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2型糖尿病治療におけるSU薬の役割

近年,新たな作用機序を持つ経口血糖降下薬が続々と登場しています。
2型糖尿病治療はさまざまな選択肢を獲得しました。
しかしその半面,治療が複雑化することとなりました。
インスリン分泌促進作用を持つスルホニル尿素(SU)薬は,本邦における2型糖尿病治療の根幹をなす薬剤として専門医の間で最も処方されてきました
第3世代SU薬グリメピリド(アマリール®)と第2世代SU薬グリベンクラミド(ダオニール®)の違いについては一般に十分には認知されていない現状があります。

きょうは、第3世代SU薬をとりあげた座談会の記事で勉強しました。

2型糖尿病治療におけるSU薬の役割 ― 第3世代SU薬の利点を探る ― 
司会:
二宮 一見 氏 二宮内科クリニック院長
コメンテーター:
犬飼 浩一 氏 埼玉医科大学内科学内分泌・糖尿病内科准教授
出席者(発言順):
佐々木 正孝 氏 斉藤ささき医院院長
金子 博純 氏 金子胃腸科内科院長
斉藤 文子 氏 中の橋斉藤クリニック院長

第3世代SU薬グリメピリドの有用性
二宮 
本日は岩手県で専門に糖尿病治療を担っておられる先生方にお集まりいただき,2型糖尿病治療における経口血糖降下薬の適正な選択について,SU薬を中心に討議してまいります。
 
まずはコメンテーターとしてお招きした犬飼先生に,SU薬新規処方時における薬剤選択についてご解説いただきたいと思います。

犬飼 
私は糖尿病治療の講演会では,血糖コントロール不良の2型糖尿病患者に第2世代SU薬であるグリベンクラミドを新規処方される場合があるか否かをお尋ねするようにしています。
答えは「他にも選択肢がある」になると思います。
というのも,ADA/EASDコンセンサスにおいてもグリベンクラミドは,グリメピリドやグリクラジドと比較して低血糖のリスクが大幅に高いため,使用が推奨されていません。
私自身も体重増加,心血管イベント抑制を考慮し,新規の2型糖尿病患者にはグリメピリドを処方するようにしています。

二宮 
経口血糖降下薬を未投与の2型糖尿病患者にグリメピリド0.5mg/日を投与し,3か月後にHbA1C値が0.7%有意に低下したという報告もありますが(図1),新規発症例に対するグリメピリドの少量投与について,先生方のご印象はいかがですか。

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佐々木 
われわれの施設においても新規発症例ではグリベンクラミドではなく,おもにグリメピリドを少量から投与しています。
特に非肥満かつ食事・運動療法を励行してもHbA1C値が7%を超えているような症例には,グリメピリドの少量からの投与が有用であるという印象を持っています。

金子 
当院においても,新規にSU薬を投与する場合は少量のグリメピリドから始めています。
低血糖の心配がある症例では,例えば1mgのグリメピリドを1日1回投与していたところを,0.5mgの2回投与に分けるといった工夫をしています。

斉藤 
経験上,少量のグリメピリドで低血糖を起こしたことがなかったので,多くの実地医家の先生方にも処方しやすいと思います。

二宮 
第2世代と第3世代SU薬では低血糖発現リスクには差がありますか。

犬飼 
Dillsらの試験によると,グリメピリドはグリベンクラミドに比べて低血糖発現率が低いことが報告されており(図2),私の経験からも同様な印象を持っています。

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グリメピリドは長期投与でも膵β細胞を疲弊させない
二宮 
SU薬と二次無効の関係について日常臨床でお感じになられていることはありますか。

佐々木 
私の経験上ですが,投与期間が数年にわたってもグリメピリドが二次無効をきたすという印象は持っておりません。

犬飼 
UKPDSでは,SU薬による治療開始後1年まで膵β細胞機能が改善し,その後は経時的な低下が見られました(図3)。

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しかし,これはSU薬だけでなくメトホルミンや食事療法でも認められています。
私の経験では,グリメピリド投与患者でいわゆる「二次無効」は見られておりません。


二宮 
グリメピリドのインスリン抵抗性改善作用についてはいかがでしょうか。

犬飼 
日常の臨床において,グリメピリドがインスリン抵抗性を改善するという期待はあまり持たれないと思いますが,グリメピリドはPPARγを用量依存的に活性化させるという報告もあります(図4)。

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二宮 
心筋虚血に対する影響についてもご解説いただけますか。

犬飼 
グリメピリドは虚血による心筋プレコンディショニングに重要な役割を持つ心筋細胞内のミトコンドリアKATPチャネルを抑制しないことから,虚血プレコンディショニングを消失させないことが報告されています(図5)。

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確かに,当科でもグリメピリドを投与している患者さんでは心血管イベントの発症率は低い印象があります。


佐々木 
虚血プレコンディショニングの面でグリメピリドは優れていると認識していましたが,犬飼先生のお話から,その臨床における影響を考慮した薬剤選択が求められていると感じました。

グリベンクラミドからグリメピリドへ切り替える理由
二宮 
グリベンクラミドは歴史の長い薬剤ですから,いまだ臨床の場でも投与されている症例は多いのではないでしょうか。

斉藤 
われわれの施設では,少量のグリベンクラミドで血糖コントロールが良好であれば投与を継続することもあります。

佐々木 
血糖コントロールが不良な症例では,積極的にグリメピリドへの切り替えができると思います。
ただ一方で,グリベンクラミドによって長期間安定した血糖コントロールが保たれている症例に対してまで薬剤を切り替えるベネフィットはあるのでしょうか。

犬飼 
糖尿病患者が心筋梗塞を起こす危険度は健常人の3倍以上と言われているなか,欧米では心筋梗塞を直接死因とする糖尿病患者は40〜50%を占めており,わが国でも虚血性心疾患が直接死因として増加しています。
また,糖尿病の急性心筋梗塞ははっきりとした症状がないことが多いので,すべての患者に虚血プレコンディショニングを考慮した薬剤が必要だと思います。
血糖コントロールが良好か否かにかかわらず,私は原則的にはグリベンクラミドからグリメピリドへ切り替えを行っております。
なお,グリベンクラミドの長期・高用量投与例,非肥満例に関しては,グリベンクラミドの投与量を減らすなどむしろ積極的な対策を取りながら切り替えを進めていくことを推奨します。

二宮 
最後に,2型糖尿病治療における薬剤選択について先生方のご意見をいただけますか。

佐々木 
当院では,SU薬の投与を先延ばしにしたまま,HbA1C値が10%を超えてしまっているような患者さんがしばしば紹介で来られる現状があります。
背景には一部糖尿病を専門とされていない先生方がSU薬の処方に慎重になられている傾向があるのだと思いますが,グリメピリドは2型糖尿病の治療戦略を立てるうえでベースになる薬剤であるということをお伝えしたいと思います。

金子 
私の経験では,特に初期治療において,SU薬投与の有無がその後の血糖コントロールに大きな差を生む印象を持っています。
糖代謝を正常に近付けることは膵β細胞の保護にも寄与すると考えられますから,初期治療においてもSU薬を積極的に投与し,良好な血糖コントロールを維持する治療をしていただきたいと思います。

二宮 
グリメピリドは低血糖の懸念や膵β細胞の疲弊が少なく,長期間にわたる治療が可能な薬剤であることを本日の討議ではお伝えできたかと思います。

出典 Medical Tribune 2009.4.2
版権 メディカル・トリビューン社

by wellfrog3 | 2009-04-18 00:10 | 糖尿病
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