2009年 03月 15日 ( 1 )

日本人糖尿病患者の薬剤選択

日本人の病態を考慮した薬剤選択のポイント,特に第3世代スルホニル尿素(SU)薬グリメピリド(アマリール®)の位置付けについて討議した
座談会
糖尿病治療の新しい戦略 ―日本人の病態に即した薬剤選択―
の記事で勉強しました。

現在,わが国の糖尿病患者のうち半数が医療機関を受診しておらず,受診中の患者についてもHbA1C値が6.5%以上を示すコントロール不良例が8割にのぼるとみられている。
一方,糖尿病専門医は限られており,地域ごとに病診連携を進めて未受診・治療中断患者に受診を勧奨し,さらに日本人の病態に即した治療を行う必要がある。
 

司会:
大分大学看護学科 地域・老年看護学講座 濱口 和之 教授 
コメンテーター:
富山大学附属病院 小林 正 氏 病院長
出席者(発言順):
内科阿部医院院長 阿部 信行 院長
大分県立病院内分泌代謝内科 瀬口 正志 部長 
古国府クリニック 伊東 康子 副院長


治療中断の背景に経済的理由
濱口 
本日は,日本人の病態を踏まえた糖尿病治療のあるべき姿や,SU薬の位置付けをめぐり,大規模臨床研究J-DOIT2(Japan Diabetes Outcome Intervention Trial)を手がけられた小林先生にコメントをいただきながら,大分県の糖尿病専門医の先生方とともに討議してまいりたいと思います。
はじめに,先生方が日常感じておられる糖尿病治療の実態についてお聞かせください。

阿部 
当院で2008年9月に受診された糖尿病患者1,253人の平均HbA1C値は6.8%でした。
HbA1C値7%未満が64.4%,HbA1C値6.5%未満が38.8%を占めていました。

小林 
すばらしい成績だと思います。
現在,本邦の糖尿病患者820万人中半数の410万人は,未受診ないし治療を中断していると推測されています。
しかも,受診中の患者410万人のうちHbA1C値6.5%以上を示す例が271万人にのぼるとみられることから,実に681万人もの方が合併症のリスクにさらされていると考えられます。

瀬口 
当施設は基幹病院としての性格上,紹介患者も多いため,阿部先生の施設のように良好な成績は得られていないのが現状です。
特にインスリン療法を行っている方々のコントロールが不良なのですが,食事・運動指導に十分な時間を割けないジレンマを感じています。

伊東 
治療を中断される患者さんが多く,再受診されたときはHbA1C値が10%前後となり,合併症が悪化している例が少なくないことを残念に思っています。
治療中断の理由をお聞きすると,世相を反映してリストラに遭われた,ガソリン代が高騰したため通院できなくなったといった経済的な理由を挙げる方が目立ちます。

小林 
当施設も経済的な理由から治療を中断される患者さんが多く,地域医療連携室のソーシャルワーカーが随時ご相談に乗るようにしています。
ただ,生活保護を受けておられる方であれば医療費免除も可能ですが,問題は生活保護の対象外で経済的に困っておられる方々が増加していることです。

瀬口 
生活保護対象外の生活困窮者が増加している現状では,SU薬や,ビグアナイド薬のメトホルミンのような患者さんに経済的負担が少ない薬剤選択を考える必要があると考えています。

小林 
HbA1C値を1%低下させるために要する薬剤費において,グリメピリドは大変安価だと思います。われわれ医師は患者さんの経済的な負担の軽減に配慮する必要があるかもしれません。


インスリン分泌不全型には早期からの血糖コントロールを
濱口 
日本人の2型糖尿病の病態は,一般に欧米人に比べインスリン分泌が低く,また肥満も少ないと指摘されていますが,先生方の印象はいかがですか。

阿部 
日本人の病態として,インスリン分泌不全型が多いことは確かだと思います。
したがって,私は患者さんにインスリン分泌を示した図をお見せしながら「空腹時血糖値(FPG)が110mg/dLになるまではインスリン分泌は増加していますが,それを超すとインスリン分泌は低下します」と説明しています。
また,糖尿病発症時既に膵β細胞機能が健常人の50%程度であり,高血糖の持続によりさらに低下していくというデータをお示しし,早期からの血糖コントロールの重要性を強調しています。

