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糖尿病治療薬と心血管系疾患リスク

FDA/糖尿病治療薬への明示を勧告
心血管系疾患リスクに対する安全性
米食品医薬品局(FDA)は,2型糖尿病治療用の新薬や生物製剤の開発メーカーに対し,FDAのウェブサイトに「真性糖尿病―2型糖尿病の新治療法における心血管系リスク評価」を掲載し,それらの治療法が心筋梗塞などの心血管系イベントのリスクを高めないとするエビデンスを明示するよう勧告した。
この勧告は,業界向けの新たな指針として直ちに実施され,現在開発中のあらゆる糖尿病治療薬に適用される。

開発段階での徹底した検証要求
■FDA医薬品評価研究センター(CDER)代謝・内分泌製品部のMary Parks部長は「われわれは新しい糖尿病治療薬の安全性についてこれまで以上に考える必要がある。
製薬企業は自社製品の開発段階で心血管系リスクについて徹底した検証を行うべきで,FDAの指針はこのような評価に関する勧告をまとめたものである」としている。
 
■米国では,2,300万人超が2型糖尿病と診断されている。
糖尿病患者は,非糖尿病患者に比べて心疾患リスクが2〜4倍高いが,これまで承認された糖尿病治療薬でこのリスクを軽減するという説得力のある証明はなされていない。
 
■糖尿病は一生涯を通じて治療を要する場合が多いため,医師と患者は糖尿病の治療法が心筋梗塞リスクを高めないかどうか十分に認識する必要がある。
この意に沿うべくFDA内分泌・代謝薬諮問委員会による2008年7月の勧告も参考にして今回の指針がまとめられた。

外部の専門委員会が分析
■今回の指針は,第II相,第III相試験について,従来よりも確実かつ適切なデザインとデータの収集方法を定めている。
具体的には,特に高齢者および糖尿病や腎障害の進行した患者に新たな糖尿病治療薬を用いる場合,既存の治療法以上に心血管系リスクを高めないかどうかを試験で立証することを勧告している。
 
■FDAはまた,製薬企業は試験で心血管系イベントが発生した場合,試験薬投与例とプラセボ投与例について知らされていない外部の心臓病専門医から成る委員会の分析を受けるべきだとも勧告している。
これらの評価があれば,FDAは製品ラベルの安全性と効果に関する包括的情報の記載を保証できるようになるため,医師と患者は2型糖尿病管理について,これまで以上に熟知したうえで決断できるようになる。
 
■FDAは,現在上市されている糖尿病治療薬も,承認されたラベルに従って用いられれば,依然として安全かつ効果的であると確信しており,患者に対して主治医と話し合って血糖管理に最適な治療法を選ぶよう勧めている。
 
■FDAは,今回の勧告が承認ずみの糖尿病治療薬にどのように適用できるかを引き続き検討し,今後,その点について指針を発表する予定である。
FDAは,今回の指針の勧告内容を2型糖尿病治療の新薬の審査を申請した100社以上の製薬会社に対して書面で通知ずみである。

出典 Medical Tribune 2009.3.19
版権 メディカル・トリビューン社


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田崎広助 朱富士(Ⅱ)
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by wellfrog3 | 2009-03-31 00:14 | 糖尿病

パーキンソン病治療の最前線

Movement Disorder Society, Japan(MDSJ)の設立にともに尽力された順天堂大学越谷病院院長の水野美邦,香川県立中央病院神経内科主任部長の山本光利の両氏の,パーキンソン病の薬物療法をめぐる最近のエビデンスに基づいた現状の課題と今後の展望についての討議で勉強しました。

パーキンソン病治療の最前線 ―その後の新しいClinical Trial―
現在においても,パーキンソン病の薬物療法は対症的治療ではあるが,最近の大規模臨床試験の結果,一部のパーキンソン病治療薬が神経保護作用,disease modifying effectを有する可能性があると示唆されている。
こうした見解が妥当であれば,より早期からの治療介入の有用性が期待されるが,同時にジスキネジアの予防を視野に入れた治療開始薬の選択,投与方法の工夫など課題も少なくない。
 

L-DOPAの有用性と問題点を明らかにしたELLDOPA study
水野 
本日は,山本先生とご一緒にパーキンソン病の薬物療法をめぐる最近のエビデンスを振り返りながら,現状の課題と今後の展望について語らいたいと思います。
 
まずは,長くパーキンソン病治療のゴールドスタンダードとして使用されてきたL-DOPAに対して新旧の知見を検証した,ELLDOPA studyについてご説明いただけますか。

山本 
ELLDOPA studyは,プラセボ対照の二重盲検比較試験でL-DOPAの効果と副作用を改めて確認し得た,エビデンスレベルの高い試験と言えます。
パーキンソン病と診断後2年以内で,パーキンソン病治療薬服用歴のない患者361例を対象に,レボドパ・カルピドパ合剤の用量別に150mg/日群,300mg/日群,600mg/日群,プラセボ群に分けて40週投与し,投与中止後に2週間の休薬期間を設けて観察しました。
 
その結果,UPDRSで評価した運動症状は用量依存的に改善したと報告されています。
2週間のwash out期間後は,いずれの群においてもUPDRSスコアが悪化しました。
ところが,注目すべきことに,実薬群ではUPDRS総スコアがプラセボ群と同レベルにまで悪化しませんでした(図1)。

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したがって,L-DOPAを初期から投与することによって進行が抑制された可能性があると理解する専門家もいるということです。
一方,wearing off,ジスキネジアといった運動合併症などの副作用も用量依存的に発現しています(表)。

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また,β-CIT SPECTによる神経終末機能の評価も行っており,線条体でのβ-CITの取り込みが,プラセボ群に比べて,L-DOPA投与群で低下している傾向がありました。
β-CIT SPECTはL-DOPA服用中に行われていたことも結果の解釈を困難なものにしています。
このように,臨床効果と画像評価が矛盾する結果をどう解釈するかが1つの議論となっています。
 
試験期間,休薬期間ともにより長く設けて検討しなければL-DOPAが神経保護的に作用したとは言い切れないと思います。
しかし,本試験によりL-DOPAの有効性と問題点が明確に示された意義は大きいと考えています。

L-DOPAによるDisease modifying effect−高用量でのみ効果を維持−
水野 
2週間の休薬後もUPDRSスコアがプラセボ群と同レベルにまで悪化しなかったことから,L-DOPAには少なくともdisease modifying effectがあり,パーキンソン病初期からの投与が,病態進行の抑制に有用であることが示唆されました。
その機序が神経保護作用か,脳の可塑性の変化なのかは明確になってはおりませんが,症状を緩和する効果が示されたことは意義深いです。
 
また,UPDRSでみた運動症状の改善は150mg/日群で6か月,300mg/日群では9か月でベースラインに戻っているのに対し,600mg/日群のみが9か月以降も改善を維持していました。
 
しかしながら,副作用をみてみると150mg/日群,300mg/日群ではwearing offもジスキネジアもプラセボ群と差がないのに対し,600mg/日群ではwearing offが16.5%,ジスキネジアが29.7%に発現しています。
 
つまり,L-DOPA単独で運動症状の改善を9か月以上の長期にわたって維持するには,600mg/日という高用量の投与と,それに伴うwearing off,ジスキネジアのリスクを考慮する必要があります。

山本 
欧米人より体格の小さい日本人にL-DOPAを600mg/日という高用量で投与すれば,よりwearing off,ジスキネジアが発現しやすくなるでしょうね。

水野 
L-DOPA300mg/日単独投与で全ての患者さんの症状が十分に改善するわけではありませんし,改善しても,効果を維持できるのはせいぜい1年に過ぎません。
150mg/日単独投与であれば半年です。L-DOPA少量単独投与の有用性を検証するには, UPDRS Part IIなどの評価も併せて行い,UPDRS totalスコアはベースラインに戻ったとしても自覚的な改善は維持しているかどうかといったデータが欲しいですね。
 
また,L-DOPA300mg/日で開始し,症状の改善が思わしくなくなった時点でドパミンアゴニストを併用するのも1つの方法だとは思いますが,こうした治療を一般に行うためにはエビデンスをつくる必要があります。

早期治療介入の妥当性TEMPO studyで明らかに
山本 
同様にTEMPO studyでは, MAO-B阻害薬のラサジリンが神経保護作用を有する可能性が示唆されています。
 
同試験は,パーキンソン病早期で,抗コリン薬をのぞく,パーキンソン病治療薬では未治療の患者を対象に行いました。
ラサジリン1mg/日群,2mg/日群,プラセボ群に分けて6か月間投与し,最初から実薬投与を受けている群をearly start群としています。
その後,プラセボ群においてもラサジリン2mg/日群の投薬を開始し,これをdelayed start群と分類しました。Delayed start群においてラサジリン投与を開始して6か月後(試験開始1年後)にdelayed start群とearly start群のUPDRSスコアを比較しました(図2)。

