カテゴリ:産婦人科( 3 )

ホルモン補充療法と卵巣癌

JAMA2009.7.15に掲載された「50−79歳のデンマーク人女性全員909,946人を1995−2005年まで追跡したところ、閉経後のホルモン剤治療により上皮性卵巣がん(2,681例)のリスクが1.44倍に上昇した」という論文で勉強しました。
「50−79歳のデンマーク人女性全員」というところがすごいところです。
1960年に導入された国民総背番号を使い、薬剤処方登録、地域がん登録など7種類の全国登録を組み合わせて行った、巨大な疫学研究ということです。

#ホルモン補充療法と卵巣癌のリスク
Hormone Therapy and Risk for Ovarian Cancer
いくつかの観察研究において、ホルモン補充療法(hormone therapy:HT)は、卵巣癌のリスクの上昇と関連付けられてきた。
この新しい研究では、デンマークの研究者らは、卵巣を少なくとも1個有し、ホルモン感受性癌の認められない女性900,000人(年齢範囲50~79歳)をプロスペクティブにフォローアップした。
卵巣癌の発症を薬局登録データと関連付けた。

平均8年のフォローアップ期間中、上皮性卵巣癌2,681件が診断された。
多くの人口統計学的因子および生殖関連因子で補正後の解析では、上皮性卵巣癌のリスクは、何らかのHTを使用中の者で44%(高度に有意)、過去の使用者で15%(かろうじて有意)上昇した。HT中止後はリスクが低下し、2年後にベースライン時の値に近づいた。
estrogen単独療法とestrogen+progesterone併用療法の間にリスクに差は認められず、使用期間とリスクの間に関連性は認められなかった。
持続的療法と周期的療法のリスクはほぼ等しく、異なるprogesterone薬物のリスクもほぼ等しかった。
経皮的estrogen投与では13%、経膣的estrogen投与では23%リスクが上昇したが、いずれのリスクも、経口投与のリスクと比較して、統計学的な差は認められなかった。
絶対リスクは、HT使用者8,300人につき約1件の卵巣癌症例の超過であった。

コメント:
バイアスや交絡の原因が多様に存在するため、HTと卵巣癌を関連付ける観察研究は、ランダム化研究ほどの重みはない。
しかし、いくつかの大規模研究がほぼ同じ結論に達したことから、患者とHTについて話し合う際には、たとえ絶対リスクが低いとしても、卵巣癌のリスクを伴う可能性がある点を盛り込むべきである。
今のところ、期間、用量、HTの種類に基づいてリスクを解析する試みは、ほとんど価値がないようである。

— Thomas L. Schwenk, MD
Published in Journal Watch General Medicine July 28, 2009

Citation(s):
Mørch LS et al. Hormone therapy and ovarian cancer. JAMA 2009 Jul 15; 302:298.


http://www.nankodo.co.jp/JWJ/archive/JW09-0728-01.html

2009 July 28


ホルモン補充療法により卵巣癌(がん)リスクが増大
http://health.nikkei.co.jp/hsn/news.cfm?i=20090723hj001hj



以下は2007年Lancet誌に報告された、今回と同規模(948,576人、卵巣がん2,273例)の英国の追跡調査です。
<関連研究>
#ホルモン補充療法で卵巣癌リスク上昇
#罹患リスクは1.2倍、死亡リスクは1.23倍に
ホルモン補充療法(HRT)と卵巣癌リスクとの間には相関関係があるのだろうか。
英国Cancer ResearchのValerie Beral氏らは、大規模コホート研究により、HRT経験のない女性に比べ、HRT中の女性の卵巣癌罹患リスクは1.2倍、卵巣癌による死亡リスクは1.23倍であることを示した。
詳細は、Lancet誌2007年5月19日号に報告された。

