入院前のスタチン系薬服用が肺炎による死亡率低下と関連
オルフス大学オールボー病院(デンマーク・オールボー)臨床疫学科のReimar W. Thomsen博士らは,肺炎で入院する時点でスタチン系薬を服用していた患者では入院後90日以内に死亡する割合が低かったとArchives of Internal Medicine(2008; 168: 2081-2087)に発表した。 入院から数週間以内が特に有効 米国や欧州では,肺炎による入院率が過去10年間に20〜50%上昇した。 一方,近年の研究でスタチン系薬が抗血栓作用,抗炎症作用,あるいは免疫調節作用により敗血症または菌血症に有効であることが示されている。 Thomsen博士らは,1997〜2004年に肺炎で入院した2万9,900例の成人患者に関するデータをレビューした。 このうち,1,371例(4.6%)が当時スタチン系薬を服用していた。 その結果,スタチン系薬服用群における入院30日後の死亡率は10.3%だったのに対し,非服用群では15.7%であった。 また,90日後でも16.8%対22.4%とスタチン系薬服用群で低かった。 スタチン系薬服用による死亡率の差が最も小さかったのは,80歳以上の患者と菌血症患者であった。 死亡率の差が著明に見られたのは,肺炎関連の死亡が高率となる入院後から数週間の時期で,入院から30〜90日後ではその差は微増したにすぎなかったため,スタチン系薬服用はおもに感染の初期に有益と考えられた。 過去のスタチン系薬の服用および心血管系の健康を保つことを目的とした他の予防薬の服用は,肺炎による死亡率低下とは直接関連していなかった。 今回の結果を説明できる生物学的機序は複数存在する。 スタチン系薬は免疫反応を調節し,血栓および炎症の発生過程に影響を及ぼすことで,血管の機能不全を抑制する。 これらの効果は,肺炎による早期死亡につながる敗血症と菌血症を呈している患者に対して特に便益がある。 同博士らは「今回の研究結果は,スタチン系薬が重度感染症の予後改善と関連していることを示した先行研究の結果を支持するものである。 今回,スタチン系薬服用に伴う死亡率低下は,入院が必要な肺炎患者では顕著に見られたが,この因果関係を分析するには,ランダム化比較試験を行う必要がある。スタチン系薬は広く投与されているうえ,比較的低コストで有害事象も軽度であるため,肺炎患者に対する試験結果が良好であったことは,臨床上と公衆衛生上の意義が大きい」と結論している。 ノートルダム大学(インディアナ州ノートルダム)のKasturi Haldar博士は,同誌の論評(2008; 168: 2067-2068)で「スタチン系薬は,有効血漿濃度に到達するのに数日かかるため,急性感染治療にはあまり適していない。しかし,同薬は宿主を標的とするため,細菌感染治療で大きな問題となる薬剤耐性は起こりにくい。今後,同薬を従来の抗菌薬と組み合わせて臨床試験を行い,急性感染と持続性感染の両方に有効で最適な併用療法を見出すことが望まれる」と述べている。 出典 Medical Tribune 2009.1.1,8 版権 メディカル・トリビューン社 <番外編> ゔょっと古いニュースで恐縮です。 難病腸炎の発症メカニズム解明…阪大チーム 腸に炎症を起こす難病「潰瘍(かいよう)性大腸炎」などの腸疾患が発症するメカニズムを、大阪大の竹田潔教授(免疫学)、本田賢也准教授(同)らがマウスの実験で解明した。 腸内の細菌が過剰に放出したATP(アデノシン三リン酸)という物質が免疫システムの異常を引き起こしていた。 治療法の開発につながる成果で、20日付の科学誌ネイチャー電子版で発表した。 潰瘍性大腸炎や若年層の腸が炎症を起こすクローン病は、食生活の欧米化に伴い、患者数が急増している。 竹田教授らは、炎症を起こす物質を作る「Th17細胞」が、無菌飼育したマウスの腸管ではほとんど見られないことに着目。 腸内細菌が放出するATPをマウスの腸管細胞に大量に与えると、Th17細胞が増加し、炎症物質も増えた。 竹田教授は「腸内のATP濃度を抑えれば、治療できる可能性がある」と話している。 出典 読売新聞 2008.8.22 版権 読売新聞社 <コメント> 「腸内の細菌が過剰に放出したATP」が発症の原因ということのようですが、どのような人にこのようなことが起こるのかという疑問が残ります。 <関連サイト> 潰瘍性大腸炎の発症要因を解明 (竹田教授・本田准教授らが Nature に掲載) http://www.ifrec.osaka-u.ac.jp/jpn/research/2008/08/nature-takeda080829.php 他にもブログがあります。 ふくろう医者の診察室 http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy (一般の方または患者さん向き) 葦の髄から循環器の世界をのぞく http://blog.m3.com/reed/ (循環器科関係の専門的な内容) 「井蛙内科/開業医診療録(2)」2008.5.21~ http://wellfrog2.exblog.jp/ 井蛙内科開業医/診療録 http://wellfrog.exblog.jp/ (内科関係の専門的な内容)
by wellfrog3
| 2009-01-15 00:12
| 呼吸器科
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