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結果を見ますと,delayed start群はearly start群をキャッチアップできず,early startの2mg/日群がdelayed start群に対してUPDRSスコアを2.29ポイント,early startの1mg/日群は,delayed start群に対して同スコアを1.82ポイント改善しています(図3)。

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ラサジリンが対症効果のみを示すのであればearly start群とdelayed start群のUPDRSスコアは同等になるはずですが,報告により,ラサジリンはdisease modifying effectを有する可能性が示唆されました。
しかし,これがラサジリンの神経保護作用を証明したかといえば,そのように結論付けるのはなかなか難しいと思います。

水野 
しかし,機序はどうであれ患者さんの運動症状をより早く治療しておいたほうが,ADLを長期に維持できるだろうと考えています。

山本 
TEMPO studyの意義は,ラサジリンに神経保護作用があるかどうかより,例えばドパミン関連の神経細胞を休ませるといったことも含め,早期の治療介入が結果的によい方向に働く可能性を示したことにあると思います。
その意味では,振戦や歩行障害などによって患者さんのADLが低下し,日常生活に支障を来した時点で薬物療法を開始するという従来の考え方は再検討を要する時期に来ているのではないでしょうか。

水野 
早期から症状を改善したほうがよいと私も考えています。
従来の薬物療法の考え方は,L-DOPAは患者さんの人生で最も必要な時期に合わせて使ったほうがよいというものでした。
その流れは大きくは変わってはいないと思いますが,最近,パーキンソン病治療薬にdisease modifying effectが期待しうることが知られてきたことから,患者さんに「あまり長く治療を待つよりは早く始めたほうがいいですよ」と勧められるようになりました。

山本 
治療の進歩というのは,何も新薬によってのみなされるものではなく,既存の薬剤をどのように使って患者さんによりよい状態を提供できるかを考えることによってもなされると考えます。
その意味でも,disease modifying effectというコンセプトは頭に入れておく必要があるのではないでしょうか。

若年者においての治療開始薬はドパミンアゴニストが有用
山本 
ところで,パーキンソン病の治療開始薬はドパミンアゴニストか,L-DOPAかという問題は,ドパミンアゴニストの登場以来,結論の出ない問題です。
 
ロピニロールの10年スタディ〔Hauser RA. et al: Movement Disorders. 22(16): 2409-2417, 2007〕の結果では,ジスキネジア全体の発現頻度はドパミンアゴニストで始めた群のほうがL-DOPAで始めた群より少なかったことが報告されています。
ただし,障害となるジスキネジアの発現頻度は両群で有意差は認められませんでした。
 
このことが,パーキンソン病の治療開始薬はドパミンアゴニストかL-DOPAかという問題を考えるうえで,1つの参考にはなるのではないかと思います。
したがって,特に比較的若い方の場合,やはりドパミンアゴニストで治療開始することが望ましいと考えています。

水野 
ELLDOPA studyでdisease modifying effectが示唆されてから,L-DOPA治療を早く開始しても良いのではないかという風潮がありますが,治療開始薬はL-DOPAかドパミンアゴニストか,という問題に関して,本試験では何の証明もし得ていません。
ただ,今はL-DOPAを見直すよい機会ですし,現行のエビデンスにしたがってドパミンアゴニストから治療を開始したとしても,あまり単独で長く治療を引っ張らずに,できるだけ早期にL-DOPAを併用したほうが患者さんのためにはいいのではないかと思います。

ドパミンの持続的刺激でジスキネジアは予防できるか
山本 
最近,パーキンソン病治療薬の長期使用に伴うジスキネジアの発現を予防するうえでcontinuous dopaminergic stimulation(CDS)という概念が注目されていますね。

水野 
通常のL-DOPA内服のようにドパミン受容体を波状的に刺激する,いわゆるpulsatile stimulationは,長期的にはジスキネジアを引き起こす原因となるという仮説があります。
この仮説に基づき,持続的にドパミン受容体を刺激することによりジスキネジアが予防できるのではないかというのがCDSの概念です。
L-DOPAの持続的な静注などにより,本当にCDSが達成されればジスキネジアはある程度予防できるという印象をもっていますが,経口薬のみでのCDS達成は至難の技でしょうね。

山本 
動物実験で血中ドパミンを高濃度に持続させると,ジスキネジアが予防できるというデータがあります。
これがヒトで可能であればジスキネジアの予防につながると思いますが,現実にはL-DOPA,エンタカポンはいずれも半減期がきわめて短いため,経口薬である限りは頻回投与を行ってもCDSの達成は難しいのではないでしょうか。

水野 
エンタカポンはプラセボと比較してL-DOPAの血中半減期を延長するものの,L-DOPAの血中濃度そのものは上昇させません。
つまり,L-DOPA単独の作用時間が2時間半から3時間であるとすれば,エンタカポンはそれを30分ほど延長させたあと,再び治療域以下の血中濃度に戻ってしまうのです。
したがって,1日4回の経口投与でCDSを達成するのは容易ではないでしょうね。
 
ただし,まもなく結果が示されるであろうSTRIDE-PD study(L-DOPA,カルビドパ,COMT阻害薬であるエンタカポンの合剤の試験)で,ジスキネジアの予防効果が証明されれば,その結果は尊重しなければならないと思います。

ドパミンアゴニストはジスキネジアが低頻度
山本 
CDSの達成はL-DOPAでは難しく,さりとてMAO-B阻害薬で中枢のCDSが実現できるかというと,これもなかなか容易ではなくて,むしろジスキネジアが悪化する例が多いと言われています。

水野 
論理的にいえばロングアクティングのドパミンアゴニストでCDSを達成できるのかもしれませんが,ドパミンアゴニスト単独で長期にわたって患者さんの満足を得るのは難しいでしょう。

山本 
CDSはCOMT阻害薬の登場とともに普及してきた概念ですが,持続的にドパミン受容体を刺激するという特徴は,遡るとドパミンアゴニストに期待されたものですね。

水野 
おっしゃる通りです。
もともと,ドパミンアゴニストにはジスキネジアの発現が少ないわけです。

山本 
ドパミンアゴニストで治療中の患者さんにL-DOPAを併用すると,その直後から明らかにジスキネジアの発現頻度が高まります。
やはりL-DOPAによるpulsatile stimulationには問題があるのではないでしょうか。

水野 
Pulsatile stimulationを信じれば,L-DOPAを最初から使うことはいくら少量でもよくないということになります。
ただ,priming effectというのは,MPTP処置をしたサルにおいていわれていることなので,本当にパーキンソン病患者さんでそのようなことがあるかは未知数です。
そのことを念頭に置けば,最初からL-DOPAを使ってもいいかもしれないとは思うのですが,そのためにはエビデンスを作る必要があります。
 
例えば,L-DOPA300mg/日で治療を開始し,効果が不十分になった時点でドパミンアゴニストを併用する,あるいはドパミンアゴニストで治療を開始し,効果が不十分になった時点でL-DOPAを併用する。
そのうえで,どちらのグループがUPDRSの改善に優れ,ジスキネジアの発現を遅らせられるかを検討することは,意義あるトライアルだと思います。

山本 
一方で,患者さんにとってジスキネジアはそれほど問題であるかという議論もあります。
ジスキネジアはL-DOPAがよく効いている証拠だし,QOLもよいという肯定的な論文があります。

水野 
私もそう思います。
Wearing offとジスキネジアがある患者さんを対象にアンケートを行い,L-DOPAを多めに服用してジスキネジアが発現した状態と,少なめに服用してジスキネジアは消えたもののoffがある状態のどちらかを選んでいただいたところ,80%以上の患者さんがジスキネジアがあってもL-DOPAを多めに服用すると回答したと報告されています。
ただ,ジスキネジアそのものは,患者さんやご家族にとって悩ましい副作用であることは確かですので,ジスキネジアを発現させないということが重要です。

吸収障害を予防するための投与法の工夫
山本 
L-DOPAに関しては,経口投与して中枢に移行するまでに吸収障害など多くのファクターが介在するだけに,治療が難しくなるという側面があると思います。
先生は,例えば予期せぬときに起こるno-on,delayed on現象などについては,どのように対処されていますか。

水野 
No-on,delayed on現象は,おもに消化管からの吸収障害が原因ですので,私はL-DOPAを食前・空腹時に水に溶かして服用することをお勧めしています。
また,wearing offやジスキネジアが発現した場合,レボドパ・カルビドパ配合剤を水に溶かして1時間おきに服用すれば,ある程度血中濃度が維持できると指摘する専門家もいます。
水に溶かしたものであれば,ジスキネジア発現時には,例えば1回の投与量を100mgではなく75mgとか60mg台に減量することも容易にできます。
こうしたことは,パーキンソン病を治療している多くの専門家がすでに試みていることと思います。

