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健診の妥当性と精度管理

第55回日本臨床検査医学会での健診の精度管理の話題で勉強しました。


健診の妥当性と精度管理を再点検
医療費抑制策は,わが国の医療制度改革の本丸と位置付けられており,2008年度からスタートした特定健診・特定保健指導も,将来の医療費削減を標榜している。
名古屋市で開かれた第55回日本臨床検査医学会(会長=三重大学大学院臨床検査医学分野・登勉教授)のシンポジウム「特定健診と臨床検査」(司会=静岡市医師会健診センター・田内一民センター長,順天堂大学臨床検査医学・三宅紀子氏)では,特定健診における各検査項目の意義や選択の妥当性,精度管理の課題など,さまざまな角度から臨床検査にまつわる考察がなされた。

検査データの標準化を全国規模へ
2008年度から特定健診・特定保健指導が義務化されたことにより,健診に用いる臨床検査データの標準化は,重要な課題としてクローズアップされている。
昭和大学医学教育推進室の高木康教授は,特定健診における各検査項目の妥当性について検証し,今後検査データの標準化をさらに進め,全国の健診施設間による検査値の差をなくしていくよう努めなければならないと述べた。

LDLサイズやγ-GTPの有用性を示唆
高木教授は,特定健診の検査項目の意義を確認していくなかで,まずLDLコレステロール(LDL-C)値に着目した。
LDL-Cは独立した心血管危険因子として有用であるとされるが,血清総コレステロール値と冠動脈疾患(CHD)の罹患率,死亡率と相関するデータや,心血管事故予測の相対リスクにおいて,総コレステロール値とLDL-C値はほぼ同等とする報告もある点などを指摘し,LDL-C値を検査項目とすることに疑問も感じられるとした。
 
さらに,冠動脈狭窄病変と各種のマーカーを比較すると,「狭窄なし」群のLDL-C値が高くなっており,LDL-C値では狭窄病変を測る指標には成りえないとし,代わりにLDLサイズを新たな指標として提唱した。
 
一般的にLDLサイズが小型だと,血管内皮下に侵入し,酸化されやすくなるため動脈硬化のリスクが高まると言われるが,実際にLDLサイズを検査項目とすると,「狭窄あり」群では,平均LDLサイズ25.5nm以下の割合が「狭窄なし」群に比べ高くなったとする報告を示した。
 
そのため,同教授は「将来,LDLサイズの測定が特定健診の検査項目となるかもしれない」と述べた。
 
続いて,脂肪肝の診断に用いる検査項目であるγ-GTPについて,心筋梗塞後の合併症のない生存率と関連しているとし,血清γ-GTPが40IU/L以上の患者では再梗塞を来す頻度が高いとのデータを紹介し,「γ-GTPは,メタボリックシンドロームを判定する際の新たな指標となりうる」との見解を示した。
 
以上の検査項目は基準測定の操作法や,測定に用いる標準物質の確実性などにより,臨床検査値の普遍性や互換性が担保されて初めて有用となるため,検査データの標準化も促進しなければならないという。
 
そこで同教授は,日本臨床衛生検査技師会が現在取り組んでいる臨床検査の標準化およびデータベース化事業の意義を強調し,「検査に必要な標準物質の測定値などはかなり普遍化してきた」と一定の成果を認め,事業の推進に期待を寄せた。

腹囲,LDL-Cの診断基準改訂の可能性
特定健診の診断基準は,各学会の診断ガイドラインなどを参考に設定されているが,各学会によって診断目的,基準範囲が異なるため,判定基準値の妥当性には再検討の余地がある。
司会の三宅氏〔現・八潮駅つばめクリニック(埼玉県)院長〕は,国内外の学会の基準と比較して,特定健診の腹囲やLDLコレステロール(LDL-C)値の判定基準値が適切かどうかは疑問であると述べた。

数値測定だけでなく質的検査も
特定健診における階層化は,腹囲測定と血糖値,脂質,血圧,喫煙歴に関する数値の測定という2段構えで行われる。
三宅氏はまず腹囲に関して,わが国における判定基準値(日本基準)は男性85cm,女性90cmであるが,国際糖尿病学会(IDF)が定めた日本人の基準値(IDF基準)では,男性90cm,女性80cmと相違がある点を指摘し,適正値の検討を行った。
 
検討には,九州大学大学院社会環境医学講座環境医学分野の清原裕教授らが行った福岡県久山町の疫学研究が用いられた。
 
久山町研究において,日本基準とIDF基準を心血管病発症の相対危険度から男女別に比較したところ,男性では,IDF基準で基準値以上を示す群の発症リスクが,基準値未満の群に比べ1.8倍に上昇したのに対し,日本基準では,基準値以上を示す群は基準値未満の群に比べ1.2倍にとどまっており,女性についても同様の傾向が見られた。
 
