最近、ぶった覚えもないのに手指に皮下出血を起こして来院された中年女性の方が来院されました。
その時はAchenbach症候群という疾患を知りませんでした。 その後偶々以下の記事が目に留まりました。 ある日突然出現し、繰り返す手指の痛みと血腫 「突然ズキッと激しい痛みがあった。気付いたら指が紫色になっていたんです」。 熊本市立病院皮膚科部長の木藤正人氏は、以前から、患者からのこうした訴えを度々受けていた。だが、血液検査を行っても異常がなく原因が分からない。 「知らないうちに、どこかで打ったりしたんじゃないですか」などと説明していた。 その後、木藤氏は、海外の論文でこうした病態に合致する疾患を発見した。 その名はAchenbach(アッヘンバッハ)症候群。 国内での報告はなかったため、2000年ごろから自ら症例報告を行ってきた(「皮膚科の臨床 2006;48:1567-70」)。 Achenbach症候群は、外傷や血液凝固能異常などの明らかな誘因がないにもかかわらず、突然、手指や手掌(まれに足趾・足底)などに痛みや痺れ、つっぱりといった異常感覚が生じ、同部位に血腫が形成される疾患。 その後、浸潤性の皮下出血や紫斑を残し、数日から数週間持続した後に自然消失する。 こうした出血発作は繰り返され、短時間に頻回の人もいれば、数年ごとの人もいる。 好発部位は、示指、中指。 中でも中節部と基節部に出現することが多い。50歳代以降の女性に多く認められる。 これは、1955年にAchenbachにより提唱された疾患概念だ (「Medizinische 1958;52:2138-40」)。 海外では、Achenbachが報告した以降に、同一病態と考えられる症例が、「finger apoplexy」「acute blue fingers」「the non-ischemic blue finger」などと異なる名称で報告されてきたものの、現在はAchenbach症候群の名称が一般的になっている。 原因としては、加齢に伴う局所の血管の脆弱性が疑われているが、はっきりとはしていない。 本人が気付かないくらいのちょっとした刺激などを契機に微小血管が壊れ、血腫を作るのではないかと考えられている。 血液検査などを行っても異常所見は見られず、特別な治療を行わずとも自然消退する。 ただし、「同様の症状を反復することが多いため、『内科的異常があるのではないか』『脳出血などを起こすのではないか』と、患者の不安は強いようだ」と木藤氏は話す。 痛みなどの異常感覚とともに出血を来す疾患を考えた場合、鑑別すべき疾患としては、psychogenic purpra、Davis紫斑などがある。 他の紫斑病と鑑別するには、血小板数、血液凝固機能などの一般的な検査が必要だ。 Achenbachの一例。 明らかな誘因がないにもかかわらず、突然、手指や手掌(まれに足趾・足底)などに痛みや痺れ、つっぱりといった異常感覚が生じ、同部位に血腫が形成される(写真提供:木藤正人氏)。 #治療は必要なく、説明だけで十分 木藤氏は、外来で毎年4〜5人はこうしたケースに遭遇している。 「患者は突然、びっくりするぐらいの強い痛みを感じるようだ。血腫ができると、腫脹で神経や血管が圧迫されるためか、痺れが起こったり指が蒼白化する人もいる。時には、屈曲などの運動が障害されることもある。血腫は、初めは狭い範囲だけで、それから徐々に指全体に広がっていく。通常、痛むのは初めだけで長くは続かないが、腫脹感など違和感は続くケースもある」(木藤氏)と話す。 特別な治療は必要ないが、患者は不安で受診する。 それだけに、「患者が納得できる説明を通じ、安心してもらうことが最も大切だ」と木藤氏は強調する。 しかし、多くの医師は、一般的な検査結果に異常がないため診断に困ってしまう。 結局、外傷でできた皮下出血だと判断し、「気付かないうちにどこかにぶつけたんでしょう」などと言ってしまいがちだ。 木藤氏は、「突然、強い疼痛を伴って発症するため、患者は症状が起きた時のことを鮮明に覚えている。誘因になるようなことを何もしていないのに外傷が原因だと説明されても、患者は納得できず、ドクターショッピングを繰り返すことになってしまう」と話す。 「実際、自分も過去にそういった対応をして、『打撲して気付かないほど呆けてはいない』と怒られてしまったことがある」と振り返る。 また、患者への説明の際には、皮下血腫を繰り返したとしても、内臓的な要因や特定の原因になりやすい基礎疾患もない点を強調しておくことが欠かせない。 <Achenbach症候群の概要> ●特徴 突然、手指や手掌に痛み、痺れ、つっぱりなどの異常感覚が出現し血腫を形成。そうした症状を繰り返す。