英国で行われたUK Million Women Studyは、長期的なHRTと乳癌の関係を示したことでその名を知られている。
この研究に登録され、1996年から2001年に乳癌のスクリーニングを受けた130万人の閉経女性のうち、HRT歴などに関する情報が揃っており、癌の既往がない、両側卵巣摘出術を受けていないなどの条件を満たした約95万人について、卵巣癌と卵巣癌死のリスクを調べた。

コホート研究では、卵巣癌と診断されるまで、または卵巣癌死まで追跡し(卵巣癌罹患が平均5.3年、死亡については6.9年)、それらイベントが発生しなかった女性については、試験期間終了まで追跡した。

卵巣癌の相対リスクは、年齢と子宮摘出の有無で患者を層別化し、居住地域、社会経済的要因、閉経からの年数、出産経歴、BMI、飲酒、経口避妊薬の使用で調整し、Cox回帰モデルを用いて算出した。

計94万8576人(登録時の平均年齢は57.2歳)のうち、HRT歴に関する質問を最後に行った時点で、28万7143人(30%)が治療中、18万6751人(20%)が過去に治療経験ありと回答した。
治療経験なしは47万4682人(50%)。

5億人-年を超える追跡において、2273人が卵巣癌を発症、1591人が卵巣癌で死亡した。
そして、治療経験なし群に比べ、治療中群では、卵巣癌、卵巣癌死ともに有意に多かった。
卵巣癌の相対リスクは1.20(1.09-1.32、P=0.0002)、卵巣癌死の相対リスクは1.23(1.09-1.38、P=0.0006)となった。
さらに、治療中群の卵巣癌罹患率は治療期間と相関しており、5年以上治療継続で有意なリスク上昇が見られた。

なお、治療に使われた薬剤のタイプ(エストロゲンのみが30%、エストロゲン・プロゲステロン併用が59%、その他が11%)、投与法等によるリスクの差は認められなかった。

このほか上皮性卵巣癌と非上皮性卵巣癌の患者の間で、相対リスクに有意差はなかった。
しかし、患者の95%を占めた上皮性卵巣癌の中では、腫瘍の組織学的分類によって、リスクに有意な差が認められた(P<0.0001)。
治療経験なし群に比べ、治療中群の相対リスクは、粘液性腺癌(1.53、1.31-1.79)で大きかった。
それ以外については、漿液性腺癌(0.72、0.52-1.00)、類内膜腺癌(1.05、0.77-1.43)、明細胞腺癌(0.77、0.48-1.23)となった。

なお、過去に治療経験あり群では、卵巣癌、卵巣癌死ともにリスクに有意な上昇は見られなかった。

卵巣癌の5年間1000人当たりの標準化罹患率は、治療中群2.6人(2.4-2.9人)、治療経験なし群2.2人(2.1-2.3人)。
卵巣癌死については、それぞれ1000人当たり1.6人(1.4-1.8人)と1.3人(1.2-1.4人)だった。

以上の結果に基づいて、著者らは、「1991年以来のHRTの適用により、英国では、2005年までに、卵巣癌罹患者が1300人、卵巣癌による死者が1000人増えたと推算できる。
さらにHRTにより、乳癌と子宮体癌のリスクも上昇すること、これら3つの癌は英国人女性の癌の39%を占めることから、HRTのリスクを重く感じている。
これら3つの癌の罹患者率は、5年間1000人当たりで、治療中群31人、治療経験なし群19人になる」と指摘している。
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/int/200706/503393.html

原題「Ovarian cancer and hormone replacement therapy in the Million Women Study」
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140673607605340/abstract


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by wellfrog3 | 2009-08-23 00:10 | 産婦人科

HRTと乳癌罹患率



■米国立衛生研究所(NIH)が閉経後女性を対象に行った大規模前向き臨床試験、Women's Health Initiative(WHI、表1)は、閉経後女性を対象に様々な疾患予防策の評価を図ったものだ。
この中間報告が発表されたのが2002年。

