血管性と神経性:間欠跛行の見分け方

ASOに特徴的な間欠跛行は,腰部脊柱管狭窄症(LSCS)の症状に類似しています。
両者の鑑別は臨床上重要です。

今日は,三重大学医学部附属病院整形外科講師・病院教授の笠井裕一氏による間欠跛行にみるLSCSとASOの鑑別ポイントの解説記事で勉強しました。


A Sign of atherosclerosis
整形外科疾患と閉塞性動脈硬化症(ASO)との鑑別
―血管性と神経性:間欠跛行の見分け方―


Q 整形外科診療におけるASOの現状について教えてください

A ASOの合併頻度は高齢化とともに増加しており,当院の血管エコーを用いた調査では,男女ともに10人に1人はASOが進行していることが示されました。

近年,深刻な高齢化が進むわが国では,骨粗鬆症・腰椎疾患等の整形外科疾患ならびに動脈硬化性疾患が急増し,その対策が急務となっています。
全身の動脈硬化症の一部分症であるASOは下肢の冷感やしびれ感,間欠跛行といった症状で知られていますが,こうした症状は,腰椎疾患であるLSCSの症状に類似しているため,足の痛みなどを主訴としてASO患者が整形外科を受診するケースがよくあります。
 
実際に,整形外科疾患で当科に入院した患者244例の下肢ASO合併頻度を血管エコーで調査したところ,全体の9.8%,つまり10人に1人にASOの所見を認めました(図1)。

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また驚いたことに,従来,男性に多くみられるASOですが,本調査での合併頻度は男女ともほとんど変わりなく(表1),たとえ症状がなくても,高齢になれば画像上では動脈硬化が女性も男性同様に進行していることが窺えます。
また,ASO患者の5年生存率は乳がん患者の乳房切除術後の5年生存率よりも低いことが報告されています。
このように,ASOはきわめて生命予後の悪い疾患であるため,糖尿病,高血圧症,脂質異常症,喫煙習慣など動脈硬化症の危険因子がある患者さんでは,ASOを見逃さないようにすることが重要です。

Q ASOを見逃さないためには,どのようにスクリーニングをすればよいでしょうか。

A LSCSとASO,双方の間欠跛行の特徴を把握し,問診で痛みについて詳しく尋ねましょう。
ASOの疑いがあればABI測定が有用です。

整形外科疾患であるLSCSと,動脈硬化性疾患であるASOとでは,歩くと足が痛む,しびれるという間欠跛行の症状がよく似ています。
しかし,LSCSによる間欠跛行は神経性であり,ASOでは血管性のため,その病態は大きく異なります。
 
LSCSとASOを鑑別するための有用な項目を表2にまとめました。
これらの項目をチェックしていく際に重要な最初のステップは,やはり問診です。
例外はあるものの,痛みやしびれ感が両側性であればLSCS,片側性であればASOを考えます。
痛み・しびれ感を感じる部位としては,ASOでは「ふくらはぎ」と答えられる方が多く,LSCSでは「臀部から脚全体にかけて,走るような動きのある痛み」とよく表現されます。
特に痛みが出ている際に,前屈みになっていただくと痛みが取れる場合や,日によって症状が現れたり消失したりすることがあれば,LSCSと考えられます。そしてASOに特徴的であるのは,「冷感」です。
外来での限られた時間のなかで,効率的に症状を聞き出すためには,医師のほうから「足に冷たい感じはありますか?
寝ているときでも布団から足が出ているような感じがしますか?」などと具体的に尋ねる工夫が大切です。
 
糖尿病,高血圧症,脂質異常症,喫煙習慣など動脈硬化症の危険因子がある患者さんでは,ASOを疑い足背動脈の触知を行うことが奨励されます。
とはいえ,日常臨床では触診になかなか時間が取れないことも多いことでしょう。
こうした際はABIを測定し,客観的なデータを得て診断することが有用です。一般に,ABI<0.9では血管性と考えられますが,ASO予備軍はABI 0.9〜1.0の間にも潜んでいるケースが多いため,注意が必要です。


Q ASO治療について教えてください。

A 冷感・しびれ感などの下肢虚血症状を軽減し,将来の血管イベントを抑制することがASO治療の第一義です。
ASO治療薬ベラプロストは,この双方の観点から期待できる治療薬の1つです。

ASOの治療では,冷感・しびれ感などの自覚症状の軽減,および血管イベント発生の抑制が第一義となります。
薬物治療においてはおもに抗血小板薬が用いられますが,PGI2誘導体であるベラプロストナトリウム(ドルナー®錠,以下ベラプロスト)は抗血小板作用に加え血管拡張作用,血管平滑筋増殖の抑制作用などを有することが知られており,ASO患者の冷感や間欠跛行を改善することが報告されています(図2,3)。