明らかな誘因はなく、中年以降の女性に多い ●経過 浸潤性の皮下血腫、紫斑を残し、数日から数週間で自然消失 ●主な鑑別疾患 psychogenic purpra、Davis紫斑など ●治療の要否 治療は必要ない http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t044/200904/510344.html 出典 NM online 2009.4.23 版権 日経BP社 <番外編> 採血による血腫や神経損傷はどこまで病院の責任?(一部改変) (南出 行生=シリウス総合法律事務所) 採血の際は、終わったらしっかりと指で圧迫して押さえるよう、患者さんにあらかじめ注意を喚起しておく必要があります。 異常があれば、よく観察して止血を指導すれば普通は血腫になることはないでしょう。 それでも血腫ができ、痛みで通院治療を要したような場合は、過失の有無はさておき、患者さんとよく話し合って、ケースによっては治療費の支払いなどを考慮することが現実的な解決方法かもしれません。 適切な手技によって採血しても神経が損傷する場合はあり得ます。 損傷が皮神経であれば、完全に回避することは不可能な合併症と考えられますので、病院の義務違反とはならないでしょう。 正中神経など深い部分の神経が損傷されることは通常はありませんが、正中神経の損傷が認められれば、過失が推定されて賠償責任を負う可能性は高いと思われます。 ごくまれではありますが、カウザルギー(末梢神経損傷後に起こる強い疼痛)や反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)になると、難治性で症状も重くなりがちです。 そのため、訴訟に至るケースも増えますが、過失がなければ責任を負う必要はないのが原則です。ただ、カウザルギーやRSDは発症の機序も解明されておらず、特にRSDは医学的見解の対立もあって診断が難しいのが現状です。 遺伝的素因の問題もあるので、裁判所の評価や判断も難しいものになります。 ご存じのとおり、採血には、動脈血採血、静脈血採血、毛細管血採血があります。 動脈血採血は、動脈血培養、血液ガスおよびpHの分析目的で医師により行われます。 看護師が扱うのは静脈血採血と毛細管血採血ですが、通常の血液検査で行うのは静脈血採血です。 採血時に起こり得る合併症としては、 (1)血腫、 (2)神経損傷、 (3)感染症 がありますが、注射針の穿刺行為そのものから起こるのが(1)血腫と(2)神経損傷です。 採血時の合併症と注意点—血腫 まず血腫ですが、通常は指でしっかり押さえて止血すればそれほど大きな問題にはならないと思われます。 しかし血腫が大きいと、動脈を損傷したのではないか、あるいは静脈を必要以上に損傷したのではないかとの疑いを持たれてトラブルになったり、まれには血腫が神経を圧迫するというケースもあります。 「穿刺部が腫れてきた」と患者が異常を訴えたときに、どうせ大したことはないだろうと考え、「しっかり押さえてください」と単に伝えるだけで観察を怠ると、「皮下出血を認識した後に、原告による止血が十分行われるよう注意すべき義務を怠り、皮下出血を生じさせた注意義務違反がある」と認定されることにもなりかねません。 看護師が採血をした場合でも、患者から何らかの異常の訴えがあれば、必ず医師自ら観察して指導してください。 看護師の静脈注射はあくまで「診療の補助行為」(保健師助産師看護師法第5条に規定)として認められているに過ぎないのですから、後で問題になります。 病院が適切に指導したにもかかわらず、血腫ができ痛みが強くなって通院したというようなケースでは、病院に責任があるかどうかの判断は微妙です。 しかし、「圧迫しても止血できないほど多く出血したのは、手技がまずかったためだろう」と訴えられる可能性は十分にあります。 話し合って、治療費を負担する程度の解決を図るのが現実的かもしれません。 採血時の合併症と注意点—神経損傷 次に神経損傷ですが、神経を刺した場合は電撃痛や強い放散痛などがあるので、「痛い!」という大きな反応で分かります。 患者さんが痛みを訴えたときは、すぐに針を抜いて中止すべきで、そのまま同じ部位に注射針を刺入したことが過失であるとした判例もあります。 採血で損傷する可能性がある神経としては、正中神経、尺骨神経、橈骨神経、内側前腕皮神経、外側前腕皮神経などが考えられます。 このうち正中神経、尺骨神経、橈骨神経などは比較的深いところを走行していますので、通常は損傷することは考えにくいでしょう。 神経を刺したときの電撃痛は皮神経である場合が多いと思われます。 しかし、血管を探ろうとして深く刺し過ぎると、筋膜を隔てて深層にある正中神経を損傷し、正中神経麻痺を起こしてしまうことはあり得ます。 そうなると、不適切な穿刺であったとして過失が推定されますので、医療過誤となる可能性は高くなります。 もちろん、その患者さんの正中神経の走行が通常と異なっていて予測不可能だったという場合もなくはないでしょうが、その立証責任は医療者側が負うことになり、難しい証明を強いられることになるでしょう。 内側前腕皮神経や外側前腕皮神経の場合は、神経が皮膚を通っています。 