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その中で大きく話題となったのが、ホルモン補充療法(HRT)の“リスク”だった。
不定愁訴に有効ということで長らく行われている治療法が逆に、浸潤性乳癌は26%、虚血性心疾患は29%、脳卒中は41%、いずれも罹患リスクを増やすことが示されたのだ(表2)。


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■WHIは05年までの観察研究という予定だったが、HRT(エストロゲン・黄体ホルモン併用療法)についてはこの結果を受けて急きょ打ちきりとなった。
「WHIの発表後数年間で、HRTを受ける患者は欧米では3割ほど減少。日本の患者数はもともと少なかったが、新聞報道でやはり減少した」。
自身もHRTに取り組む東京女子医大産婦人科教授の太田博明氏は、WHI中間報告の影響をこう振り返る。

対象者や薬剤の選択に異議あり
■もっとも、WHIの中止後に出てきたサブ解析の結果などから、WHI中間報告の妥当性については様々な議論が続いた。まず第一に挙げられるのが対象者の問題だ。
太田氏によると、HRTの試験の対象者には以下のような問題点が挙げられるという。

WHIの対象者の問題点
・平均年齢が約63歳と、高齢
・ビタミンDやカルシウム、サプリメントの摂取、食事制限など、HRT以外の条件による影響が考えられる
・約7割がBMI 25以上だった
・盲検性がなかった
・脱落率がHRT群、プラセボ群ともに40%前後と高かった など
 
■第二の問題は、HRTの試験に使用された薬剤が適切だったかという点。
WHIで用いられたエストロゲン製剤は結合型エストロゲンの経口薬だが、「経口投与と経皮投与では脂質代謝や凝固因子に対する作用が異なる。
経口薬を選択したことで血栓症や脳卒中のリスクが高まった可能性がある」と太田氏は話す。

■エストロゲンと併用された黄体ホルモン製剤もポイントの一つ。子宮摘出術を受けていて子宮がない場合を除き、長期にHRTを行う場合には、子宮内膜の肥厚を抑えて子宮体癌を予防する目的で黄体ホルモンを併用することが多い。
問題は、「この黄体ホルモンが酢酸メドロキシプロゲステロン(MPA)だったこと」と太田氏。
MPAは、ほかの黄体ホルモン製剤に比べて乳癌細胞の抑制作用が弱いといわれるからだ。

■その後のWHIのサブ解析では、結合型エストロゲンを単独投与した場合、HRTは乳癌のリスクを低下させ、50〜55歳では虚血性心疾患のリスクも低下させる可能性があることなどが報告されている。

■WHIの試験打ち切りで冷や水を浴びせられた格好のHRTだが、2007年4月にはTIME誌が「見直されるHRT」として、HRTのベネフィットを得るためには開始する年齢やタイミングが重要と紹介するなど、回帰の動きが広がっているようだ。
実際、減り続けていた患者数も、07年以降は徐々に増え始めているという。

■もっとも、HRTのベネフィットとリスクについては賛否双方の報告が続き、WHI以降も定説といえるものは出ていないのが現状だ。
1996年〜2001年に英国で行われた「Million Women Study(MWS)」という観察研究では、主にHRTの乳癌に対する影響が検討され、03年には「HRTの治療期間に応じて乳癌の発症リスクが高まった」「ホルモン剤の剤型とは無関係にリスクが高まった」といった結果が報告されている。

■また、英国、オーストラリア、ニュージーランドで行われた臨床試験「Women's International Study of long Duration Oestrogen after the Menopause(WISDOM)」の結果も発表されてきている。
HRT(エストロゲンと黄体ホルモン併用療法)は、閉経後女性ののぼせやほてり、性機能、睡眠障害といったQOLを改善したという報告の一方で、閉経後にエストロゲン欠乏症状がない女性(閉経から経過した期間は平均15年)にHRTを行った際には、心血管イベントや静脈血栓塞栓症のリスクが有意に上昇したという報告がされている。