出典 Medical Tribune 2009.2.12 (一部改変)
版権 メディカル・トリビューン社
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by wellfrog3 | 2009-03-30 00:46 | 神経内科

メタボリックシンドロームと発がん

高松宮妃癌研究基金第39回国際シンポジウム
メタボリックシンドロームの発がんへの関与と機序について研究が進む

肥満はメタボリックシンドロームの1要素であり,心血管系疾患の危険因子として知られているが,近年,同シンドロームとがんリスクとの相関が指摘されており,活発な研究が行われている。
東京都で開かれた(財)高松宮妃癌研究基金による第39回国際シンポジウム「メタボリックシンドローム:発がんへの関与と予防」(司会=国立がんセンター研究所・若林敬二所長)のセッション「疫学研究:インスリン抵抗性とがん」では,肥満,糖尿病,脂質代謝異常とがんとの関係を中心に多くの疫学研究や動物実験の結果が報告され,活発な議論が交わされた。

インスリンとインスリン様増殖因子が大腸発がんに関与
肥満と脂質代謝異常との関連性は以前から指摘されており,特にインスリン抵抗性がもたらす影響に注目が集まっている。
また近年,肥満や運動不足,西洋風の食事とがんの相関性を示唆する疫学研究が多数発表され,そのメカニズムが注目されている。
ハーバード大学(ボストン)公衆衛生学部・栄養および疫学科のEdward Giovannucci教授は,インスリンとインスリン様増殖因子(IGF)-1の上昇が大腸がんリスクを上昇させるとの仮説を提示し,「これまでの動物実験や疫学研究データは,高インスリン血症が大腸発がんに重要な役割を果たすことを示唆している」と述べた。

インスリン抵抗性の代償として分泌量が増加
インスリンは,IGF-1を増加させる一方,IGF結合蛋白(IGFBP)-1を減少させ,さらにMAPキナーゼ/RAS経路を介してインスリン受容体に作用して細胞増殖を促進させる。
同時に,アポトーシスは抑制され,低分子量G蛋白質RASのファルネシル化が促進される。
Giovannucci教授はこのようなモデルを提示し,大腸発がんに至る機序について説明した。
 
それによると,糖代謝をつかさどるインスリンは,インスリン抵抗性が高まり血糖値が上昇すると代償的に分泌が増加し,その結果,インスリンの血中濃度が高まる。
動物実験では,高インスリン血症やIGF-1が大腸発がんの決定因子であることは支持されている。
大腸がんの危険因子として疫学研究に基づいた多数の観察知見が得られているが,そのほとんどがインスリン血中濃度やIGF-1値の上昇に関係したものである。
 
2型糖尿病患者でインスリンやスルホニル尿素(SU)薬を投与している症例では,発がんリスクが上昇し,メトホルミンを使用している例では発がんリスクが低下するとの研究報告もある。
 
IGF-1は強力な増殖因子であるが,がん細胞においては,インスリンとIGFの系は変異やエピジェネティックなイベントを通して"再配線(rewired)"されており,それがIGF-1やインスリンの増殖作用に対する感受性上昇をもたらしている可能性がある。
 
以上から,同教授は「代償性の高インスリン血症やIGF-1の上昇が大腸がんリスクを上昇させるとの仮説は,インスリンやIGF-1の作用に関する現在の認識と一致しており,動物実験でも証明されている」とし,「ヒトに関しては,疫学研究で多数の危険因子が示唆されており,高インスリン血症が大腸発がんにかかわる重要な因子であることが示唆されているが,この知見を確実なものにするにはさらなるエビデンスが必要だ」と述べた。

アジア人はインスリン抵抗性と2型糖尿病発症リスク高い
今や,糖尿病は地球規模の脅威であり,2010年には2億2,000万人が罹患すると予想されている。ハーバード大学公衆衛生学部・栄養学および疫学科のFrank B. Hu教授はアジア人における糖尿病リスクについて,近年の罹患率の推移や他民族との比較,危険因子などのデータを示しながら概説。「同じBMI値でもアジア人のほうが,白人に比べてインスリン抵抗性および2型糖尿病発症リスクが高く,特に東南アジア人とインド人は糖尿病に罹患しやすい」と述べた。

metabolically obese多い
米国では糖尿病有病率が過去10年間で5%から10%に倍増したが,人種間の差が大きく,ピマインディアンやメキシコ系,アフリカ系,日系人の有病率は白人に比べてかなり高い。
国別では,米国と比べて中国や日本の糖尿病有病率はまだ低いが,中国では30年前は1%未満だった罹病率が現在では5%まで上昇しており,日本でも上昇傾向が続いている。
 
7万8,000人の健康な中年女性を20年間フォローし,2型糖尿病罹患リスクを検討した米国のNurses’Health Studyによると,BMIで調整した2型糖尿病発症リスクを白人と比較すると,アジア人の相対リスク(RR)は2.26(1.70〜2.99),ヒスパニック系では1.86(1.40〜2.47),アフリカ系米国人では1.34(1.12〜1.61)であり,アジア人のリスクの高さが浮き彫りになった。
 
しかし,同研究のベースラインでの背景を検討すると,アジア人はBMIが一番低く,食事も最も健康的なものを摂取していることが判明した。
 
アジア人の場合,BMIが5単位上昇すると,糖尿病発症リスクが2.36倍(1.83〜3.04)になり,白人の1.55倍(1.36〜1.77)に比べて大きな隔たりがある。
また,体重が18歳以降で5kg増えるごとにアジア人では糖尿病リスクが84%上昇するが,白人では37%,黒人では38%であった。
このように,白人と比べてBMIが低いにもかかわらずアジア人で糖尿病リスクが上昇しやすい理由の1つとしてインスリン抵抗性の高さが考えられる。

CDKAL1の変異を有する人で糖尿病リスク高い
Hu教授は,アジア人にインスリン抵抗性が多く見られる機序として,
(1)正常体重でも実は脂肪の多い"metabolically obese(やせ肥満)"が多い
(2)「倹約遺伝子」と呼ばれる遺伝子が影響している
(3)生前の子宮内での栄養不足
(4)炭水化物や糖分の多い食事
(5)運動不足―などを挙げた。

2型糖尿病は多くの遺伝子が関与している多因子疾患だが,近年ゲノムワイド解析が可能になり,2型糖尿病と関連する遺伝子変異としてIGF2BP2,CDKAL1,CDKN2A,CDKN2B の4つの遺伝子変異が同定されている。
 
これらのうち,アジア人ではCDKAL1の変異を有する人は糖尿病リスクが高いという。
人種による糖尿病リスクと遺伝子変異の関係を検討するため,同教授は米国のWomen's Health Initiative,英国のBlack Women's Health,中国のShnghai Cohortsの研究者らと協働して6,000例を対象とした研究を計画中であるという。

過体重でさまざまながんリスク上昇
近年,栄養バランスと発がんとの関連性を示唆する疫学データが多数発表されており,過体重(肥満)はがんリスクの上昇に寄与しているとの報告がある(表)。

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ドイツがん研究センターがん疫学のRudolf Kaaks教授は,肥満と乳がん,子宮内膜がん,大腸がん,膵がん,腎がんのリスク上昇との関連性を検討した過去の諸研究を紹介。
発がんに至る機序についても触れ,「肥満はさまざまながんのリスクを上昇させることは明らかだ」と述べた。

メトホルミンでがんリスク低下
肥満は糖尿病の危険因子でもあることから,糖尿病も数種類のがんリスク上昇と相関すると言われている。
高血糖と高インスリン血症が発症機序に関与しているとされ,EPICスタディでは五分位で血糖値が最も高い群で子宮内膜がんリスクがBMI調整後で1.69倍と報告されている。
 
空腹時血糖値とがんリスクとの関係を示した研究はほかにも多数あるが,最近,がん抑制因子としてLKB1が注目されている。
 
LKB1は,細胞のエネルギー状態の重要なセンサーであるアデノシン一リン酸(AMP)活性化プロテインキナーゼ(AMPK)の活性化因子でもあり,糖尿病治療薬のメトホルミンが,AMPKを活性化し乳がん細胞を抑制するとの報告がある。
 
また,メトホルミンを使用した2型糖尿病患者でがんリスクが低下したとの知見も発表されている。
 
肥満は内因性のエストロゲン値も上昇させることから,これは子宮内膜がんや乳がんの発がん原因となる。
また,卵巣アンドロゲン過剰やプロゲステロン欠乏は子宮内膜がんリスクを上昇させるが,これらも肥満による内因性ホルモン値への影響である。
 
インスリン様増殖因子(IGF)-1の上昇もいくつかのがんリスク上昇と相関することが示唆されているが,これに関してKaaks教授は「肥満と血中IGF-1値には正の相関は認められず,がんとの因果関係は現時点では不明である」と述べた。

出典 Medical Tribune 2009.2.19 (一部改変)
版権 メディカル・トリビューン社
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by wellfrog3 | 2009-03-29 00:46 | その他

