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肺炎に対する抗菌薬療法

肺炎はわが国の死因の第4位を占める疾患です。
受療率,罹患率ともに高齢社会の到来により急激に増加しています。
年齢別での検討で、85歳以上の男性では死因の第2位,90歳以上では第1位となり,高齢者に特有の誤嚥性肺炎や基礎疾患による感染リスクの増大,抗菌薬の過剰使用により誘導される耐性菌の増加が問題視されています。

長崎大学の河野茂医学部長が肺炎に対する抗菌薬療法の将来展望について話された記事で勉強しました。

PK/PD理論とDe-escalationは耐性菌予防の重要な戦略
MDRPなど耐性菌増加が大きな問題

■市中呼吸器感染症の最も重要な原因菌は肺炎球菌である。

■1990年ころから,ペニシリン系薬に対する感受性低下が急速に進行し,現在は60%程度が低感受性菌ならびに耐性菌である。
また,マクロライド耐性肺炎球菌も約80%を占め,ニューキノロン耐性菌の増加が懸念されている。
 
■院内感染症の代表的な原因菌であるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は,出現から40年以上たった現在もさらに耐性化が進み,2002年には数株ではあるがバンコマイシン(VCM)耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)として報告された。

■市中感染型MRSA(CA-MRSA)の出現が新たな柱として院外に拡大していることが示唆され,注意が必要な問題である。
 
■最近注目されている耐性菌感染症は,多剤耐性緑膿菌(MDRP)による院内感染である。
緑膿菌に対して抗菌活性を有するカルバペネム系薬,ニューキノロン系薬およびアミノ配糖体系薬の3剤すべてに耐性を獲得しており,既存抗菌薬はほとんど無効である。
白血病や臓器移植などの易感染性宿主では,致死的な感染症を引き起こすことがある。
 
■MDRPは,国内の複数施設で発生した院内感染が社会問題となっている一方,治療薬がほとんどないため,感染制御・予防がきわめて重要である(河野茂氏)。

■β-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(BLNAR)や基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ産生菌(ESBL)など多くの耐性菌が大きな問題となっている。

市中肺炎/重症度分類のA-DROPとPK/PDを考慮した治療指針が有用
■わが国では,日本呼吸器学会呼吸器感染症に関するガイドライン(GL)作成委員会により,「成人市中肺炎診療GL」(市中肺炎GL),「成人院内肺炎診療の基本的考え方」(院内肺炎GL)が発行された。
 
■これまでの抗菌薬開発と耐性菌出現の歴史を反省し,優れた抗菌薬を継続的に使用し,かつ耐性菌を生み出さない薬剤選択や使用法を考慮した指針として,患者の予後と高い相関を示すことで十分な治療効果が期待されるA-DROPシステム,PK/PD理論に基づいた抗菌薬投与計画を提示した(河野茂氏)。
 
■2005年に改訂された市中肺炎GLでは,既存の抗菌薬を温存するための治療指針を追及する立場があらためて強調された。
具体的には,重症度分類に年齢(Age),脱水(Dehydration),呼吸状態(Respiration),意識レベル(Orientation),血圧(Blood Pressure)を指標とするA-DROPシステムが推奨された。
抗菌力が強く,広域スペクトラムを有するニューキノロン系薬やカルバペネム系薬などをエンピリック治療の第一選択とせずに十分量のもとでの短期間使用を前提とし,生体内で薬剤がどれだけ有効に作用しているかを考えた概念として,薬物動態(Pharmacokinetics;PK)/吸収,分布,代謝,排泄など生体内における薬物の作用(Pharmacodynamics:PD)理論を導入した(図1)。
肺炎に対する抗菌薬療法_c0183739_22232932.jpg

 
■PK/PD理論については,推奨される投与方法が抗菌薬の種類によって異なる。
例えば,ペニシリン,セフェム,カルバペネム系抗菌薬など時間依存性に抗菌作用を示す薬剤では,最小発育阻止濃度(MIC)を上回る時間(time above MIC)が長いほど高い臨床効果が得られることから,1日分の投与量を1回より2回,2回より3回,3回より4回とすることでtime above MICが延長されて高い効果が期待できる。

■アミノグリコシド,キノロン,ケトライド系抗菌薬など濃度依存性に抗菌作用を示す薬剤では,血中濃度-時間曲線下面積(AUC)/MIC(あるいはCmax/MIC)の値が大きいほど高い効果が期待できる。
したがって,1日の投与量が同じであれば1回にまとめた投与が理論的に推奨される。

院内肺炎/予後予測因子をもとに重症度分類から抗菌薬選択を
■院内肺炎は「入院後48時間以降に新しく出現した肺炎」と定義付けられ,通常見られる市中肺炎とは異なり,基礎疾患を有し,免疫能や全身状態などが悪い患者が多い。

■そこで,2002年に発行された院内肺炎GLでは,重症度と生体側の危険因子の組み合わせから,使用抗菌薬の選択が推奨された。
また,日和見感染としての院内肺炎の治療法を提示したのも大きな特徴である。

■2005年に米国胸部学会(ATS)と米国感染症学会(IDSA)合同のGLが発表されたが,大きな特徴としてDe-escalationを戦略の基本としていることが挙げられる。

■病歴から耐性菌関与の可能性を推定し,耐性菌関与が疑われる院内肺炎ではカルバペネム系薬のモノセラピーやグリコペプチド系薬との併用療法など,広域スペクトラムを有する抗菌薬を積極的に投与し,並行して行われる原因菌検査の結果を待って,より狭域の抗菌薬に照準を絞って変更する戦略である」(河野茂氏)
 
■米国では死亡率が高い重症の人工呼吸器関連肺炎(VAP)が多く,治療では多くの症例でDe-escalationが推奨される。一方,わが国では軽症〜中等症の誤嚥性肺炎患者が相対的に多いほか,中小規模の医療機関では検査室がなく,外注化する傾向も見られるため,効率よく迅速な検査が行われているとは限らない。
したがって,De-escalationの適応が困難であることも多い。
 
■以上から,わが国ではより予後と相関する因子を選択して組み合わせ,治療に直結した独自の重症度分類を構築する作業が行われた。
2008年に院内肺炎GLが改訂され,重症度分類としてA-DROPシステムに準じたI-ROADシステムが推奨された。
さらに重症度を規定するC反応性蛋白(CRP)や胸部X線所見を2段階目の分類項目として取り入れた(図2)。
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■従来のGLでは重症例が軽症〜中等症として取りこぼされる可能性があったが,改訂GLで2段階の分類項目を設定したことで,重症例の取りこぼしが減少するであろう。重症例ではDe-escalationの観点からの抗菌薬療法を推奨する(河野茂氏)。

■PK/PD理論によりブレイクポイントや欧米との投与量の差異に言及できたこと,すなわち,わが国では抗菌薬の投与量が相対的に少ない場合が多いことで,かえって不十分な抗菌薬治療となり,耐性菌増加に拍車をかけている可能性を指摘できた点は評価すべきである(河野茂氏)。
 
■最近では新規抗菌薬の開発は著しく停滞している。
われわれは既存の抗菌薬を効率的に,かつ慎重に使用していかなければならない。
PK/PD理論やDe-escalationを導入した新しいGLにより,耐性菌を誘導しない適正な抗菌療法を推進し,抗菌薬の有用性を保つことがきわめて重要である(河野茂氏)。

出典 Medical Tribune 2009.2.5
版権 メディカル・トリビューン社


<MR面談録 2009.2.12>
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by wellfrog3 | 2009-02-13 00:54 | 呼吸器科
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