2009年 03月 01日 ( 1 )

パンデミック対策

第56回日本ウイルス学会での「インフルエンザ」に関する記事で勉強しました。

報道でご周知のように、「うずらの新型鳥インフルエンザ」がごく最近起こりました。

ふくろう切り抜き帖 2009.3.1
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy/archive/2009/03/01
耳の不調
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy/30290287.html

臨床と基礎の両面からパンデミック対策を検討
2003年以降,鳥インフルエンザによる感染が拡大し(図),ヒトにおいても300例以上の感染が報告されている。
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現在流行しているH5N1型インフルエンザウイルス(以下,H5N1ウイルス)がヒトに伝播しやすい性質を獲得した場合,1918年のスペイン型インフルエンザ以上の被害をもたらす可能性があり,世界中で懸念が広がっている。
岡山市で開かれた第56回日本ウイルス学会(会長=岡山大学大学院小児医科学・森島恒雄教授)のシンポジウム「臨床から基礎へ,基礎から臨床へ―鳥インフルエンザから新型インフルエンザへ―」(座長=森島教授,広島大学大学院創生医科学専攻探索医科学講座ウイルス学・吉田哲也教授)では,最新情報の共有を目的として研究成果が報告された。


サーベイランスによるウイルスの国内侵入監視体制を強化
感染ルートの遮断が重要
■H5N1ウイルスのおもな伝播経路は,貿易などの人為的な鳥や物資の移動に加え,2005年ころから野鳥から家禽への感染ルートも少なからず懸念されるようになった。

■鳥取大学農学部附属鳥由来人獣共通感染症疫学研究センターの伊藤壽啓教授は「渡り鳥のウイルス保有調査などのサーベイランスを強化することと感染ルートの遮断が重要」と強調した。
HA遺伝子の変異で高病原性ウイルスに

■伊藤教授らは,25年以上前から山陰地方に飛来する渡り鳥のウイルス保有状況の調査を続けている。
最近の研究では,ニワトリのひなの気嚢にH5亜型のウイルスを直接接種して体内で継代する実験を行い,効率よく増殖するウイルスに変化することを見出した。
そのウイルスをさらに継代した結果,高病原性ウイルスに変化した。
 
■これらのウイルスのヘマグルチニン(HA)遺伝子の開裂部位の塩基配列では,継代に伴い2回の点変異や3塩基の挿入によって,塩基性のアミノ酸であるリジンやアルギニンの挿入が起こり,最終的にニワトリを100%殺す強毒株に特有の配列に変化していた。
開裂部位以外の遺伝子でも13番目のアミノ酸が変化し,糖鎖付加部位2か所の欠失が継代の途中で発生していた。
 
■ウイルスの侵入ルートとして渡り鳥が想定されても,飛来を止めることはできない。
しかし,養鶏場の鶏舎内への感染ルートを遮断し発生を予防することはできる。

■現在最も有効な予防策として,同教授は「サーベイランス体制を強化してウイルスの国内侵入を監視する以外に,日常の衛生管理の徹底,養鶏場内外の環境整備,野生動物の侵入防止対策などのバイオセキュリティー対策を徹底すること」を挙げた。

プレパンデミックワクチンを開発
免疫原性高めた全粒子不活化ワクチン
■新型インフルエンザ流行に備えたプレパンデミックワクチン開発に関して,国立感染症研究所ウイルス第3部の田代眞人部長は「製造過程でリバースジェネティック技術を駆使して弱毒化し,免疫原性を高めるためにアルミアジュバント添加した全粒子不活化ワクチンを作製した。
免疫原性を高めたこのワクチンの事前備蓄と事前接種がパンデミック対策につながる可能性がある」と述べた。

パンデミックは必ず発生する
■ヒトではH5N1ウイルス感染後に不顕性感染は認められず,ほぼ全例が重症となる。ウイルス感染は呼吸器にとどまらず,全身感染を起こし,さらに免疫系の異常反応(サイトカインストーム)から多臓器不全を起こし,患者の63%が死亡する。その90%が小児か40歳未満の若年成人である。
 