■さらに米国では、「KEEPS」や「ELITE」といった、血管の器質的変化をエンドポイントに置いた新しい臨床試験も始まっているという。

■日本においては、大規模な臨床試験は行われていないが、2004〜05年に行われた厚生労働省の研究班(主任研究者=埼玉医大乳腺腫瘍科教授の佐伯俊昭氏)による調査では、HRTは乳癌の発症リスクを高めないという結果が報告されている。

日本でもようやくガイドライン
■国際的には、次々に報告される試験の結果をフィードバックし、HRTの知見をアップデートしようとする動きは以前から活発だ。
今年(2008年)3月に行われた国際閉経学会(IMS)の第1回世界サミットでは、閉経後すぐのHRTについて、医療者だけでなく、患者やマスコミなどに対しても広くコンセンサスを取る努力をしようという意見がまとまった。
こうした動きに触発されてか、日本の関係学会もHRTのガイドラインを来春には正式に示す意向だ。

■2002年にWHIのHRT試験が中止になった直後、日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本更年期医学会はHRTに対する統一見解を発表。
「HRTを選択する際には患者一人ひとりのリスクとベネフィットを慎重に判断すること」「施行すべきでない患者ではないという確認、治療開始後の効果と副作用の判定を怠らないこと」「肥満や喫煙習慣などリスク因子を有する患者に、心血管系疾患の予防を目的としてWHIと同条件のHRTを行わないこと」——といった内容を示した。
それから実に6年を経て、日本でもようやくHRTのガイドラインがまとめられることになる。

■日本産科婦人科学会の生殖内分泌委員会委員長を務める、徳島大産科婦人科学教室教授の苛原稔氏。
「(WHIのHRT試験中止以来)ようやく見直されるようになってきたとはいえ、HRTのリスクについては医療者の間でもいまだに意見が分かれている。ただ、HRTは更年期や閉経後女性のQOLを改善する上で非常に有用であることは事実なので、他科の医師やコメディカルにも広く理解してもらいたい」。 
日本産科婦人科学会生殖内分泌委員会委員長である、徳島大産科婦人科教授の苛原(いらはら)稔氏は、ガイドライン作成に至った経緯についてこう話す。
これまで集積した内外のデータをきちんと示し、取り除ける不安は取り除いてもらおうということだ。

■HRTについては、いつまで続けるべきかという問題もある。
一部報道で「ガイドラインではHRTの期間を5年以内と定める」とも書かれたが、この点について苛原氏は「現時点で安全と考えられる実施期間は示したいが、それ以外のやり方を否定するものではない」と強調する。

■IMSの2007年の見解では「HRTの実施期間を限定する根拠はない」としており(IMS Updated Recommendations on postmenopausal hormone therapy. CLIMACTERIC 2007;10:181-194)、日本のガイドラインでも期間の限定までは踏み込めないだろう。
更年期症状や骨粗鬆症などの治療という観点からは、投与は短期間にとどめるのが望ましいという意見がある一方、予防という観点からは、定期的に検診を行えば長期の投与でも問題ないという意見がある。
どちらを取るかは、医師および患者の判断に任せられる。

■ガイドラインの内容については、今年11月15〜16日に行われる日本更年期医学会の第23回学術集会で案を公表し、会員の意見を集めるという。
日本産科婦人科学会でも同様に意見を集めて検討し、来年3月には最終決定まで進める方針だ。

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t025/200810/508246_3.html
NM online 2008.10.21


#5年以上のホルモン補充療法が乳癌発症リスクを高める可能性
■ホルモン補充療法(HRT)と乳癌発症リスクとの関連性を示唆する研究結果が示された。
研究は、WHI(Women's Health Initiative)試験結果を解析したもの。
詳細はNew England Journal of Medicine誌2009年2月5日号に掲載された。