伊東 
インスリン分泌が低いにもかかわらず,感受性が高いために食後2時間ぐらいで血糖値が下がる患者さんも少なくありません。空腹時インスリンの測定値がHbA1C値のように標準化されることを望んでいます。

瀬口 
もう一つは,もともとインスリンの初期分泌が低いうえに食後の分泌が遅延過剰を示す方が多いのも特徴的だと思います。

濱口 
では,日本人の病態の特徴であるインスリン分泌不全型の場合,初回治療としてどのような経口薬の投与を考慮すべきでしょうか。

瀬口 
非肥満型で典型的なインスリン分泌不全の患者さんはグリメピリド少量投与から開始することもありますが,初回治療の場合,低血糖をなるべく起こさないような安全策をとって,チアゾリジン薬やαグルコシダーゼ阻害薬,ビグアナイド薬を選択することが多い現状です。

伊東 
働き盛りの男性の場合,夕食時間も遅くなりがちですので,αグルコシダーゼ阻害薬やグリニド系薬を用いたほうが,低血糖が避けられるという考えかたもあります。
しかし,服薬コンプライアンスの悪い方であれば,本来は1日1回投与で済むSU薬のほうが有用です。
また,グリベンクラミド(ダオニール®)の場合,夕食時間が遅くなると低血糖を来すことがありましたが,グリメピリドは半減期が短いため,特に少量で用いる限り低血糖のリスクは少ないと考えます(表1)。
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患者さんは朝1回の服薬で血糖値が改善することを実感されると,さらに治療意欲が向上するようです。

小林 
2008年9月,UKPDS(United Kingdom Prospective Diabetes Study)試験終了後に,平均8.5年間フォローした成績が報告されましたが,早期治療介入群では,糖尿病に関連するあらゆるエンドポイント,細小血管症,心筋梗塞などのリスク低下が試験中とほぼ同等に維持できており,このようなLegacy Effectが注目されます(表2)。
やはり,日本人の病態に即した早期からの血糖コントロールが重要だと思います。

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グリメピリド少量4か月投与でHbA1C値6.5%未満に
濱口 
小林先生はグリメピリド少量投与の有用性を検討されたそうですが,結果をご紹介いただけますか。

小林 
私たちが,経口糖尿病薬服用歴のない2型糖尿病患者を対象にグリメピリドを少量より投与開始した臨床試験の結果,投与翌月からHbA1C値が有意に低下し,4か月後には6.5%を切ることができました()。
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なお,こうした良好な血糖コントロールは肥満度にはかかわりなく認められています。
ただ,FPG 120mg/dL未満の症例については低血糖に対する注意が求められます。


濱口 
実地医家の先生方のなかには,SU薬は血糖値が悪化してから使う薬剤と認識されている方もおられるようですが,糖尿病専門医の立場からご意見をお聞かせください。

阿部 
私はHbA1C値が7%を超えればFPGも高値であると考え,低血糖の指導をしたうえでグリメピリドを開始しています。
グリメピリドは,伊東先生が指摘されたように服薬コンプライアンスがよく,グリベンクラミドに比べ低血糖の頻度も少ない印象です。

濱口 
グリメピリドは,グリベンクラミドに比べ心筋細胞のATP感受性カリウム(KATP)チャネルに対する作用の違いから,心筋梗塞時などの虚血プレコンディショニングに影響を与えないというデータもありますね(表3)。

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阿部 
その意味でも,グリメピリドは第3世代SU薬といえますね。

濱口 
実地医家の先生方がSU薬の使用を躊躇されるもう1つの理由として二次無効への懸念があるようですが,いかがでしょう。

伊東 
SU薬の二次無効といわれる状態は,結局のところ高血糖状態が長期にわたって継続し,SU薬に反応しなくなったということではないかと考えています。
SU薬自体が糖毒性を引き起こしているのではないと思います。

小林 
UKPDS試験の結果でも,SU薬,メトホルミン,食事療法にかかわらず膵β細胞機能は同様の経時的な低下をたどっていますので,やはり高血糖の影響とみてよいと思います。
病態に即した薬剤選択で The treat to targetを
濱口 
SU薬投与によりコントロール不良となった場合,単剤のまま増量するか,併用するかという点についてはいかがお考えですか。

