日本人の病態の特徴を考慮した薬剤選択のポイントや,第3世代スルホニル尿素(SU)薬であるグリメピリド(アマリール®)の位置づけをめぐり討議された沖縄での座談会の記事で勉強しました。
座談会 2型糖尿病の治療戦略 ―経口血糖降下薬の使い方― 司会: 田仲 秀明 氏 医療法人秀明会田仲医院院長 コメンテーター: 南條 輝志男 氏 和歌山県立医科大学内科学第一講座教授 出席者: 仲地 健 氏 医療法人翔南会翔南病院代謝内分泌科医長 比嘉 盛丈 氏 豊見城中央病院糖尿病・生活習慣病センター センター長 平良 剛 氏 地方独立行政法人那覇市立病院内科科部長 日本人の2型糖尿病の主体は非肥満・インスリン分泌不全型 田仲 はじめに,日本人の病態の特徴についてご教示ください。 南條 日本人の2型糖尿病は,白人に比べてインスリン分泌能が低く,血糖値の軽度上昇によりインスリン分泌が大きく低下することが知られています。 また,肥満度が高いほどインスリン抵抗性が増大しますが,日本人の2型糖尿病患者の平均BMIは23.1と米国人の32.3に比べて低く,高度肥満と判定されるBMI 30以上の有病者数も欧米より著明に少ないという特徴があります〔曽根博仁ほか:内科 97(1),16-21,2006〕。 田仲 日本人の2型糖尿病は非肥満かつインスリン分泌不全型が多いというお話でしたが,本土に比べ肥満の頻度が高いとされる沖縄県の現状はいかかでしょうか。 仲地 当院では,特定健診・特定保健指導の実施に伴い,肥満を有する住民の二次検査を担っています。そこで腹囲90cmを超える方々のインスリン分泌を検討したところ,男女ともに白人と同様,インスリン分泌過剰の傾向が見られました。 沖縄県民全体とは一概に言えませんが,背景に肥満,脂質異常などを有する場合は,高インスリン血症にも注意する必要があると感じています。 比嘉 病態に即した治療を行うべく,受診患者のほぼ全例にOGTTを施行しているのですが,われわれの検討においても,ご指摘のように高インスリン血症の症例が多く見られました。 長期安全性,経済効率の観点からも推奨されるSU薬 田仲 沖縄県の2型糖尿病は本土とはやや異なる病態を示しているということですが,いかがでしょう。 南條 沖縄県の病態は,肥満・インスリン抵抗性型が増加しつつある本土の状況を先取りしたものと考えられ,今後も注目していくべき重要な現象だと思われます。 しかしながら,当科の2型糖尿病患者657例を対象に発症前からのBMIを検討した結果,BMI 25以上であった症例は34.1%,BMI 25を超えたことがない症例は31%,一時でも超えたことがある症例は34.9%でした。 こうしたことから,現時点での日本人の一般的な病態はいまだ非肥満・インスリン分泌不全型が中心であり,インスリン分泌促進作用を持つSU薬は,日本人の2型糖尿病治療において重要な役割を担っていると言えるのではないでしょうか。 長期安全性と経済効率という観点から見ても,SU薬は推奨される薬剤です。私は肥満がなければSU薬を,肥満があれば生活習慣改善をそれぞれ選択し,効果不十分な場合には,SU薬同様に長期安全性と経済効率に優れたビグアナイド(BG)薬を併用していく治療戦略が妥当であると考えています(図1)。 平良 私自身,ほぼ南條先生にお示しいただいたアルゴリズムの通りに診療しています。 肥満例については食事・運動療法を行い,効果不十分な場合はBG薬を選択していますが,次の一手をどうするかは十分に検討すべきだと思います。 初期治療,肥満例には少量のSU薬投与が有用 田仲 沖縄県特有の病態として,インスリン抵抗性の強さが挙げられるとはいえ,初期治療を始める段階ではインスリン分泌低下の影響も見逃せません。 肥満例にはSU薬を処方しないという考え方がある一方,SU薬を必要とする症例を経験されていると思いますが,肥満例におけるSU薬の処方について,先生方はどのようにお考えでしょうか。 南條 肥満亢進への懸念から,SU薬は肥満例に処方しづらいと考える先生方もいらっしゃいますが,考慮すべきは使い方だと思います。 SU薬は少量の処方であれば肥満例にも有用ですし,血糖コントロールが不良な症例において,SU薬で糖毒性を改善する意義は大いにあると言えます。 田仲 初期治療におけるSU薬の使用法についてお聞かせください。 平良 グリメピリドであれば1mgを1日1回,あるいは軽症,または高齢者の場合などには0.5mgを1日1〜2回といったように,少量からの開始が基本になると思います。 仲地 優れた血糖降下作用を実感していただくと患者さんの治療意欲も高まりますので,当院では1mg/日からの開始を基本にしています。 図2のように新規症例に対するグリメピリド約6か月の投与で,平均HbA1C値が1.1%低下しており,とりわけ非肥満でインスリン分泌低下のある症例では,良好な血糖コントロールが期待できる薬剤だと思います。 専門医・プライマリケア医で薬剤選択が異なる理由 田仲 SU薬には二次無効や低血糖への懸念も言われていますが,これらについてはどのようにお考えでしょうか。 南條 SU薬治療中の2型糖尿病患者を対象に,グルカゴン負荷試験によるインスリン分泌能の経年変化を追跡したわれわれの検討では,HbA1C値8.5%以上の血糖コントロール不良例では年々有意にインスリン分泌が低下し,膵β細胞の疲弊が認められました。 ところが,HbA1C値8.0%程度以下の例では,長期においてほとんど変化が見られませんでした。つまり,二次無効とはSU薬に特異的な現象というより,糖毒性に因る部分が大きいと言えます。 また,低血糖の懸念についても,グリメピリドのような低血糖の発現頻度の少ない薬剤を少量から処方することによって回避しうると考えています。 糖尿病専門施設では,SU薬が併用を含めて72%の割合で処方されていますが(図3),プライマリケア医の先生方は二次無効や低血糖の懸念から,専門医とは少し乖離した薬剤選択をされています。 こうした現状を見ますと,私たち専門医が適切な薬剤選択について広く情報提供していく必要性を痛感します。 田仲 特定健診・特定保健指導の実施に伴い,今後はよりいっそう,2型糖尿病治療におけるプライマリケア医の先生方の役割が高まってくることが予想されます。 そうしたなかで,本日は日本人の病態に即した2型糖尿病治療について,われわれ専門医が伝えるべきテーマについて有意義な議論ができたと思います。 出典 Medical Tribune 2009.3.19(一部改変) 版権 メディカル・トリビューン社 小杉小二郎 エッフェル塔の見える風景 http://www.oida-art.com/buy/detail/7702.html <自遊時間> ■医学雑誌「臨床と研究」H20年12月号の特集は「新型インフルエンザと季節性インフルエンザ」でした。 今まではインフルエンザと言っていましたが、「季節性インフルエンザ」という呼び方は言い得て妙です。 しかし「新型インフルエンザ」は季節性がないという意味でもあり何だか不気味でもあります。 ■少し前の日本内科学会雑誌に「内科専門医」が「総合内科専門医」へ呼称変更になるという「会告」が出ていました。 永井理事長のアナウンスメントの一部を紹介させていただきます。 日常診療に追われて「内科学」というものがどういうものかを見失いそうになります。 理事長の言葉は、ある意味で自分が選んだ「内科学」を振り返らさせてくれます。 (画像をクリックすると大きくなります)
by wellfrog3
| 2009-04-03 00:23
| 糖尿病
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