■HRTは閉経後女性の更年期症状の治療法として、欧米では多くの女性たちに処方されてきた。
しかし、2002年のWHIの中間報告以降、米国ではHRTの使用が激減。
その後、乳癌の発生率も減少したことから、HRTと乳癌発症リスクとの関連性が指摘されてきた。

■同研究では、WHIの試験結果を解析し、WHIの観察研究コホート群において、一定期間の乳癌発生率を乳癌のリスク因子やマンモグラフィの受診頻度などをみながら、ホルモン補充療法と乳癌発生との関連性を評価した。

■WHIは、1993-1998年にかけて実施された無作為化臨床試験。
対象となったのは50-79歳までの閉経後女性1万6608人で、結合型エストロゲン0.625mg+酢酸メドロキシプロゲステロン2.5mgを毎日投与する群とプラセボ群とに無作為に割り付けられた。

■他方、観察研究コホート群は1994-2005年の間、HRTを使用していない2万5328人と使用している1万6121人を対象に評価した。
両群ともに過去に浸潤性乳癌の既往や子宮摘出はなく、マンモグラフィなどによる検査で乳癌を示す徴候もなかった。

■臨床試験では、最初の2年間はプラセボ群と比べてHRT投与群の方が乳癌と診断される女性は少なかったが、5.6年の介入期間中に投与群で乳癌と診断される数が増加した。

■乳癌リスクはHRTの使用によって上昇がみられたが、HRTを中止すると急速に減少した。
また、観察研究群における乳癌の発生率は、初期にはプラセボ群と比較して投与群が2倍だったが、その差は2年で減少した。

■LA BioMedのチーフ研究者で、同研究の筆頭執筆者であり、治験責任者でもあるRowan Chlebowski氏は、「これらの研究結果から、米国内において乳癌の発生率が最近減少している要因として、エストロゲン+黄体ホルモンの使用が減少したことと関連しているという仮説が支持できます」とし、さらに、「特に5年以上の投与を計画している場合は、これらの調査結果を考慮すべきです」と述べている。

■だが一方で、WHI試験に関しては、対象となった女性の年齢が、50-59歳が33.9%、60-69歳が45.4%、70-79歳が20.7%と高齢であったことや、BMI値が25未満が30.5%、25-30未満が35.3%、30以上が34.2%(数値はいずれもHRT投与群)と肥満傾向にあったことなどを指摘する専門家がいるのも事実だ。

■日本国内では2004年に、「ホルモン補充療法が乳癌の診療に及ぼす影響とその対策に関する研究」(厚生労働省癌研究助成金による研究)が実施され、HRTと乳癌との関連性については否定的な結果が報告されている。
また、今年4月以降には、日本初となるホルモン補充療法ガイドラインが発表される予定だ。

■2002年のWHIの中間報告以来、HRTと乳癌との因果関係については様々な議論が繰り返されてきた。今回の研究結果の発表を受け、また新たな議論が展開されそうだ。
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/search/cancer/news/200902/509433.html
出典 NM online 2009.2.20
版権 日経BP社

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by wellfrog3 | 2009-03-23 00:51 | 産婦人科

HRTガイドライン

第23回日本更年期医学会での「HRTガイドライン作成に向けて」の記事で勉強しました。

2002年の大規模臨床試験WHI(Women's Health Initiative)の中止により,リスクのみがクローズアップされていたホルモン補充療法(HRT)だが,サブ解析の結果や新薬の認可,2009年発表予定のガイドラインの作成など,HRTの意義を再評価する動きが進んでいる。
横浜市で開かれた第23回日本更年期医学会(会長=聖マリアンナ医科大学産婦人科・石塚文平教授)のシンポジウム「日本人におけるHRTのあり方を探る」(座長=弘前大学産科婦人科・水沼英樹教授,東京大学産科婦人科・矢野哲准教授)では,HRTを行ううえで現場の医師が感じる不安を払拭すべく,HRTと乳がん,脂質代謝との関連などについて最新の知見が示された。