コーヒー摂取と認知症

中年期のコーヒー摂取で晩年の認知症リスク低減
カロリンスカ研究所(ストックホルム)とクオピオ大学(フィンランド・クオピオ)のMiia Kivipelto准教授らは,中年期におけるコーヒーの摂取が高齢期における認知症またはアルツハイマー病(AD)リスクを減少させる可能性があることが明らかになったとJournal of Alzheimer's Disease(2009; 16: 85-91)に発表した。

1日3〜5杯でリスク65%減
今回の住民ベースのFinnish Cardiovascular Risk Factors,Aging and Dementia(CAIDE)研究は,カロリンスカ研究所とフィンランド国立公衆衛生研究所(KTL,フィンランド・ヘルシンキ)の協力を 得てクオピオ大学で実施されたもの。
 
CAIDE研究には,1972,77,82,87年(中年期の調査)にノースカレリア・プロジェクトとFINMONICA研究の対象となった住民ベースのコホートの生存者が参加している。
21年間の平均フォローアップ期間が経過した88年に,65〜79歳の1,409例(71%)が再調査を完了した。その結果,計61例が認知症(うち48例はAD)であることが判明した。
 
筆頭研究者のKivipelto准教授は「この研究の目的は,中年期のコーヒー・紅茶の摂取と高齢期の認知症やADリスクの関連性を解明することであった。
カフェインが中枢神経系に及ぼす長期的な影響はいまだに解明されておらず,ADに至る病理学的過程は,ADの臨床徴候が発現する数十年前から始まっている可能性があるからだ」と述べている。
 
中年期の調査では,正当性が立証されている半定量的な食物頻度アンケートを使用して被験者のコーヒーと紅茶の摂取量を評価した。
コーヒーの摂取は,
(1)1日当たり0〜2杯(低レベル)
(2)同3〜5杯(中レベル)
(3)同5杯超(高レベル)
−の3群に分類した。
紅茶の摂取に関する質問では,
(1)非摂取群(0杯/日)
(2)摂取群(1杯以上/日)
−に2分割した。
 
その結果,中年期にある程度のコーヒーを摂取していた者では,コーヒーの摂取量がゼロまたは非常に少なかった者と比べて,高齢期における認知症またはADリスクが低いことが明らかになった。
これらの疾患リスクが最も低かった(65%減)のは,中レベルのコーヒー摂取者(3〜5杯/日)であった。
この結果は,さまざまな交絡因子の調整後も変わらなかった。

紅茶との関連性は認められず
一方,被験者における紅茶の摂取量は比較的少なく,紅茶の摂取と認知症またはADリスクとの関連性は認められなかった。
 
Kivipelto准教授は「コーヒーが世界中で大量に摂取されている現状を考えると,今回の結果は認知症またはADの予防または遅延に重要な意義を有する可能性がある。われわれの知見は別の研究によって追認される必要があるが,食事指導を行うことで認知症とADリスクが修正される可能性があることが示された。また,認知症とADに対するコーヒーの保護作用の機序が解明されれば,これらの疾患の新しい治療法の開発に役立つだろう」と述べている。

出典 Medical Tribune 2009.2.19 (一部改変)
版権 メディカル・トリビューン社
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by wellfrog3 | 2009-03-28 00:10 | 認知症

単純型熱性痙攣

大半で腰椎穿刺は不要
乳幼児が痙攣を来すほどの高熱を出すと親は動転し,子供を抱いて緊急治療室(ER)に駆け込むことが多い。
ERでは細菌性髄膜炎を除外するため腰椎穿刺などの検査が行われる。
しかし,ボストン小児病院救急部のAmir Kimia博士らは,腰椎穿刺は単純型熱性痙攣児にはおそらく不要であるとPediatrics(2009; 123: 6-12)に発表した。

704例中細菌性髄膜炎はゼロ
単純型熱性痙攣は持続時間15分未満で,24時間以内に再発しない全身性の痙攣で,6か月〜5歳の乳幼児の2〜5%に見られ,珍しい疾患ではない。Kimia博士は「われわれはERで1日に1例以上の熱性痙攣に遭遇している。
熱性痙攣が初めて起きた場合,親は不安になり救急車を呼ぶのが普通である」と述べている。
 
単純型熱性痙攣の初回発作に対する腰椎穿刺の適応について,1996年に出された米国小児科学会の勧告は,
(1)12〜18か月児には考慮する
(2)6〜12か月児には積極的に考慮する
—としている。
しかし,同博士らが,1995年10月〜2006年10月に同院小児救急部を受診した単純型熱性痙攣の初回発作例704例のカルテを調査した結果,いずれの年齢群でも細菌性髄膜炎の症例は皆無であった。
 
これら704例中271例(38%)が腰椎穿刺を受け,そのうち10例(3.8%)の髄液中に白血球数の増加が見られた。
ウイルス感染が示唆されたが,病原性の細菌は同定されず,細菌性髄膜炎と診断された患児は皆無であった。
 
今回の研究は,細菌性髄膜炎リスクが最も高いと考えられる6〜18か月児に限定して行われた初めての大規模研究であり,結果は同じ年齢群と6歳までの年齢群を対象に行ったこれまでの小規模研究と合致している。

非定型な臨床症状には注意を
腰椎穿刺は局所麻酔のほか,しばしば鎮静薬を要する。
Kimia博士は「腰椎穿刺は合併症発生率がきわめて低く安全な検査とはいえ,針で穿刺する以上,苦痛を伴う。われわれは絶対に必要でない限り,施行しないようにしている」と述べている。
 
11年に及ぶ研究期間中の腰椎穿刺施行率の低下にも表れているように,腰椎穿刺の必要性については既に疑問の声が上がっている。
この背景には,米国で髄膜炎の2大起因菌であるインフルエンザ菌b型(Hib)に対するワクチン接種が1990年に,肺炎球菌に対する接種が2000年にそれぞれ導入されたため,細菌性髄膜炎の発生率が激減したことが挙げられる。
同博士によると,先進諸国ではワクチン接種を受けた乳幼児では細菌性髄膜炎はまれな疾患となった。
 
単純型熱性痙攣は家族性に発症する傾向があり,急激な体温上昇に対処する脳の未熟性を反映すると考えられている。
一部の研究者は,体温の高さよりも体温が上昇する速度のほうが重要と考えている。
37.2℃から38.3℃に上昇しても,それが急速なものであれば,熱性痙攣の素因を有する乳幼児では発作の引き金となりうるとしている。
 
しかし,同博士らは「今回の結果は複合型の熱性痙攣,懸念すべき臨床症状・徴候や基礎疾患を有する小児には当てはまらない」としており,「腰椎穿刺はルーチンに行うのではなく,臨床症状に基づいて考慮すべきだ。
患児がぐったりしている場合や,神経学的症状,興奮状態,無反応,そのほかの臨床徴候(ある種の発疹,大泉門膨隆)などが見られる場合は,小児の年齢が高くても腰椎穿刺を考慮すべき」との見解を示している。
 
さらに,同博士は「ERで子供に検査の必要はないと親に納得させるのが難しい場合もある。痙攣発作に衝撃を受けた親のなかには子供が死んでしまうのではないかと恐れる者もいる。今回の結果は,そうした親を安心させる一助となるものと期待している」と述べている。

出典 Medical Tribune 2009.3.19 (一部改変)
版権 メディカル・トリビューン社

<番外編>
脳動脈瘤の家族歴のある喫煙者は脳卒中リスク高い
米国神経学会(AAN)のメンバーでシンシナティ大学(オハイオ州シンシナティ)神経学のDaniel Woo博士らは,喫煙者で脳動脈瘤の家族歴がある人は脳動脈瘤から脳卒中を発症するリスクが有意に高くなるとNeurology(2009; 72; 69-72)に発表した。

6倍強発症しやすい
脳卒中の1種であるくも膜下出血の患者では約35〜40%が死に至る。
Woo博士らは今回の試験で,脳動脈瘤から脳卒中を発症した 患者339例と対照として非発症者1,016例について調べた。
脳卒中群の半数が喫煙者で,残りの半数は喫煙歴がない,あるいは現在禁煙している患者であった。
 
その結果,喫煙歴と脳卒中の家族歴を有する人は,喫煙歴のない人あるいは脳卒中や脳動脈瘤の家族歴のない人と比べて,6倍強も脳卒中を発症しやすいことがわかった。
また脳卒中の家族歴のある人は,禁煙により発症リスクを2分の1強抑制できる可能性も示唆された。
これらの結果は高血圧,糖尿病,飲酒,BMI,学歴とは関連しなかった。
 
同博士は「今回の知見から喫煙と脳卒中の相互関係が示唆された。
そのため喫煙者には禁煙を推奨すべきだと考える。喫煙者の場合,あるいは動脈瘤の家族歴がある場合,脳動脈瘤破裂による脳卒中の発症リスクがきわめて高いことになる」と述べている。
出典 Medical Tribune 2009.3.19 (一部改変)
版権 メディカル・トリビューン社