阿部 
私はそのような場合,メトホルミンやαグルコシダーゼ阻害薬を併用することが多く,SU薬単独投与より有用性が高い印象があります。

瀬口 
軽症のうちに早期からグリメピリドで治療した患者さんは,長期にわたり単剤で治療できることが多いのですが,治療開始が遅れたり,肥満傾向となった場合,併用療法を考慮する必要がある方もおられます。

伊東 グリメピリドは空腹感を訴えることも少なく,膵外作用のインスリン抵抗性改善作用も相まって,体重増加を来す患者さんが少ない印象があります。チアゾリジン薬ではインスリン抵抗性が改善されるメリットがありますが,体重増加が気になります。

小林 
それぞれの薬剤のメリット,デメリットを理解して処方する必要があるのではないでしょうか。

濱口 
ACCORD試験では強化療法群のほうが予後不良であるという結果が出ました。
一方,ADVANCE試験では厳格な血糖コントロール群のほうが細小血管障害のイベントを減らす傾向にあり,特に腎障害は21%減少しています。これらの結果についてはどのようにお考えでしょうか。

阿部 
ACCORD試験では,対象に合併症を持つ高リスク症例が多く含まれていました。このような症例への急激な血糖コントロールで重症低血糖が頻繁に起こったことがイベントの原因のひとつであると考えられています。

濱口 
糖尿病治療の基本はあくまでThe treat to targetであり,個々の病態,背景を重視した薬剤選択が重要だということですね。
その意味では,グリメピリドは日本人の病態に適した特長を備えており,安全性の面や,安価であることからも有用性は高いと考えます。

出典 Medical Tribune 2009.2.19(一部改変)
版権 メディカル・トリビューン社



<番外編>
①小児の解熱にはまずイブプロフェンの単独投与が効果的:PITCH
発熱は就学前の小児によく見られる症状だが、本人にとっては深刻で、親には不安を与え、医療費全体の増加につながる。イギリスでは毎年、就学前の小児の7割が発熱に見舞われ、4割が医療機関を受診し、しばしばパラセタモール(別名アセトアミノフェン)とイブプロフェンが併用または単独で投与されるが、これまで各処方のエビデンスはなかった。そこで、各薬剤の単独投与と併用した場合の効果を比較研究(PITCH)したブリストル大学のAlastair D Hay氏らは、「子供にはまずイブプロフェンを与え、24時間経過したら両剤併用を」と報告した。BMJ誌2008年9月2日号(オンライン版7月4日号)より。

PITCH(Paracetamol plus ibuprofen for the treatment of fever in children)

Hay AD et al. Paracetamol plus ibuprofen for the treatment of fever in children (PITCH): randomised controlled trial.
BMJ. 2008 Sep 2;337:a1302. doi: 10.1136/bmj.a1302.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18765450?ordinalpos=2&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_DefaultReportPanel.Pubmed_RVDocSum

②小児の解熱にパラセタモール+イブプロフェン併用が経済的:PITCH本論は、イギリスの国民医療保健サービス(NHS)で、就学前の小児の解熱によく処方されるパラセタモール(別名アセトアミノフェン)とイブプロフェンに関する有効性等の比較研究(PITCH:Paracetamol plus ibuprofen for the treatment of fever in children)の報告の一つ。Sandra Hollinghurst氏ら効果とコストについて分析結果で、「両剤の併用がコスト面では最も効果が大きい」と報告した。 BMJ誌2008年9月9日号に掲載された。
Paracetamol plus ibuprofen for the treatment of fever in children (PITCH): economic evaluation of a randomised controlled trial.
Entrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_DefaultReportPanel.Pubmed_RVDocSum
BMJ. 2008 Sep 9;337:a1490. doi: 10.1136/bmj.a1490.

http://www.carenet.com/news/det.php?nws_c=6124出典 Care Net.com 2008.10.10
版権 ケア・ネット社



他にもブログがあります。
ふくろう医者の診察室 http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き)
葦の髄から循環器の世界をのぞく http://blog.m3.com/reed/
(循環器科関係の専門的な内容)
「井蛙内科/開業医診療録(2)」2008.5.21~ http://wellfrog2.exblog.jp/
井蛙内科開業医/診療録 http://wellfrog.exblog.jp/
(内科関係の専門的な内容)

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by wellfrog3 | 2009-03-15 00:34 | 糖尿病