領域に一致した細長い梗塞巣を認め、かつ穿通枝を分岐する主幹脳動脈に明らかな狭窄性病変を認めない場合、BADを疑う。
BADをラクナ梗塞と鑑別する意義は、病態がアテローム血栓性脳梗塞と似ており、症候悪化を生じる場合があり、アテローム血栓性脳梗塞に準じた治療、再発防止対策が必要なためである。

出典 日本医事新報 No.4278 2006.4.22
版権 日本医事新報社


<関連サイト>
BAD患者は代謝性因子の合併率高い
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/article/view?phrase=BAD++%E8%84%B3&perpage=0&order=0&page=0&id=M41110381&year=2008&type=allround
■BADは1989年にLouis R. Caplanが提唱した脳梗塞の新しい概念
■脳主幹部動脈のアテローム硬化性狭窄や閉塞によるものがアテローム血栓性脳梗塞,単一の穿通枝の閉塞によるものがラクナ梗塞であり,BADはこの中間に位置するものとされているが,現在のところ,穿通枝の閉塞部位を直接診断することは困難であるため,画像所見の特徴からBADを診断せざるをえない
■画像所見上,古典的なラクナ梗塞は穿通枝末梢部の閉塞を示すが,BADでは穿通枝起始部が閉塞しており,穿通枝レベルのアテローム血栓性脳梗塞が認められるという特徴がある
■BAD症例における危険因子保有率は,従来のラクナ梗塞やアテローム血栓性脳梗塞と比べて,代謝性因子の関与が強い傾向を示した」と結論したうえで,「代謝性因子が多いと病態が進行しやすいが,そうした急性期の患者に抗血小板薬を投与する際には,オザグレルナトリウムよりも抗凝固作用もあるアルガトロバンで治療するほうが進行する例が少ないことを臨床上経験している」と付言した



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by wellfrog3 | 2009-01-02 00:58 | 脳血管
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