リャド  黄昏の光 
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by wellfrog3 | 2009-03-27 00:06 | 神経内科

ABC-OMI

日常診療のスキルアップABC
ERでの患者診察の心得
初期対応・処置の基本「ABC-OMI」

洛和会音羽病院(京都府)救命救急センター/総合診療科
谷口 洋貴 副部長

〜まず気道の確認・確保を行う〜初期対応としてABCの「A」は,気道が開いていることの確認と気道確保のことを言います。
何か発語しているなら,まず気道は開いています。
「お名前は?」という問にきちんと答えられるなら,気道開存だけでなく,意識状態(D)もある程度は保たれていることになります。
唾液や痰がたまっていたり,吐物などでごろごろいっているなら吸引し,外傷など頸椎損傷の可能性がないなら頭部後屈・顎先挙上をして気道を確保します。

〜迅速・確実な気管内挿管の技術習得を〜
アナフィラキシーや気道異物(foreign body;FB)による上気道狭窄がある場合,すぐさま「確実な気道確保」,すなわち気管内挿管が必要なことがあります。
FBAO(foreign body airway obstruction)ならマギール鉗子で取り除けるかもしれませんが,アナフィラキシーや喉頭蓋炎の気道狭窄は甘く見ていると目の前で窒息してしまうこともあります。
このとき,下手に喉を診ようと口を開けさせ,舌圧子を入れたりするのは窒息を誘発されかねないので危険です。
また,気管内挿管も一発でさっと入れてしまうつもりでいないと,窒息を誘発することもあります。

「ABC-OMIのB」
〜吸気・呼気の延長の確認が重要〜

「B」は,呼吸の確認と補助呼吸です。呼吸の速さ(呼吸数)だけでなく,呼吸の深さや吸気・呼気の延長,胸壁の上がりや,その左右差を見ます。
補助呼吸筋の使用にも注意します。耳を患者の口に近付けて,胸壁の動きを見ます。
 
頻呼吸は呼吸苦を想定させ,低酸素血症を真っ先に考えさせますが,発熱・疼痛・不安でも頻呼吸になりますから,これらも考慮してください。
なお,妊婦や高温期(黄体期)の女性は,プロゲステロンのために呼吸数が増加しています。

徐呼吸は,呼吸停止寸前かもしれません。
バッグ・バルブ・マスク(BVM)と10L以上の交流量酸素をすぐに手配してください。
患者の呼吸に合わせて補助呼吸します。
あまりに遅いなら,1分間に12回(5秒に1回)となるように補助してください。
チェーンストークス呼吸による徐呼吸かもしれませんので,引き続き自発呼吸のパターンにも注意します。
 
呼吸の深さは,例えば重度の代謝性アシドーシスのKussmaul呼吸では深い大きな呼吸となっています。浅い呼吸ならば呼吸停止寸前かもしれません。

〜上気道狭窄を反映するのは吸気延長が重要〜
吸気・呼気の延長の確認はとても大事です。研修医はこの吸気・呼気の延長の確認を怠る人も多く,私はうるさく指導しています。
なぜなら,研修医が上気道狭窄のサインとして口にするstridorは教科書に書かれている有名な上気道狭窄のサインですが,これはあくまで狭窄部の"笛の音"にすぎず,上気道狭窄があっても生じないこともあり,そして上気道狭窄による病態を反映するのは吸気延長のほうが重要かつ鋭敏だからです。
呼気延長も同様です。
喘息の典型的な副雑音のwheezeは,末梢気道狭窄部における笛の音にすぎないのです。
 
喘息発作の最重症であるsilent chestは,末梢気道狭窄が高度であるため,笛の音であるwheezeすらしない状態です。
患者は冷や汗を流し,会話もできません。
暴れていればかなり息苦しいとわかりますが,おとなしくしていることも多く,その重症さに気付かないかもしれません。
しかし,この状態でも呼気延長は認められます。
 
胸郭の動きが悪い時は気胸かもしれません。
また,FBAOで片側の気管支の閉塞かもしれません。
 
Hoover's signは,重症の慢性閉塞性肺疾患(COPD)で見られる胸郭運動で,正常では吸気時に胸郭は外に膨らむものが,内側にへこんでしまう徴候です。
少し横道にそれますが,このHoover's signは身体所見の用語で2通りあります。
もう1つは,下肢の片側の麻痺が神経障害によるものか,それとも精神的なもの(ヒステリーなど)かを見るテクニックです。
どちらも,Charles Franklin Hooverが名付けました。
 
補助呼吸筋使用は,COPDや間質性肺疾患などの慢性進行例以外に,急性の気胸や重症な気管支喘息発作・肺炎・心不全でも見られます。

「ABC-OMIのC」
〜循環の確認は血圧・脈拍以外に頸動脈拍動も〜

「C」は,循環の確認と安定化です。循環の安定化には静脈ライン確保が必要なので,後述する「I」も含んでしまう印象もありますが,「I」はあくまでこれから起こってくる状態の悪化に備えたライン確保で,循環の安定化の要素は含みません。
 
循環の確認は血圧(BP)・脈拍(PR)なのですが,患者の状態によっては頸動脈での拍動を見るべきです。
また,血圧計やサチュレーションモニターだけに頼らず,患者に触れてください。じっとり汗をかいていませんか。
収縮期血圧(SBP)が80mmHg以上でもショックを疑います。
PR>SBPなら,SBP>80mmHgでもショックです。また,相対的な低血圧にも注意してください。
その患者のもともとの血圧がわかっているときに,その値よりも40mmHg以上低いなら,SBP>80mmHgでもショックであるということです。

〜循環安定化はショックでなければ輸液を〜
循環の安定化は,心原性ショックでないとの判断なら,まずは輸液です。
徐脈なら,症状がある徐脈ではアトロピン0.5mgを静注します(症状がない徐脈は無治療です)が,房室ブロック(II度Mobitz II型・III度)ではアトロピンは無効です。
房室ブロックでは,ALS的にはアトロピンを考慮して投与してもよいのですが,経皮ペーシング(TCP)を遅らせないことが重要です。TCPに慣れていなければ循環器科医師をすぐに呼びます。

緊急処置のOMI
〜O2投与,ECGモニター,輸液路確保を準備〜

ABCについて述べました。残りはOMIです。これらは,緊急処置3つの頭文字です。
「O」はO2投与です。症状・病態により投与方法と投与量は異なります。
心肺停止なら10L以上でBVMで人工呼吸です。無症状の呼吸不全なら鼻カニューラ2Lです。
AMIなら鼻カニューラ4Lが基本です。
COPD患者で,慢性的にPCO2が貯留傾向にあるなら,1L未満の低流量であり,ベンチュリーマスクを使用することもあります。
「M」は,ECGモニター装着です。
必要なさそうなケースもあるのですが,一度は診ておきます。
施設によっては,12ch-ECGとエコー検査も行うことにしているところもあります。
「I」は,輸液路確保です。すぐに大量輸液や静注薬を投与しない場合でも,予想される急変に備えて確保しておきます。
今後,骨髄輸液も一般化してくると思われ,ivだけでなくioも「I」の要素となってくるかもしれません。

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POINT
1. まず気道の確認・確保が重要です。患者の状態によっては窒息してしまう場合がありますので,迅速かつ確実な気道確保を心がけましょう。
2. 吸気・呼気の延長の確認はとても大事です。上気道狭窄による病態を反映するのは吸気延長のほうが重要かつ鋭敏です。
3. 循環の確認は,血圧・脈拍以外に,患者の状態によっては頸動脈での拍動を見るべきです。
4. 緊急処置のOMIとして,O2投与,ECGモニター装着,輸液路確保を行えるようにしましょう。

出典 Medical Tribune 2009.2.12 (一部改変)
版権 メディカル・トリビューン社



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熊谷守一  蛾
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<研究会 走り書きメモ>
昨夜ADITUS Japan TV Symposium 2009を聴講しました。
途中からの参加だったのですべて講演が聴けたわけではありません。
■喘息と片頭痛は合併しやすい。
■モンテルカスト(LTD4特異的拮抗薬、商品名シングレア)が片頭痛発作予防効果を有する。
■血小板表面にもLT受容体がある。
セロトニン放出、血管浮腫生来に関与
■常識的な片頭痛かどうかを見極めることが重要。
(発作回数 男性で2〜3回/月、女性で4〜6回/月)
■トリプタン5製剤の特徴と違い
○トリプタン製剤はセロトニンから誘導された薬剤で、すべてインドール環を
有する。
もともと生体にある物質から作られているということで生体にとってやさしい薬剤といえる。
○マクサルとインデラルとの併用は禁忌。
(マクサルトの血中濃度が上昇)
○イミグランのみ脂溶性が低い。
○ゾーミグvsレルパックス
鎮痛効果、頭痛緩解、水なしでの服用  いずれもゾーミグが優れる
○ゾーミグvsマクサルト
マクサルトはプラスチックから錠剤を取り出すのに時間がかかる。錠剤がもろい。
確実性 ゾーミグ>マクサルト
効果 ゾーミグ<マクサルト
使用制限のなさ ゾーミグ>マクサルト
服用の簡便さ、取り出しやすさ、開封のしやすさでゾーミグが勝る。
○ゾーミグvsアマージ
効果、速効性でゾーミグが勝る。
○アマージは血中濃度の立ち上がりが遅く、早期に服用させる必要がある。
服用が相対的に遅くなることがあり、悪心・嘔吐・アロディニアなどの症状が出現することがある。
専門医が使い分けすべきセカンドチョイスのトリプタンといえる。
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by wellfrog3 | 2009-03-26 00:56 | その他