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メタ解析でASO患者の全身の血管イベント発生を抑制したと報告されているベラプロストは,ASO治療において,冷感等の自覚症状の改善のみならず,患者さんの予後を左右する血管イベント発生抑制についても期待される薬剤だと考えています。
当科でも,ASOが疑われる症例には,運動療法などとともに,ベラプロストの投与を開始しています。
また,高齢者が増加する昨今では,整形外科疾患にASOが潜在している可能性を念頭において治療に望む姿勢が大切だと言えるでしょう。
ASOとLSCSとの合併例ではベラプロストが奏功することをよく経験していますので,LSCSの治療薬を一定期間投与して改善がみられなければ,ベラプロストに切り替えるようにしています。

出典 Medical Tribune 2009.4.16
版権 メディカル・トリビューン社


<関連サイト>

重症高血圧治療薬静注用Clevidipine   2008.10.22
http://www.medmk.com/mm/mailmg/1295_mg.htm
■ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬(dihydropyridine calcium channel blocker:CCB)クレビジピン/Clevidipineの静脈内投与(IV)製剤(Cleviprex - The Medicines Company;日本未開発)が、降圧薬としてFDAに承認された。 
■米国で販売されるIV CCBとしては2番目で、ニカルジピンの静注薬(Cardene IV;ペルジピン注射液2mg,10mg,25mg[アステラス製薬]等)が10年以上前から使用されている。 
IV ニカルジピンと同様に、おそらくクレビジピンは、主に集中治療室(ICU)、手術室、救急部において緊急の降圧を行う場合に使用される。
<コメント>
■高血圧治療剤の注射剤は、「手術時の異常高血圧の救急処置「および「高血圧性緊急症」(悪性高血圧、高血圧性脳症、解離性大動脈瘤、急性左心不全等による)に主に使用される。 
ニカルジピン塩酸塩(ペルジピン注射液2mg,10mg,25mg[アステラス製薬]等)、ジルチアゼム塩酸塩(ヘルベッサー注射用10,50,250[田辺三菱製薬]等)およびアルプロスタジル アルファデクス(注射用プロスタンディン500[小野薬品工業]等)でいずれも静注用。
米国では静注用降圧剤が年間320万人に使用(2006年、MEDCO社による)、多くはニカルジピンが使用されてきた。 
超短時間作用型静注用降圧剤酪酸クレビジピンが2008年9月15日に米国発売され、これを今回評価する。
<要約>
■ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬クレビジピンのIV製剤が、降圧薬としてFDAに承認された。
■IV CCBとしてはニカルジピンに続く2番目の薬剤で、主にICU、手術室、救急部において緊急の降圧を行う場合に使用される。
■本剤は、周術期または他の急性高血圧において、短時間で効果的に血圧を低下させることができ、重篤な有害事象も見られていない。

<新型インフルエンザ関連>
新型インフル届け出、医師側が判断を―厚労省が通知2009年5月10日 21時13分
http://www.excite.co.jp/News/society/20090510/Cabrain_21925.html
■厚生労働省は5月9日、各都道府県などに対し、新型インフルエンザの症例定義や届け出様式を改定する通知を出した。
4月29日に通知した届け出基準では、迅速診断キットの結果がA型陰性かつB型陰性でも、診察した医師が感染を強く疑う場合は、法の規定で直ちに届け出を行わなければならなかったが、今回の改定では、感染を強く疑う根拠に乏しい症例がある現状を踏まえ、症例定義を満たしていても、海外への渡航暦や患者の症状などから医師が明らかに感染していないと判断した場合は、届け出る必要はなくなった。
医師側の裁量を広げると共に、余計な検査を省くことで、診断の効率化を図る。なお、症例定義と様式自体は前回と変わらない。

■改定された届け出では、まず医師が新型インフルの疑似症患者と判断した場合、症例定義に基づき、最寄りの保健所に連絡。
保健所は各都道府県や厚労省などに報告し、中央感染症情報センターの「疑い症例システム」に入力する。
 
■各都道府県などは、疫学的に感染の疑いが濃厚かどうかなどを勘案し、感染症法が定める「感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由」に該当するかを検討。
保健所はその結果を医師に伝え、「正当な理由」のある患者については、医師が都道府県知事に届け出る。
最終的な確定検査は当面の間、国立感染症研究所が行うとし、確定した患者(または無症状病原体保有者)について、医師は保健所に届け出る。

■厚労省が5月9日に各都道府県などに対して行った事務連絡では、迅速診断キットでA型陰性の場合、疑似症患者の連絡をする前に、
▽インフルエンザ特有の症状の有無の確認▽10日以内のインフルエンザ様症状を持っている人との接触歴の確認
▽新型インフルが蔓延している国への渡航暦や滞在暦の再確認
▽他の疾患の有無などの確認(A群溶血性レンサ球菌咽頭炎など)
―を各医療機関に求めている。

<コメント>
「各医療機関に求めている」・・・変更前も変更後も今の今、ネットでみて知りました。
厚労省はこの現実をどのように考えているのでしょうか。
勿論、最前線の現場を知らないので、このことは何も考えていないはずです。

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by wellfrog3 | 2009-05-10 00:24 | リハビリテーション科
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