第23回日本更年期医学会での「HRTガイドライン作成に向けて」の記事で勉強しました。
2002年の大規模臨床試験WHI(Women's Health Initiative)の中止により,リスクのみがクローズアップされていたホルモン補充療法(HRT)だが,サブ解析の結果や新薬の認可,2009年発表予定のガイドラインの作成など,HRTの意義を再評価する動きが進んでいる。 横浜市で開かれた第23回日本更年期医学会(会長=聖マリアンナ医科大学産婦人科・石塚文平教授)のシンポジウム「日本人におけるHRTのあり方を探る」(座長=弘前大学産科婦人科・水沼英樹教授,東京大学産科婦人科・矢野哲准教授)では,HRTを行ううえで現場の医師が感じる不安を払拭すべく,HRTと乳がん,脂質代謝との関連などについて最新の知見が示された。 WHI後の情報提供に高いニーズ 弘前大学産科婦人科の樋口毅講師は,日本産科婦人科学会と日本更年期医学会が共同で進めているガイドライン作成に先立ち,学会員を対象に行ったアンケート結果を報告,「診療現場からの声としてWHI以降の情報周知徹底や日本人のデータを集めることの必要性を強調する声が多かった」と述べた。 臨床現場の声をガイドラインに反映 アンケートでは,会員98人から306の質問などが寄せられた。 そのうち,「HRTに期待される作用・効果」のトップは,うつ,認知症,情緒障害など精神神経症状の改善効果(33%)についての質問で,これらの症状に対してHRTはどこまでかかわることができるのかという内容が多かった。 次いで,更年期症状(22%),骨量改善(19%),脂質異常(11%)などであった。 「予想される有害事象」については,乳がん(38%),出血・子宮体がん(30%)に関する質問が多く,血液凝固・血管疾患(15%),子宮頸がん・卵巣がん(6%)が続いた。 いずれも現時点でのエビデンスをどのように解釈してよいのかという内容が多かった。 このほか,HRTに使用する薬剤の使い分け,黄体ホルモンの併用方法,経口避妊薬からの移行,選択的エストロゲン受容体モジュレーターとの使い分けなど,多くの質問が寄せられた。 樋口講師は「臨床現場ではWHI中間報告以降のエビデンスを更年期医療に携わる婦人科医師だけでなく,他科の医師,コ・メディカルおよび患者,ひいてはマスコミに広くかつ正しく伝える有効な方法への需要が高まっている。 ガイドラインでは種々のエビデンスが整理・要約されており,この需要に応える強力なアイテムになると信じている」と述べた。 低用量でも黄体ホルモンの併用を 徳島大学大学院産科婦人科の安井敏之准教授は,ガイドラインの作成や新たなホルモン製剤の発売を踏まえ,「低用量で経皮が望ましい,低用量でも黄体ホルモンの併用は必須」とするHRT処方の進め方を示した。 経口より経皮に軍配か 安井准教授はまず,エストロゲン製剤の種類について,従来からわが国で使われている結合型エストロゲン(CEE)ではトリグリセライド(TG)とC反応性蛋白(CRP)が増加するのに対し,新たに登場したマイクロナイズドエストラジオール(E2)では変化しない点を指摘。 投与経路に関しては,経口では動脈硬化に関連するサイトカインが増加して静脈血栓塞栓症のリスクが上昇するのに対し,経皮では逆にサイトカインが減少することを示した。 投与量については,国際閉経学会が低用量を推奨している点に触れ,低用量エストロゲン製剤はホットフラッシュを改善,骨密度を増加,脂質代謝にも有利であり,投与量の増加に伴い脳卒中や血栓症のリスクが高くなることを示した。 低用量エストロゲン製剤としてE2の経口剤があるが,CEEの低用量(0.3mg)はわが国では発売されていない。同准教授は「中性脂肪の増加が見られず,性器出血が連日投与に比べてはるかに少ない隔日投与も1つの候補」とした。 さらに,低用量のエストロゲン製剤であっても,子宮内膜増殖症の発生を防ぐために黄体ホルモンの併用は必要とし,併用するメドロキシプロゲステロンの量は周期投与の場合5〜10mgで10〜12日間,連日投与の場合2.5mgを推奨。エストロゲン製剤と黄体ホルモン製剤の両方が配合された経皮剤と経口剤が発売予定であることを紹介した。 