タミフル耐性インフルエンザウイルス
世界規模で急速に広がるタミフル耐性化 国立感染症研究所インフルエンザウイルス室室長 小田切孝人氏に聞く 2008年の秋ごろから、一部の専門家の間で話題になり始めた「タミフル耐性」のインフルエンザウイルス。 当時は、まだその脅威のほどはよく分かっていなかったが、世界保健機関(WHO)が調査に乗り出したところ、世界中に予想を上回るスピードで耐性化が拡大していることが明らかになった。 世界および日本国内に、耐性化ウイルスがどのように広がっているかについて、国立感染症研究所ウイルス第三部インフルエンザウイルス室長の小田切孝人氏に聞いた。 —— タミフル耐性株が出現し、問題が顕在化してきた経緯を教えてください。 小田切 2007年の11月ごろから、抗インフルエンザウイルス薬のタミフル(一般名:オセルタミビル)に強い耐性を示すA/H1N1亜型インフルエンザウイルスが、ヨーロッパ、特にノルウェーや北欧を中心に高頻度で確認されるようになりました。 WHOが、このタミフル耐性株が世界でどれくらい広がっているかを、各国に依頼して調査したところ、2007年後半から今年3月の調査では、世界全体での耐性株の出現頻度は16%でした。 これが2008年4〜10月には39%と、4割近くが耐性株になっていました。 半年ほどで比率が倍増して、4割近くになったわけです。 世界規模でタミフル耐性株が広がっていることは間違いありません。 —— タミフル耐性株は、現在、世界中にどのように分布しているのですか。 小田切 この図は、2008年10月14日時点で、世界でどれくらい耐性株が広がっているかをマッピングしたものです(図1)。 赤色は、A/H1N1株のうち25%以上がタミフル耐性株だった国、濃いオレンジは10.0〜24.9%、薄いオレンジは1.0〜9.9%、黄色は1%未満です(灰色はまだデータが反映されていない国)。 図1 国別に見たタミフル耐性A/H1N1型インフルエンザウイルスの検出率(2008年10月14日時点) WHOのホームページから引用。 この地図にはまだ反映されていませんが、その後、南アフリカでA/H1N1分離株を100株規模で調べたところ、すべてが耐性だったと報告されています。 セネガルでも100%、オーストラリアでも80%が耐性と報告されました。欧州諸国も大半の国が50%を超えています。 —— タミフル耐性とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。 小田切 今、問題になっているタミフル耐性株は、タミフル感受性の株に比べて300〜1000倍もの耐性を示します。 ですからタミフルが効きにくいというレベルではなく、臨床的に言えば、タミフルが全く無効なインフルエンザウイルスと考えていいでしょう。 小田切 しかも、今世界に広がっているタミフル耐性のA/H1N1型ウイルスは、感染力も強いので、今後、さらに拡大する可能性が高いと考えられます。 実は、これまでも、H1N1型、H3N2型、B型のそれぞれに、タミフルやリレンザ(一般名:ザナミビル)に対する耐性株が確認されていました。 ですが、いずれもこれらの薬剤に暴露されたことによる「選択圧」で顕在化したもので、通常の株よりも感染力が弱いために、臨床上は大きな問題になることはありませんでした。 ところが、先ほど100%だったと申し上げた南アフリカやセネガルが代表例ですが、今問題になっている耐性株が出現した国のいくつかは、これまでほとんどタミフルやリレンザを使用していない国なのです。 つまり今回の耐性ウイルスは、薬剤の使い過ぎ(薬剤の選択圧)が原因で見つかったのではなく、これまでとは全く別のメカニズムで発生したものと考えられます。 別のメカニズムというのは、要するに「突然変異」です。 インフルエンザウイルスは、元々非常に不安定なウイルスで、ヒトからヒトに感染が広がる過程で様々な突然変異が起こります。 そのために、インフルエンザワクチン株は毎年見直す必要があります。 今回の耐性株は、自然発生的に起こった突然変異が、たまたまタミフルが作用する部分に入ってしまった。 具体的に言うと、今回の耐性化には、ウイルスが持つノイラミニダーゼという蛋白質の275番のアミノ酸が、ヒスチジンからチロシンに置換したことが関与しています。 ノイラミニダーゼは、インフルエンザウイルスが体内で広がるための酵素で、タミフルは、ここに作用しているのです。 —— タミフル耐性のウイルスは、今後、どのようなスピードで広まっていくと考えられますか? 小田切 アマンタジン(商品名:シンメトレルほか)の耐性化は急速でした。 アマンタジンの耐性株は、03〜04年ごろから中国を中心に広がったのですが、そこから2シーズン後には、ほぼ全世界に広がりました。 今や、香港型(A/H3N2)の100%、A/H1N1の65%が、アマンタジンに耐性を示す状況です。 このことを考えると、タミフル耐性も、1〜2シーズンくらいでほぼ全世界に広がるのではないかと考えられます。 先ほども言いましたが、薬剤の選択圧で出てくる耐性株は、ほかの株よりも感染力が弱く自然消滅することが多いのですが、今回問題となっている耐性株は、自然発生的に起こった突然変異が原因ですから、通常の株と同じくらい感染力がある。 そこが今回の大きな特徴で、だからこそ、このように世界的に急速に拡大しているのだと考えられます。 http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/s001/200812/508948.html 出典 NM online 2008. 12. 24 版権 日経BP社 他にもブログがあります。 ふくろう医者の診察室 http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy (一般の方または患者さん向き) 葦の髄から循環器の世界をのぞく http://blog.m3.com/reed/ (循環器科関係の専門的な内容) 「井蛙内科/開業医診療録(2)」2008.5.21~ http://wellfrog2.exblog.jp/ 井蛙内科開業医/診療録 http://wellfrog.exblog.jp/ (内科関係の専門的な内容)
by wellfrog3
| 2009-01-05 00:03
| 感染症
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