前腕に分布する皮神経の走行は体表から判断することは難しく、神経の分布は個人により異なるため、事前に走行を予見することは不可能といわれています。 採血や静脈注射は神経の走行を直視して行う手技ではないので、神経損傷を完全に避けることはできないのです。 従って、通常の適切な方法で採血しても皮神経を損傷することはあり得ます。 ある判決では「前腕皮神経に関しては、静脈のごく近傍を通過している前腕皮神経の繊維網を予見して、その部位を回避し、注射針による穿刺によって損傷しないようにすることは不可能である」とし、別の判決では「内側前腕皮神経が肘正中皮静脈の皮膚側を走行しているような場合などは、適切な手技での採血によっても、神経損傷が生じ得るのであって、事前に認識することはできないことが認められるから、そのような場合は、仮に神経損傷が生じたとしても不可避な合併症と理解される」としています。 カウザルギーとRSD 採血時の注射などの軽微な外傷を原因として、カウザルギーやRSDなどを発症すると、症状は重く治りにくくなり、訴訟に発展する可能性は高くなります。 カウザルギーとは、外傷性の神経損傷によって発生する灼熱痛、アロデニアと呼ばれる疼痛、痛覚の異常過敏です。 RSDは、外傷をはじめとするさまざまな原因によって発症し、持続する難治性疼痛あるいは血管運動障害、発汗障害などの自律神経症状を伴う症候群のことです。 RSDは通常は神経損傷を伴わないものを指します。 いずれも、発生の機序は諸説あるものの、解明されてはいません。 遺伝的素因も関係しているといわれています。特にRSDについては医学的な見解の対立もあって診断が難しいようです。 なお、世界疼痛学会では両者を合わせて、CRPS(complex regional pain syndrome)と定義しています。 筆者も、健診センターが実施した健康診断で採血後にRSDになったとして、高額な賠償請求を受けた事件を担当した経験があります。 病院の過失の有無は微妙で、患者の心因的要素の問題もありました。 しかし、まだ手技ミスがあったかどうかも分からない初期の時点で謝罪したことや、異常の訴えがあった時点で関係者から事実関係の確認もしていなかったことなど、対応のまずさもあって、和解で解決しました。 RSDは診断の難しさに加えて、非常に軽微な外傷にもかかわらず症状が重くなりがちで、患者さんの性格などの精神的素因も関係していると説明されることが多いという特徴があります。 そのため、裁判所も判断に苦慮するようです。 損害の公平な分担という観点から患者さんの心因的要素の寄与を認め、損害額を減額(素因減額)しているケースも少なくありません。 患者さんからクレームがついたときは軽視しないで事実関係をしっかり調査し、採血時の状況や神経損傷の部位なども究明しておくことが必要です。 難治性の疼痛などの訴えがあれば、カウザルギーやRSDを疑って、手の外科など専門医の受診を勧めるとよいでしょう。 http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/hdla/200803/505683.html NM online 2009.3.11 アルベール・マルケ(Albert Marquet)の「ポワシーのセーヌ河(La Seine a Poissy)」 http://blog.livedoor.jp/gonzaemon2007/archives/cat_50215395.html <きょうの一曲> さとうきび畑 さとうきび畑 森山良子さん http://www.youtube.com/watch?v=5Jdz6ajcSeg&feature=related さとうきび畑 ちあきなおみ +たんぽぽ児童合唱団 http://www.youtube.com/watch?v=laOhvV4Db3w&feature=related さとうきび畑の唄 Satoukibi Batake http://www.youtube.com/watch?v=Vg-0_KnUAVk&hl=ja 他にもブログがあります。 ふくろう医者の診察室 http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy (一般の方または患者さん向き) 葦の髄から循環器の世界をのぞく http://blog.m3.com/reed/ (循環器科関係の専門的な内容) 「井蛙内科/開業医診療録(2)」2008.5.21? http://wellfrog2.exblog.jp/ 井蛙内科開業医/診療録 http://wellfrog.exblog.jp/ (内科関係の専門的な内容)
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| 2009-08-11 00:11
| 皮膚科
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