基礎インスリン補充療法の重要

持効型溶解インスリンアナログ製剤による早期の基礎インスリン補充による治療が重要であるという内容の座談会で勉強しました。

特別企画
倉敷インスリン講演会
Clinical Experience with Lantus on Type 2 Diabetes Mellitus "New Horizons"
臨床成績に見る2型糖尿病における基礎インスリン補充療法の重要性と今後の展望

米国糖尿病学会(ADA)/欧州糖尿病学会(EASD)コンセンサスの2型糖尿病治療アルゴリズムは,早期の基礎インスリン補充による治療を行うことの重要性を強調している。
一方で,HbA1C値が不良であるにもかかわらずインスリン導入までに数年を要していることは世界的傾向であり,わが国も例外ではない。
 
1日1回投与で24時間にわたり生理的な基礎インスリン分泌パターンを再現しうる持効型溶解インスリンアナログ製剤であるインスリングラルギン(遺伝子組換え)(以下,グラルギン,商品名:ランタス®)を用いた基礎インスリン補充療法は,こうした現状打開に有望な一手段として期待されている。
 
そこで,グラルギンの使用経験が豊富なイタリアのペルージャ大学教授のGeremia B. Bolli氏をお迎えし,糖尿病治療における早期からのインスリン補充療法の重要性とグラルギンの位置付けについてお話しいただいた。

座長:
加来 浩平 氏 川崎医科大学内科学 教授
演者:
Geremia B. Bolli 氏 University of Perugia, Italy 教授

早期からの基礎インスリン補充療法を推奨したADA/EASDコンセンサス
2型糖尿病はさまざまな合併症を伴う進行性の病態だが,疾患初期には自覚症状がなく,早期治療の必要性を理解していない患者も多い。
しかし,将来の合併症発生を最小限に食い止めるには,早期からの適切な治療開始が不可欠である。
そのことを改めて知らしめたのが,2008年に発表されたUKPDS(United Kingdom Prospective Diabetes Study)の長期追跡結果であった。
10年間の厳格な血糖コントロールの継続は,細小血管障害だけでなく,心血管(CV)イベントのリスクをも有意に減少させたのである。
 
しかし,欧米でHbA1Cの管理目標値である7.0%または6.5%未満を維持している患者は少ない。Brownらのデータでは,診断から複数の経口血糖降下薬(OHA)併用による治療に至るまでのHbA1C7.0%超の継続期間は3〜5年であった。
こうした長期の血糖コントロール不良状態の継続が合併症発症の重要因子であることは明らかである。
 
Bolli氏は「血糖コントロール不良の原因は患者の怠慢に帰されることも多いが,医師がインスリン導入を躊躇してきたことも否めない」と指摘。
しかし,「今日では,新製剤の開発や新知見の発表により,早期から優れた積極的治療が可能になっている」と強調した。
 
ADA/EASDはこうした状況を鑑み2006年に2型糖尿病治療コンセンサスアルゴリズムを発表。
診断時から生活習慣改善とメトホルミンを併用し,3か月の治療でHbA1C値7.0%未満とならない場合,基礎インスリン補充療法かSU薬などのOHAの追加を推奨した。
また,2008年には,新薬の開発を考慮して若干の改定が行われ,基礎インスリンとSU薬の追加は,「十分に検証された中心的治療法」に位置付けられた(図1)。

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Bolli氏は「国際学会が早期からの基礎インスリン導入を重要視したことは非常に意義がある」とし,早期基礎インスリン補充療法の根拠として,
(1)最新のGLP-1アナログ製剤とDPP-IV阻害薬(いずれも本邦未承認)も含め,OHAには使っているうちに効果が失われる"二次無効"が起こりうること,
(2)高血糖の是正にはインスリン補充療法が最も優れること,
(3)最近の基礎・臨床データで,インスリン早期導入による膵β細胞機能不全の発症抑制作用が示唆されていること
−を挙げた。
さらに「日本人には欧米人と比べて膵β細胞機能不全が関与している患者が多いと考えられ,早期からの基礎インスリン補充療法の必要性もさらに高い」と付け加えた。


基礎インスリン補充療法による低血糖回避の重要性
ADA/EASDコンセンサスは,2型糖尿病のインスリン療法として世界的に普及している混合型の1日2回投与については推奨していない。
混合型中心のレジメンでは,投与後に作用のピークが数回発生するものの,朝食時と昼食時には必要濃度に達せずに食後高血糖が起こり,逆に昼食前や夜間にはインスリン過剰となり低血糖が発現する。
 