同准教授は「低用量の経皮を推奨しても,フェミエストは現在発売休止中であり,すべての製剤において一長一短があり,なかなか推奨できる薬剤がないのが現実」と断ったうえで,HRT処方の進め方を示した(図)。 経皮製剤に脂質代謝改善の可能性 WHIでHRTが心血管疾患(CVD)のリスクを上昇させることが報告されたことについて,愛知医科大学産婦人科の若槻明彦主任教授は,エストロゲンの投与経路と黄体ホルモンの種類が影響したのではないかとの見解を示した。 経皮でトリグリセライドが低下 閉経後にエストロゲン濃度が減少すると,CVDのリスクが上昇する。HRTは脂質代謝改善作用によってCVDのリスクは低下すると考えられてきたが,WHI報告がそれを覆し,脂質異常症の積極的適応とはならなくなった。 若槻主任教授は閉経後の脂質代謝のうちトリグリセライド(TG)に注目し,「エストロゲンが低くなるとTGが高くなり,LDLの小粒子化が進む。 小型LDLは酸化されやすく,酸化して超悪玉化したLDLをマクロファージが一方的に食べて自爆する。自爆したマクロファージは,血管内皮のなかに動脈硬化層を形成する。 つまり,エストロゲン低下による高TG血症が粥状硬化を進める原因となるのではないか」との見解を示した。 エストロゲンを補充する場合,TGの上昇を防ぐことが重要な課題となる。 同主任教授は「経口エストロゲンではTGが増加するが,経皮ではTGが低下して酸化されにくい大型のLDL粒子に変化して,血管壁のなかで抗酸化作用を発揮する」として,投与経路を経皮にしたHRTに閉経後の脂質代謝を改善させる可能性があることを示唆した。 年に1回の乳がん検診が不可欠 聖マリアンナ医科大学乳腺・内分泌外科の福田譲教授は「HRT中と治療終了後5年間は2年に1回の検診では不十分」と警告,マンモグラフィと超音波の併用も考慮に入れた年1回の検診が不可欠と強調した。 住民検診だけでは不十分 わが国の乳がん罹患数は約4万人に及び,年齢調整罹患率で女性のがんの第1位,がんによる死亡原因では30〜64歳までの各層で第1位である。 一方,米国では2003年に乳がん罹患率が6.7%減少し,これがWHI臨床試験の中止の翌年に当たることから,HRTの減少が乳がんの減少につながったのではないかとの見方もある。 これについて,福田教授は「乳がんは長期間かかって発症すると考えられており,HRT使用率減少と簡単に結び付けるのは問題がある」との見解を示した。 厚生労働省がん研究助成金「ホルモン補充療法が乳がん診療に及ぼす影響とその対策に関する研究」(主任研究者=埼玉医科大学乳腺腫瘍科・佐伯俊昭教授)では,HRT歴がある女性の乳がん発症リスクが少ない(オッズ比0.432)との結果であった。 同教授は「コントロール群の年齢(中央値56歳)が乳がん群(中央値49歳)に比べて高いことから,観察対象期間の長いコントロール群がHRTに曝露される機会が多い。観察対象期間をマッチさせると結論が変わる可能性がある」と指摘した。 現在,市町村が行う乳がん検診は,40歳以上を対象とした2年に一度の視触診とマンモグラフィの併用検診である。同教授は,乳がん検診の受診率が20%台にとどまっている点を指摘。 特に,HRT使用者は1年に1回の検診が必要なことから,同教授は住民検診では不十分との見解を示した。 さらに,同教授は「HRT使用中は乳腺濃度が高くなることを考慮すると,マンモグラフィと超音波の併用が有効である可能性がある」と述べた。 乳がん検診における超音波検査の有効性に関しては現在,厚生労働省研究班が比較試験を実施中で,この結果を受けて住民検診に超音波検診の導入が検討される見込みである。 禁忌とされている乳がん治療後のHRTに関しては,再発リスクを上げるとして中止となったHABITS試験に触れたうえで,「ホルモン感受性のないタイプに限っては,術後4〜5年からHRTを開始してよいのではないか」と述べた。 奥田元宋 遠山白雪 http://www.oida-art.com/buy/detail/7634.html
by wellfrog3
| 2009-03-22 00:37
| 産婦人科
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