WHI後の情報提供に高いニーズ
弘前大学産科婦人科の樋口毅講師は,日本産科婦人科学会と日本更年期医学会が共同で進めているガイドライン作成に先立ち,学会員を対象に行ったアンケート結果を報告,「診療現場からの声としてWHI以降の情報周知徹底や日本人のデータを集めることの必要性を強調する声が多かった」と述べた。

臨床現場の声をガイドラインに反映
アンケートでは,会員98人から306の質問などが寄せられた。
そのうち,「HRTに期待される作用・効果」のトップは,うつ,認知症,情緒障害など精神神経症状の改善効果(33%)についての質問で,これらの症状に対してHRTはどこまでかかわることができるのかという内容が多かった。
次いで,更年期症状(22%),骨量改善(19%),脂質異常(11%)などであった。
 
「予想される有害事象」については,乳がん(38%),出血・子宮体がん(30%)に関する質問が多く,血液凝固・血管疾患(15%),子宮頸がん・卵巣がん(6%)が続いた。
いずれも現時点でのエビデンスをどのように解釈してよいのかという内容が多かった。
このほか,HRTに使用する薬剤の使い分け,黄体ホルモンの併用方法,経口避妊薬からの移行,選択的エストロゲン受容体モジュレーターとの使い分けなど,多くの質問が寄せられた。
 
樋口講師は「臨床現場ではWHI中間報告以降のエビデンスを更年期医療に携わる婦人科医師だけでなく,他科の医師,コ・メディカルおよび患者,ひいてはマスコミに広くかつ正しく伝える有効な方法への需要が高まっている。
ガイドラインでは種々のエビデンスが整理・要約されており,この需要に応える強力なアイテムになると信じている」と述べた。

低用量でも黄体ホルモンの併用を
徳島大学大学院産科婦人科の安井敏之准教授は,ガイドラインの作成や新たなホルモン製剤の発売を踏まえ,「低用量で経皮が望ましい,低用量でも黄体ホルモンの併用は必須」とするHRT処方の進め方を示した。

経口より経皮に軍配か
安井准教授はまず,エストロゲン製剤の種類について,従来からわが国で使われている結合型エストロゲン(CEE)ではトリグリセライド(TG)とC反応性蛋白(CRP)が増加するのに対し,新たに登場したマイクロナイズドエストラジオール(E2)では変化しない点を指摘。
投与経路に関しては,経口では動脈硬化に関連するサイトカインが増加して静脈血栓塞栓症のリスクが上昇するのに対し,経皮では逆にサイトカインが減少することを示した。
 
投与量については,国際閉経学会が低用量を推奨している点に触れ,低用量エストロゲン製剤はホットフラッシュを改善,骨密度を増加,脂質代謝にも有利であり,投与量の増加に伴い脳卒中や血栓症のリスクが高くなることを示した。
 
低用量エストロゲン製剤としてE2の経口剤があるが,CEEの低用量(0.3mg)はわが国では発売されていない。同准教授は「中性脂肪の増加が見られず,性器出血が連日投与に比べてはるかに少ない隔日投与も1つの候補」とした。
 
さらに,低用量のエストロゲン製剤であっても,子宮内膜増殖症の発生を防ぐために黄体ホルモンの併用は必要とし,併用するメドロキシプロゲステロンの量は周期投与の場合5〜10mgで10〜12日間,連日投与の場合2.5mgを推奨。エストロゲン製剤と黄体ホルモン製剤の両方が配合された経皮剤と経口剤が発売予定であることを紹介した。
 
同准教授は「低用量の経皮を推奨しても,フェミエストは現在発売休止中であり,すべての製剤において一長一短があり,なかなか推奨できる薬剤がないのが現実」と断ったうえで,HRT処方の進め方を示した(図)。