尿酸・インスリン高値と高血圧発症

尿酸とインスリン高値は高血圧発症の独立した危険因子
尿酸およびインスリンの高値と高血圧発症との間に強い相関が認められると,米ハーバード大学などのグループがArchives of Internal Medicineの1月26日号に発表した。
 
■同グループは,高血圧のない32〜52歳の女性1,496例を追跡し,空腹時の血中尿酸値,インスリン値,トリグリセライド値,インスリン感受性指数,血管内皮障害と関係するホモシステイン値および可溶性細胞間接着分子1値と,高血圧発症との関係を検討した。
 
■高血圧の危険因子を調整後,これらのすべてのマーカーは高血圧発症と関係していた。
しかし,すべてのマーカーと推算糸球体濾過量,総コレステロール値を同時に調整した結果,尿酸およびインスリン値のみが高血圧発症と独立した関係を示し,最低四分位と比較した最高四分位のオッズ比は尿酸が1.89,インスリンが2.03であった。
 
■年間1,000例当たり14.6例の推定発症率を用いると,この年代の女性における年間の全高血圧発症のうちの30.8%が尿酸高値(3.4mg/dL以上),また24.2%がインスリン高値(2.9μIU/mL以上)と関係していると考えられた。
 
■同グループは「尿酸とインスリン値の測定により,高血圧発症のハイリスク群を特定できるかもしれない」としている。
Forman JP, et al. Arch Intern Med 2009; 169: 155-162.

出典 Medical Tribune 2009.2.12 (一部改変)
版権 メディカル・トリビューン社

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中川一政 薔薇
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他にもブログがあります。
ふくろう医者の診察室 http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き)
葦の髄から循環器の世界をのぞく http://blog.m3.com/reed/
(循環器科関係の専門的な内容)
「井蛙内科/開業医診療録(2)」2008.5.21〜 http://wellfrog2.exblog.jp/
井蛙内科開業医/診療録 http://wellfrog.exblog.jp/
(内科関係の専門的な内容)

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by wellfrog3 | 2009-03-25 00:09 | 循環器科

低血糖インデックス食

糖尿病患者の低血糖インデックス食  高繊維食より血糖管理を大きく改善
トロント大学と聖ミカエル病院(ともにカナダ・トロント)のDavid J. A. Jenkins教授らは,ナッツ類や豆類など低血糖インデックス(GI)食品の多い食事を取った2型糖尿病患者では,穀物繊維の豊富な食事を取った患者より血糖管理と冠動脈性心疾患(CHD)の危険因子が大きく改善したとJAMA(2008; 300: 2742-2753)に発表した。

LDL-C/HDL-C比で効果
■研究の背景情報によると,糖尿病管理と心血管危険因子の両方の改善を目指す食事戦略の1つに低GI食があるが,その効果については見解の相違があった。
 
■Jenkins教授らは,血糖降下薬による治療を受けていた2型糖尿病患者210例を低GI食と高穀物繊維食のいずれかにランダムに割り付け,6か月後の血糖管理と心血管危険因子に対する効果を評価した。
 
■低GI食群では,インゲン豆,ソラ豆,エンドウ豆,レンズ豆,ナッツ,パスタ,短時間ゆでた米と低GI値のパン(プンパニッケル,ライ麦のピタパン,キノアと亜麻の種子を含む),朝食用シリアル(ラージフレークのオートミールとオートブランを含む)に重点が置かれた。
 
■一方,高穀物繊維食群では,参加者に「茶色」の選択肢(全粒粉パン,全粒粉の朝食用シリアル,玄米,皮付きのジャガイモ,全粒小麦粉パン,クラッカー,朝食用シリアル)を取るよう助言した。
いずれの食事でも1日当たり果物3食分と野菜5食分が奨励された。
 
■HbA1Cの絶対値は高穀物繊維食群で0.18%低下したのに対し,低GI食群では0.50%低下していた。
また,HDLコレステロール(HDL-C)値とLDLコレステロール(LDL-C)/HDL-C比について有意な治療効果が認められた。
HDL-C値は低GI食群で1.7mg/dL上昇し,高穀物繊維食群で0.2mg/dL低下した。LDL-C/HDL-C比は高穀物繊維食群と比べて低GI食群で大きな低下が認められた。

血糖降下薬服用患者に有益
■Jenkins教授らは「食事のGIを下げることで血糖管理とCHDの危険因子が改善した。
これらのデータは,合併症を避けるための厳格な血糖管理を目標とする糖尿病治療で重要な意味を持つ。HbA1C値の低下は大きくなかったが,臨床的妥当性を有すると考えられる。
低GI食は,血糖降下薬を服用している2型糖尿病患者で血糖管理を改善するための戦略の1つとして有益な可能性がある」と述べている。
 
■同教授らは「2型糖尿病において血糖管理を改善するための薬理学的介入では,心血管イベントの有意な低減が認められないことが多かった。
2型糖尿病患者ではCHDリスクが2〜4倍上昇することを考慮すると,血糖管理とCHD危険因子に対処できる低GI食は,過体重でCHDリスク低減の目的にスタチン系薬を服用している2型糖尿病患者で有用性が高い」と述べている。

出典 Medical Tribune 2009.3.12 (一部改変)
版権 メディカル・トリビューン社


<コメント>
低血糖インデックス食は「低血糖 インデックス食」ではなく「低 血糖インデックス食」つまり「低GI食」ということが途中でわかりました。

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森田茂 朝の富士
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<番外編>
インフルエンザ流行再燃 B型ウイルスが拡大
全国の医療機関から国へのインフルエンザ患者の報告数が、今月15日まで3週連続で増加し、流行が再燃していることが、国立感染症研究所が24日発表した速報値で分かった。
B型ウイルスが拡大しているとみられる。
感染研感染症情報センターは「春休みで旅行も増えるため、これまで流行していない地域にも広がる可能性がある」と注意を呼び掛けている。山形、宮城、新潟、千葉、静岡などでの流行が目立っている。
http://www.excite.co.jp/News/society/20090324/Kyodo_OT_CO2009032401000727.html

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by wellfrog3 | 2009-03-24 00:52 | 糖尿病

HRTと乳癌罹患率



■米国立衛生研究所(NIH)が閉経後女性を対象に行った大規模前向き臨床試験、Women's Health Initiative(WHI、表1)は、閉経後女性を対象に様々な疾患予防策の評価を図ったものだ。
この中間報告が発表されたのが2002年。

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その中で大きく話題となったのが、ホルモン補充療法(HRT)の“リスク”だった。
不定愁訴に有効ということで長らく行われている治療法が逆に、浸潤性乳癌は26%、虚血性心疾患は29%、脳卒中は41%、いずれも罹患リスクを増やすことが示されたのだ(表2)。


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■WHIは05年までの観察研究という予定だったが、HRT(エストロゲン・黄体ホルモン併用療法)についてはこの結果を受けて急きょ打ちきりとなった。
「WHIの発表後数年間で、HRTを受ける患者は欧米では3割ほど減少。日本の患者数はもともと少なかったが、新聞報道でやはり減少した」。
自身もHRTに取り組む東京女子医大産婦人科教授の太田博明氏は、WHI中間報告の影響をこう振り返る。

対象者や薬剤の選択に異議あり
■もっとも、WHIの中止後に出てきたサブ解析の結果などから、WHI中間報告の妥当性については様々な議論が続いた。まず第一に挙げられるのが対象者の問題だ。
太田氏によると、HRTの試験の対象者には以下のような問題点が挙げられるという。

WHIの対象者の問題点
・平均年齢が約63歳と、高齢
・ビタミンDやカルシウム、サプリメントの摂取、食事制限など、HRT以外の条件による影響が考えられる
・約7割がBMI 25以上だった
・盲検性がなかった
・脱落率がHRT群、プラセボ群ともに40%前後と高かった など
 