三宅氏はこの傾向を踏まえ,「今後特定健診における腹囲の判定基準値が変わる可能性もある」と述べた。
 
続いて,心血管疾患の危険因子として注目されるLDL-Cの保健指導判定値や受診奨励判定値(LDL-C基準値)の適正値の考察がなされた。
 
現在,LDL-C基準値は日本動脈硬化学会が作成した動脈硬化性疾患予防ガイドライン(GL)に基づいて決められているが,加齢状況や高血圧,糖尿病といったLDL-C以外の主要危険因子が1つ〜3つ以上存在する中〜高リスク群向けの脂質管理目標値に合わせている(表)。

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そこで,動脈硬化性疾患の危険因子を1つも持たない低リスク群に対しても,中〜高リスク群並みの判断基準が適用されることになり,受診者が抱えている心血管疾患リスクと保健指導,受診奨励の整合性が保たれないケースも出てくることから,将来的にはLDL-C基準値の改訂が行われるべきであるとした。
 
さらに同GLでは,LDL-C値の算定について,コレステロール値や中性脂肪値を用いて計算するFriedewaldの式(F式)で求めるが,特定健診では直接測定法で求めている点にも着目すべきだとして,測定値に試薬間差が生じるとされる直接測定法をあまねく用いるべきかどうかも慎重な判断が求められるという。
 
ただし,F式が適用できない脂質異常の受診者にも対応できたり,直接測定法を全国に浸透させることで,試薬や測定法の確実性の上昇が期待できるなどの利点も示された。
 
同氏は「特定健診では検査項目に含まれる測定値ばかりが独り歩きしがちだが,LDL-C値だけでなく,サイズにも注意を払うなどし,受診者に本質的な説明・指導ができるように努めなければならない」と主張した。

精度管理は問題点の改善を主眼に
特定健診などでは,計測に用いられる試薬などの精度管理が必須であり,その管理には検査室内での内部精度管理と,検査室間の外部精度管理が存在する。
浜松医科大学の菅野剛史名誉教授は,各検査室における精度管理の優劣ばかりが取りざたされがちであることを指摘し,表面化した問題点をどのように改善していくかにこそ注目すべきだとした。
外部精度管理の統一化を

2008年から始まった特定健診によって,計測の信頼性はより注目されるようになってきており,その信頼性を確保する精度管理の在り方も再考が必要だと言われている。
 
菅野名誉教授の考察では,内部精度管理を担う検査医が抱える課題として,精度管理の成績を重視する考え方から問題点を重視する考え方への変更,測定で得られる推定値が持つ幅(不確かさ)の概念を理解し,健診などの計測値の評価に結び付けることの2点が挙げられた。
 
前者の考え方の変更には,検査医が率先して病院長などの施設管理者に働きかけ,セミナーなどを開催し,安定して正確な測定結果を得ることが精度管理の本義であり,検査室ごとに精度管理の優秀さを競うものではないことを周知徹底させることが必要だとした。
 
後者の不確かさの理解には,計測値の検証を慎重に行い,最良の推定値(定められた値)のみで判断しないよう医師に求めるべきだとした。
不確かさが理解されれば,例えば特定健診において,保健指導の対象となる中性脂肪の判定値は150mg/dLであるが,測定結果が149mg/dLや151mg/dLとなった際に,推定値の幅を考慮して,より健診受診者の実態に適した判定を下せる。
 
また,計測値の検証には,測定値の持つばらつきが何の因子によるのか,試験誤差によるのかなどを検定する分散分析の理論に基づき,日間,日内における測定値の変動幅を算出し,臨床医に提示することが求められるとした。
 
さらに,外部精度管理の3つの課題として,
(1)測定の基準を定める評価の原点となる目標値の共通化
(2)臨床医から提案された評価基準や,日本臨床検査標準協議会(JCCLS)が定めた生理的変動幅の2分の1という基準の妥当性の検証
(3)妥当な不確かさの数値の設定
―などを挙げた。
 
同名誉教授は「外部精度管理の統一化のため,日本医師会,臨床検査医学会,臨床検査技師会など関連する学会などが一堂に会し,検討すべき時期が来ているのではないか」と述べ,特定健診の広がりとともに,精度管理の普遍化を図るべきであるとの見解を示した。

出典 Medical Tribune 2009.2.26(一部改変)
版権 メディカル・トリビューン社

<きょうの一曲> Gal Costa - Ipanema
http://www.youtube.com/watch?v=j46YrtG5W0M&feature=related


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小絲源太郎 「春雪」
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by wellfrog3 | 2009-03-11 00:13 | その他
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