低血糖はさまざまな合併症を誘発するため,2型糖尿病治療において低血糖予防は非常に重要である。
特に,緩徐発症自己免疫性糖尿病(LADA)や,インスリン感受性の高いやせ型2型糖尿病患者の低血糖リスクは高い。
また,長期血糖コントロール不良や高齢の患者はCV高リスク群であり,低血糖発現が重大な帰結を招きうる。
 
2008年に発表されたACCORD(Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes)試験が,皮肉にも血糖コントロール強化療法群で総死亡の有意な増大のため,中止となったことは記憶に新しい。
要因として血糖コントロール強化療法群の低血糖発生率が著明に高かったことが指摘されている。

基礎インスリン補充療法に最適なグラルギン
グラルギンは,血糖降下作用の明らかなピークを示さず,皮下組織への吸収が緩徐で24時間作用が持続するため,ほぼ1日にわたり生理的なインスリン分泌パターンを再現できると言われる。
Bolli氏は,定常状態の1型糖尿病患者24例を対象に,臨床用量での基礎インスリン作用について検討した結果を紹介し,グラルギンの1日1回投与は,基礎インスリン補充療法として適切であることが示唆されたことを明らかにした(図2)。

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また,グラルギン1日1回投与でほぼ1日にわたって効果が持続することは,種々の2型糖尿病患者における試験でも確認されているという。
例えば,Treat-to-Target Trialでは,6か月の治療で,空腹時血糖値(FPG)を198mg/dLから117mg/dLに,HbA1Cを8.6%から7.0%に低下させた。
最終的な投与量は47単位であった(Riddle MC, et al: Diabetes Care 26: 3080-3086, 2003)。
また,Mullinsらによる解析対象3,175例のメタ解析では,HbA1C7.0%を達成した場合の低血糖発現リスクはグラルギン群がNPHインスリンに比較して約30%低いことが示されている(Mullins P, et al: Clin Ther 29: 1607-1619, 2007)。
 
さらに,OHA治療にて血糖コントロール不十分な2型糖尿病患者に対する基礎インスリン追加併用の長期効果を検討した試験では,グラルギン群全患者が1日1回投与でHbA1C7.1%を達成。
さらに平均投与量は0.44単位/kgであり,グラルギンは比較的少ない投与量でHbA1C値を改善することが示され,1日1回の基礎インスリンと位置付けることができる(図3)。

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(図をクリックすると大きくなります)
 
Bolli氏は「HbA1C8.0%〜10.0%の患者群でHbA1C高値に寄与している原因は,おもに食後高血糖よりも空腹時高血糖なので,まずFFF(Fix Fasting First),つまり基礎インスリン補充療法により空腹時高血糖を改善することは病態生理学的にも理にかなっている。
その後,食後高血糖を主要な食事(日本では夕食の場合が多い)の直前の速効型/超速効型追加インスリンで下げるのが基本のレジメンである」と指摘。
なお,HbA1C7.0%を超えるようであれば,食前の速効型を追加することにより,1日2回投与に増やし,さらに進行した場合は1日3回投与へと移行する,
即ちBasal-Bolus療法である。また,ADA/EASDコンセンサスで推奨されているように,基礎インスリン補充にメトホルミンやSU薬を併用し血糖コントロールを改善することも可能であるという。特に,安価で有効性の高いSU薬は併用薬として優れているという。
 
Bolli氏は「いずれにしろ,インスリン導入に際しては,HbA1C値に対する影響と低血糖リスクとのバランスを考え,HbA1C値が7.0%未満,FPGが100mg/dL未満,食後2時間血糖値が150mg/dL未満となるように各患者に至適な用量調節を行うことが重要である」と強調。
「適切なタイトレーションは必須だが,例えば,日本人に多いやせ型の2型糖尿病患者にグラルギンを投与する場合は,欧米のデータよりも少量で同等の効果が期待できるのではないか」と述べた。
 
最後にBolli氏は「早期に基礎インスリン補充療法を開始し,生理的インスリン分泌パターンを維持すべきだが,実際には投与されていない患者は多く存在する。われわれ医師はこれまでインスリン導入を躊躇する傾向にあったが,インスリンは薬物ではなく,身体に本来備わっているホルモンであり,糖尿病患者ではそれが欠損しているために補充が必要なのだということを改めて認識する必要がある」と指摘し,講演を締めくくった。


出典 Medical Tribune 2009.5.21(一部改変)
版権 メディカル・トリビューン社
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by wellfrog3 | 2009-06-07 00:41 | 糖尿病
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