■第二の問題は、HRTの試験に使用された薬剤が適切だったかという点。
WHIで用いられたエストロゲン製剤は結合型エストロゲンの経口薬だが、「経口投与と経皮投与では脂質代謝や凝固因子に対する作用が異なる。
経口薬を選択したことで血栓症や脳卒中のリスクが高まった可能性がある」と太田氏は話す。

■エストロゲンと併用された黄体ホルモン製剤もポイントの一つ。子宮摘出術を受けていて子宮がない場合を除き、長期にHRTを行う場合には、子宮内膜の肥厚を抑えて子宮体癌を予防する目的で黄体ホルモンを併用することが多い。
問題は、「この黄体ホルモンが酢酸メドロキシプロゲステロン(MPA)だったこと」と太田氏。
MPAは、ほかの黄体ホルモン製剤に比べて乳癌細胞の抑制作用が弱いといわれるからだ。

■その後のWHIのサブ解析では、結合型エストロゲンを単独投与した場合、HRTは乳癌のリスクを低下させ、50〜55歳では虚血性心疾患のリスクも低下させる可能性があることなどが報告されている。

■WHIの試験打ち切りで冷や水を浴びせられた格好のHRTだが、2007年4月にはTIME誌が「見直されるHRT」として、HRTのベネフィットを得るためには開始する年齢やタイミングが重要と紹介するなど、回帰の動きが広がっているようだ。
実際、減り続けていた患者数も、07年以降は徐々に増え始めているという。

■もっとも、HRTのベネフィットとリスクについては賛否双方の報告が続き、WHI以降も定説といえるものは出ていないのが現状だ。
1996年〜2001年に英国で行われた「Million Women Study(MWS)」という観察研究では、主にHRTの乳癌に対する影響が検討され、03年には「HRTの治療期間に応じて乳癌の発症リスクが高まった」「ホルモン剤の剤型とは無関係にリスクが高まった」といった結果が報告されている。

■また、英国、オーストラリア、ニュージーランドで行われた臨床試験「Women's International Study of long Duration Oestrogen after the Menopause(WISDOM)」の結果も発表されてきている。
HRT(エストロゲンと黄体ホルモン併用療法)は、閉経後女性ののぼせやほてり、性機能、睡眠障害といったQOLを改善したという報告の一方で、閉経後にエストロゲン欠乏症状がない女性(閉経から経過した期間は平均15年)にHRTを行った際には、心血管イベントや静脈血栓塞栓症のリスクが有意に上昇したという報告がされている。

■さらに米国では、「KEEPS」や「ELITE」といった、血管の器質的変化をエンドポイントに置いた新しい臨床試験も始まっているという。

■日本においては、大規模な臨床試験は行われていないが、2004〜05年に行われた厚生労働省の研究班(主任研究者=埼玉医大乳腺腫瘍科教授の佐伯俊昭氏)による調査では、HRTは乳癌の発症リスクを高めないという結果が報告されている。

日本でもようやくガイドライン
■国際的には、次々に報告される試験の結果をフィードバックし、HRTの知見をアップデートしようとする動きは以前から活発だ。
今年(2008年)3月に行われた国際閉経学会(IMS)の第1回世界サミットでは、閉経後すぐのHRTについて、医療者だけでなく、患者やマスコミなどに対しても広くコンセンサスを取る努力をしようという意見がまとまった。
こうした動きに触発されてか、日本の関係学会もHRTのガイドラインを来春には正式に示す意向だ。

■2002年にWHIのHRT試験が中止になった直後、日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本更年期医学会はHRTに対する統一見解を発表。
「HRTを選択する際には患者一人ひとりのリスクとベネフィットを慎重に判断すること」「施行すべきでない患者ではないという確認、治療開始後の効果と副作用の判定を怠らないこと」「肥満や喫煙習慣などリスク因子を有する患者に、心血管系疾患の予防を目的としてWHIと同条件のHRTを行わないこと」——といった内容を示した。
それから実に6年を経て、日本でもようやくHRTのガイドラインがまとめられることになる。

■日本産科婦人科学会の生殖内分泌委員会委員長を務める、徳島大産科婦人科学教室教授の苛原稔氏。
「(WHIのHRT試験中止以来)ようやく見直されるようになってきたとはいえ、HRTのリスクについては医療者の間でもいまだに意見が分かれている。ただ、HRTは更年期や閉経後女性のQOLを改善する上で非常に有用であることは事実なので、他科の医師やコメディカルにも広く理解してもらいたい」。 
日本産科婦人科学会生殖内分泌委員会委員長である、徳島大産科婦人科教授の苛原(いらはら)稔氏は、ガイドライン作成に至った経緯についてこう話す。
これまで集積した内外のデータをきちんと示し、取り除ける不安は取り除いてもらおうということだ。

■HRTについては、いつまで続けるべきかという問題もある。
一部報道で「ガイドラインではHRTの期間を5年以内と定める」とも書かれたが、この点について苛原氏は「現時点で安全と考えられる実施期間は示したいが、それ以外のやり方を否定するものではない」と強調する。

■IMSの2007年の見解では「HRTの実施期間を限定する根拠はない」としており(IMS Updated Recommendations on postmenopausal hormone therapy. CLIMACTERIC 2007;10:181-194)、日本のガイドラインでも期間の限定までは踏み込めないだろう。
更年期症状や骨粗鬆症などの治療という観点からは、投与は短期間にとどめるのが望ましいという意見がある一方、予防という観点からは、定期的に検診を行えば長期の投与でも問題ないという意見がある。
どちらを取るかは、医師および患者の判断に任せられる。

■ガイドラインの内容については、今年11月15〜16日に行われる日本更年期医学会の第23回学術集会で案を公表し、会員の意見を集めるという。
日本産科婦人科学会でも同様に意見を集めて検討し、来年3月には最終決定まで進める方針だ。

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t025/200810/508246_3.html
NM online 2008.10.21


#5年以上のホルモン補充療法が乳癌発症リスクを高める可能性
■ホルモン補充療法(HRT)と乳癌発症リスクとの関連性を示唆する研究結果が示された。
研究は、WHI(Women's Health Initiative)試験結果を解析したもの。
詳細はNew England Journal of Medicine誌2009年2月5日号に掲載された。

■HRTは閉経後女性の更年期症状の治療法として、欧米では多くの女性たちに処方されてきた。
しかし、2002年のWHIの中間報告以降、米国ではHRTの使用が激減。
その後、乳癌の発生率も減少したことから、HRTと乳癌発症リスクとの関連性が指摘されてきた。

■同研究では、WHIの試験結果を解析し、WHIの観察研究コホート群において、一定期間の乳癌発生率を乳癌のリスク因子やマンモグラフィの受診頻度などをみながら、ホルモン補充療法と乳癌発生との関連性を評価した。

■WHIは、1993-1998年にかけて実施された無作為化臨床試験。
対象となったのは50-79歳までの閉経後女性1万6608人で、結合型エストロゲン0.625mg+酢酸メドロキシプロゲステロン2.5mgを毎日投与する群とプラセボ群とに無作為に割り付けられた。

■他方、観察研究コホート群は1994-2005年の間、HRTを使用していない2万5328人と使用している1万6121人を対象に評価した。
両群ともに過去に浸潤性乳癌の既往や子宮摘出はなく、マンモグラフィなどによる検査で乳癌を示す徴候もなかった。

■臨床試験では、最初の2年間はプラセボ群と比べてHRT投与群の方が乳癌と診断される女性は少なかったが、5.6年の介入期間中に投与群で乳癌と診断される数が増加した。

■乳癌リスクはHRTの使用によって上昇がみられたが、HRTを中止すると急速に減少した。
また、観察研究群における乳癌の発生率は、初期にはプラセボ群と比較して投与群が2倍だったが、その差は2年で減少した。

■LA BioMedのチーフ研究者で、同研究の筆頭執筆者であり、治験責任者でもあるRowan Chlebowski氏は、「これらの研究結果から、米国内において乳癌の発生率が最近減少している要因として、エストロゲン+黄体ホルモンの使用が減少したことと関連しているという仮説が支持できます」とし、さらに、「特に5年以上の投与を計画している場合は、これらの調査結果を考慮すべきです」と述べている。

■だが一方で、WHI試験に関しては、対象となった女性の年齢が、50-59歳が33.9%、60-69歳が45.4%、70-79歳が20.7%と高齢であったことや、BMI値が25未満が30.5%、25-30未満が35.3%、30以上が34.2%(数値はいずれもHRT投与群)と肥満傾向にあったことなどを指摘する専門家がいるのも事実だ。

■日本国内では2004年に、「ホルモン補充療法が乳癌の診療に及ぼす影響とその対策に関する研究」(厚生労働省癌研究助成金による研究)が実施され、HRTと乳癌との関連性については否定的な結果が報告されている。
また、今年4月以降には、日本初となるホルモン補充療法ガイドラインが発表される予定だ。