■田代部長は「新型インフルエンザの大流行はいつか必ず発生する。
H5型である可能性が高いが,発生時期,亜型,病原性の程度の予測は現時点では不可能」と話す。
 
■2008年10月に世界銀行が発表した経済被害予測では,パンデミックが香港型インフルエンザ(軽度)程度なら世界の死亡者数は140万人,世界GDPの損失は0.7%と推定される。
アジア型インフルエンザ(中等度)程度なら1,400万人と2.0%。
スペイン型インフルエンザ(重度)程度なら7,100万人と4.8%。スペイン型インフルエンザを超えるH5N1などの強毒型のインフルエンザ(特大)の場合は1億8,000万〜2億5,000万人と5.5%で,その死亡者の80〜90%が発展途上国での発生と考えられる(表)。
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国際的課題としての取り組みを
■新型インフルエンザ対策の柱の1つはワクチンである。しかし,製造過程で従業員がウイルスに感染する可能性などを考慮すると弱毒化が必要である。
 
■そこで,弱毒型ウイルスの開発には東京大学医科学研究所感染症国際研究センターの河岡義裕センター長らが開発したリバースジェネティック技術で遺伝子操作を行い,弱毒化したワクチンの製造株をつくる方法が採用された。

■一方,H5N1ウイルス抗原はヒトに対する免疫原性が低く,ワクチン製造には不適当である。
そのため,アルミアジュバント添加全粒子不活化ワクチンを作製し,免疫原性を高めるとともに,1人当たりの接種必要量を減らした。
 
■臨床試験の結果,ワクチン接種量5,15μgHAで1回接種,または1.7μgHAで2回接種でも有効な免疫が誘導された。現在までに重篤な副反応は認められていない。
 
■ただし,H5N1ウイルスは,HAの遺伝子配列から10系統のクレード(clade;分岐群)に分類される。
ヒトの間で伝播する新型インフルエンザの流行に備えて,ワクチン開発は重要であるが,各クレード間で抗原性は異なる。
 
■田代部長は「ワクチンの開発にどのクレードのウイルスを用いるか,1つのクレードに対して開発したワクチンが他のクレードの流行にどの程度有効か懸念される」と指摘し,「しかし,アジュバント添加でクレードを越える強い交叉免疫が誘導でき,また獲得された免疫記憶は10年以上維持されることがわかった」と付け加えた。
 
■日本では,このようなプレパンデミックワクチンの事前備蓄を進め,パンデミック対策のかなめとする方針である。
しかし,新型インフルエンザが出現してから接種をしても間に合わない可能性もあるため,現在行っている臨床研究の結果を見たうえで,事前接種を行うことも検討している。
 
■同部長は今後の国際的課題として,
(1)中和抗体測定法の標準化と抗体価表示方式の統一
(2)パンデミックワクチンの臨床試験における有効性評価の基準の設定
(3)抗体の交叉反応性と免疫の持続期間の解明
(4)高リスク群の患者に対する安全性と有効性のエビデンスの集積
―などを挙げた。

スペイン型インフルエンザ発生時を応用した公衆衛生学的な対応も必要
■新型インフルエンザ対策は未知の疾患の流行に対する準備である。
過去に経験されたもので最大の被害の記録が残されたスペイン型インフルエンザ流行時の対応を応用し,医学的観点だけでなく社会的コンセンサス,文化や行政の仕組み,予算,現実性も考慮する必要がある。
国立感染症研究所感染症情報センターの岡部信彦センター長は「パンデミック発生時には行政的な判断の担当者,医療関係者,メディア関係者がパニックにならないことが重要であり,可能な限りの情報提供を速やかにしておくことがわれわれの役割である」と述べた。

social distancingなどを活用する場合も
■世界保健機関(WHO)が提唱するパンデミックのフェーズ1〜6と整合性を取りながら,日本では5段階を想定している。未発生期の前段階。