経皮製剤に脂質代謝改善の可能性
WHIでHRTが心血管疾患(CVD)のリスクを上昇させることが報告されたことについて,愛知医科大学産婦人科の若槻明彦主任教授は,エストロゲンの投与経路と黄体ホルモンの種類が影響したのではないかとの見解を示した。

経皮でトリグリセライドが低下
閉経後にエストロゲン濃度が減少すると,CVDのリスクが上昇する。HRTは脂質代謝改善作用によってCVDのリスクは低下すると考えられてきたが,WHI報告がそれを覆し,脂質異常症の積極的適応とはならなくなった。
 
若槻主任教授は閉経後の脂質代謝のうちトリグリセライド(TG)に注目し,「エストロゲンが低くなるとTGが高くなり,LDLの小粒子化が進む。
小型LDLは酸化されやすく,酸化して超悪玉化したLDLをマクロファージが一方的に食べて自爆する。自爆したマクロファージは,血管内皮のなかに動脈硬化層を形成する。
つまり,エストロゲン低下による高TG血症が粥状硬化を進める原因となるのではないか」との見解を示した。
 
エストロゲンを補充する場合,TGの上昇を防ぐことが重要な課題となる。
同主任教授は「経口エストロゲンではTGが増加するが,経皮ではTGが低下して酸化されにくい大型のLDL粒子に変化して,血管壁のなかで抗酸化作用を発揮する」として,投与経路を経皮にしたHRTに閉経後の脂質代謝を改善させる可能性があることを示唆した。

年に1回の乳がん検診が不可欠
聖マリアンナ医科大学乳腺・内分泌外科の福田譲教授は「HRT中と治療終了後5年間は2年に1回の検診では不十分」と警告,マンモグラフィと超音波の併用も考慮に入れた年1回の検診が不可欠と強調した。

住民検診だけでは不十分
わが国の乳がん罹患数は約4万人に及び,年齢調整罹患率で女性のがんの第1位,がんによる死亡原因では30〜64歳までの各層で第1位である。
一方,米国では2003年に乳がん罹患率が6.7%減少し,これがWHI臨床試験の中止の翌年に当たることから,HRTの減少が乳がんの減少につながったのではないかとの見方もある。
これについて,福田教授は「乳がんは長期間かかって発症すると考えられており,HRT使用率減少と簡単に結び付けるのは問題がある」との見解を示した。
 
厚生労働省がん研究助成金「ホルモン補充療法が乳がん診療に及ぼす影響とその対策に関する研究」(主任研究者=埼玉医科大学乳腺腫瘍科・佐伯俊昭教授)では,HRT歴がある女性の乳がん発症リスクが少ない(オッズ比0.432)との結果であった。
同教授は「コントロール群の年齢(中央値56歳)が乳がん群(中央値49歳)に比べて高いことから,観察対象期間の長いコントロール群がHRTに曝露される機会が多い。観察対象期間をマッチさせると結論が変わる可能性がある」と指摘した。
 
現在,市町村が行う乳がん検診は,40歳以上を対象とした2年に一度の視触診とマンモグラフィの併用検診である。同教授は,乳がん検診の受診率が20%台にとどまっている点を指摘。
特に,HRT使用者は1年に1回の検診が必要なことから,同教授は住民検診では不十分との見解を示した。
 
さらに,同教授は「HRT使用中は乳腺濃度が高くなることを考慮すると,マンモグラフィと超音波の併用が有効である可能性がある」と述べた。
 
乳がん検診における超音波検査の有効性に関しては現在,厚生労働省研究班が比較試験を実施中で,この結果を受けて住民検診に超音波検診の導入が検討される見込みである。
禁忌とされている乳がん治療後のHRTに関しては,再発リスクを上げるとして中止となったHABITS試験に触れたうえで,「ホルモン感受性のないタイプに限っては,術後4〜5年からHRTを開始してよいのではないか」と述べた。

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奥田元宋 遠山白雪
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by wellfrog3 | 2009-03-22 00:37 | 産婦人科