■2002年のWHIの中間報告以来、HRTと乳癌との因果関係については様々な議論が繰り返されてきた。今回の研究結果の発表を受け、また新たな議論が展開されそうだ。
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/search/cancer/news/200902/509433.html
出典 NM online 2009.2.20
版権 日経BP社

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by wellfrog3 | 2009-03-23 00:51 | 産婦人科

HRTガイドライン

第23回日本更年期医学会での「HRTガイドライン作成に向けて」の記事で勉強しました。

2002年の大規模臨床試験WHI(Women's Health Initiative)の中止により,リスクのみがクローズアップされていたホルモン補充療法(HRT)だが,サブ解析の結果や新薬の認可,2009年発表予定のガイドラインの作成など,HRTの意義を再評価する動きが進んでいる。
横浜市で開かれた第23回日本更年期医学会(会長=聖マリアンナ医科大学産婦人科・石塚文平教授)のシンポジウム「日本人におけるHRTのあり方を探る」(座長=弘前大学産科婦人科・水沼英樹教授,東京大学産科婦人科・矢野哲准教授)では,HRTを行ううえで現場の医師が感じる不安を払拭すべく,HRTと乳がん,脂質代謝との関連などについて最新の知見が示された。

WHI後の情報提供に高いニーズ
弘前大学産科婦人科の樋口毅講師は,日本産科婦人科学会と日本更年期医学会が共同で進めているガイドライン作成に先立ち,学会員を対象に行ったアンケート結果を報告,「診療現場からの声としてWHI以降の情報周知徹底や日本人のデータを集めることの必要性を強調する声が多かった」と述べた。

臨床現場の声をガイドラインに反映
アンケートでは,会員98人から306の質問などが寄せられた。
そのうち,「HRTに期待される作用・効果」のトップは,うつ,認知症,情緒障害など精神神経症状の改善効果(33%)についての質問で,これらの症状に対してHRTはどこまでかかわることができるのかという内容が多かった。
次いで,更年期症状(22%),骨量改善(19%),脂質異常(11%)などであった。
 
「予想される有害事象」については,乳がん(38%),出血・子宮体がん(30%)に関する質問が多く,血液凝固・血管疾患(15%),子宮頸がん・卵巣がん(6%)が続いた。
いずれも現時点でのエビデンスをどのように解釈してよいのかという内容が多かった。
このほか,HRTに使用する薬剤の使い分け,黄体ホルモンの併用方法,経口避妊薬からの移行,選択的エストロゲン受容体モジュレーターとの使い分けなど,多くの質問が寄せられた。
 
樋口講師は「臨床現場ではWHI中間報告以降のエビデンスを更年期医療に携わる婦人科医師だけでなく,他科の医師,コ・メディカルおよび患者,ひいてはマスコミに広くかつ正しく伝える有効な方法への需要が高まっている。
ガイドラインでは種々のエビデンスが整理・要約されており,この需要に応える強力なアイテムになると信じている」と述べた。

低用量でも黄体ホルモンの併用を
徳島大学大学院産科婦人科の安井敏之准教授は,ガイドラインの作成や新たなホルモン製剤の発売を踏まえ,「低用量で経皮が望ましい,低用量でも黄体ホルモンの併用は必須」とするHRT処方の進め方を示した。

経口より経皮に軍配か
安井准教授はまず,エストロゲン製剤の種類について,従来からわが国で使われている結合型エストロゲン(CEE)ではトリグリセライド(TG)とC反応性蛋白(CRP)が増加するのに対し,新たに登場したマイクロナイズドエストラジオール(E2)では変化しない点を指摘。
投与経路に関しては,経口では動脈硬化に関連するサイトカインが増加して静脈血栓塞栓症のリスクが上昇するのに対し,経皮では逆にサイトカインが減少することを示した。
 
投与量については,国際閉経学会が低用量を推奨している点に触れ,低用量エストロゲン製剤はホットフラッシュを改善,骨密度を増加,脂質代謝にも有利であり,投与量の増加に伴い脳卒中や血栓症のリスクが高くなることを示した。
 
低用量エストロゲン製剤としてE2の経口剤があるが,CEEの低用量(0.3mg)はわが国では発売されていない。同准教授は「中性脂肪の増加が見られず,性器出血が連日投与に比べてはるかに少ない隔日投与も1つの候補」とした。
 
さらに,低用量のエストロゲン製剤であっても,子宮内膜増殖症の発生を防ぐために黄体ホルモンの併用は必要とし,併用するメドロキシプロゲステロンの量は周期投与の場合5〜10mgで10〜12日間,連日投与の場合2.5mgを推奨。エストロゲン製剤と黄体ホルモン製剤の両方が配合された経皮剤と経口剤が発売予定であることを紹介した。
 
同准教授は「低用量の経皮を推奨しても,フェミエストは現在発売休止中であり,すべての製剤において一長一短があり,なかなか推奨できる薬剤がないのが現実」と断ったうえで,HRT処方の進め方を示した(図)。

経皮製剤に脂質代謝改善の可能性
WHIでHRTが心血管疾患(CVD)のリスクを上昇させることが報告されたことについて,愛知医科大学産婦人科の若槻明彦主任教授は,エストロゲンの投与経路と黄体ホルモンの種類が影響したのではないかとの見解を示した。

経皮でトリグリセライドが低下
閉経後にエストロゲン濃度が減少すると,CVDのリスクが上昇する。HRTは脂質代謝改善作用によってCVDのリスクは低下すると考えられてきたが,WHI報告がそれを覆し,脂質異常症の積極的適応とはならなくなった。
 
若槻主任教授は閉経後の脂質代謝のうちトリグリセライド(TG)に注目し,「エストロゲンが低くなるとTGが高くなり,LDLの小粒子化が進む。
小型LDLは酸化されやすく,酸化して超悪玉化したLDLをマクロファージが一方的に食べて自爆する。自爆したマクロファージは,血管内皮のなかに動脈硬化層を形成する。
つまり,エストロゲン低下による高TG血症が粥状硬化を進める原因となるのではないか」との見解を示した。
 
エストロゲンを補充する場合,TGの上昇を防ぐことが重要な課題となる。
同主任教授は「経口エストロゲンではTGが増加するが,経皮ではTGが低下して酸化されにくい大型のLDL粒子に変化して,血管壁のなかで抗酸化作用を発揮する」として,投与経路を経皮にしたHRTに閉経後の脂質代謝を改善させる可能性があることを示唆した。

年に1回の乳がん検診が不可欠
聖マリアンナ医科大学乳腺・内分泌外科の福田譲教授は「HRT中と治療終了後5年間は2年に1回の検診では不十分」と警告,マンモグラフィと超音波の併用も考慮に入れた年1回の検診が不可欠と強調した。

住民検診だけでは不十分
わが国の乳がん罹患数は約4万人に及び,年齢調整罹患率で女性のがんの第1位,がんによる死亡原因では30〜64歳までの各層で第1位である。
一方,米国では2003年に乳がん罹患率が6.7%減少し,これがWHI臨床試験の中止の翌年に当たることから,HRTの減少が乳がんの減少につながったのではないかとの見方もある。
これについて,福田教授は「乳がんは長期間かかって発症すると考えられており,HRT使用率減少と簡単に結び付けるのは問題がある」との見解を示した。
 
厚生労働省がん研究助成金「ホルモン補充療法が乳がん診療に及ぼす影響とその対策に関する研究」(主任研究者=埼玉医科大学乳腺腫瘍科・佐伯俊昭教授)では,HRT歴がある女性の乳がん発症リスクが少ない(オッズ比0.432)との結果であった。
同教授は「コントロール群の年齢(中央値56歳)が乳がん群(中央値49歳)に比べて高いことから,観察対象期間の長いコントロール群がHRTに曝露される機会が多い。観察対象期間をマッチさせると結論が変わる可能性がある」と指摘した。
 
現在,市町村が行う乳がん検診は,40歳以上を対象とした2年に一度の視触診とマンモグラフィの併用検診である。同教授は,乳がん検診の受診率が20%台にとどまっている点を指摘。
特に,HRT使用者は1年に1回の検診が必要なことから,同教授は住民検診では不十分との見解を示した。
 
さらに,同教授は「HRT使用中は乳腺濃度が高くなることを考慮すると,マンモグラフィと超音波の併用が有効である可能性がある」と述べた。
 
乳がん検診における超音波検査の有効性に関しては現在,厚生労働省研究班が比較試験を実施中で,この結果を受けて住民検診に超音波検診の導入が検討される見込みである。
禁忌とされている乳がん治療後のHRTに関しては,再発リスクを上げるとして中止となったHABITS試験に触れたうえで,「ホルモン感受性のないタイプに限っては,術後4〜5年からHRTを開始してよいのではないか」と述べた。

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奥田元宋 遠山白雪
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by wellfrog3 | 2009-03-22 00:37 | 産婦人科