■海外の発生期である第一段階。国内発生早期の第二段階ではウイルスを封じ込める水際作戦として発生の監視,患者隔離,予防投薬などを行う。
拡大期から蔓延期の第三段階では厳重な隔離を行い,社会への病原体の漏れを防ぐ意味がなくなるため隔離は解除し,中等症〜軽症者は自宅療養とし,重症者中心の入院対応に変換する。
 
■公衆衛生の対応として,個人衛生と「social distancing」がある。
後者は感染予防のために人間同士の距離を開ける古典的な方法だが,スペイン型インフルエンザ流行時に米国の複数の都市で劇場や教会,学校などを閉鎖したところ,死亡率が低下したとの記録がある。
 
■厚生労働省新型インフルエンザ専門家会議では,感染拡大を可能な限り抑制し,健康被害を最小限にとどめ,社会経済を破綻に至らせないようにするため,現在はガイドラインの修正版についての検討が進められている。
 
■新たなパンデミックと同時にせっかく抑え込んでいる感染症が流行する場合もある。
現行の予防接種などわれわれが持つ感染症へのリスク対策を十分に活用し,一般市民にも今できることは何かを示す必要がある(岡部センター長)。

感染者の肺炎発症機序を解明
■2003年からベトナムでH5N1ウイルスによるインフルエンザの病態解明と疾患の治療に携わり,現在はアムステルダム大学で学術医療センター微生物学部門を統括するD. de Jong Menno氏は,感染者の多くが肺炎を呈する理由について,肺炎を起こすレセプターが下気道のみに存在することを指摘。
「トリ型レセプターのα2-3結合型のシアル酸ガラクトースは患者の肺胞と気管支のみに認められ,H5N1ウイルスが結合して肺炎を起こすと見られる」と述べた。

ウイルスの複製に免疫応答が関与か
■Menno氏によると,インドネシアの患者25例の鼻腔,咽頭,気管,気管支の分泌物を採取し定量逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法でウイルス量を測定したところ,鼻腔で最も値が低く,咽頭と気管,気管支で高かったという。
 
■ベトナムのH5N1ウイルスと季節性インフルエンザに感染した患者の咽頭スワブの観察結果では,前者でウイルス量の値が高く,さらに前者の生存例と致死例の比較では致死例でウイルス量の値が高いことがわかった。
 
■さらに,ウイルスは肺だけでなく他の臓器にも影響し,多臓器不全を起こす。末期患者は敗血症様の症候群を呈し,また多くの患者はリンパ球減少症と血小板減少症を示す。H5N1 RNAの存在は致死例の血液中のみに認められ,生存例の血液中には認められなかったことから,血液中のウイルスの存在と播種は転帰を不良にすると考えられる。
 
■ウイルスの複製のコントロールが困難な理由については,免疫応答が関与する可能性がある。
H5N1ウイルスはインターフェロン(IFN)反応を回避し,直接免疫細胞に影響して免疫応答に悪影響を与え,マクロファージと樹状細胞に影響すると見られる。
 
■ウイルス排除に重要な適応免疫の構成過程に悪影響を与える可能性もある。
最終的にH5N1ウイルスはT細胞リンパ球減少も誘発する。
 
■H5N1ウイルスをin vitroで感染させた気道細胞は,サイトカインとケモカインの発現を誘発する。
同ウイルスに感染した患者ではIFNγ- inducible protein 10(IP-10)などのケモカインが顕著に認められ,過剰に誘発されたケモカインは肺組織にマクロファージを引き寄せる。
マクロファージはその後インターロイキン(IL)-6,IFNγなどを分泌する。
IP-10,単球走化性蛋白質(MCP-1),IL-8,IL-10などのサイトカインおよびケモカインの値とウイルス量には明らかな正の相関が認められた。

■サイトカインの一部はH5N1ウイルスにより制御されると考えられる(岡部センター長)。

出典 Medical Tribune 2009.2.26(一部改変)
版権 メディカル・トリビューン社


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by wellfrog3 | 2009-03-01 15:18 | 感染症