治癒可能進行胃がんに対するリンパ節郭清の意義についての記事で勉強しました。
「治癒可能進行胃がん」に限定したリンパ節郭清の要否ということですが、リンパ節郭清については随分以前から議論が繰り返されているところです。 内科医として不要な知識かも知れませんが、普段診察している患者さんや自分自身が胃がんになった時にきっと役に立つと思います。 解説は兵庫医科大学上部消化管外科笹子三津留教授です。 治癒可能進行胃がんに対するリンパ節郭清 予防的な大動脈周囲リンパ節郭清は施行すべきでない ■胃がん根治術の根本はリンパ節郭清にあるが,その確実なエビデンスは確立されていない。 ■遠隔転移のない進行胃がんを対象とした標準的D2リンパ節郭清(第1群および第2群リンパ節郭清)単独とD2リンパ節郭清+大動脈周囲リンパ節郭清(PAND)とのランダム化比較試験(RCT)である日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)の9501試験で,両群の5年全生存率に有意差が認められなかったことから「予防的なPANDは施行すべきではない」と結論された(N Engl J Med 2008; 359: 453-462)。 リンパ節のコントロールが重要 ■1970〜80年代には手術以外に特に延命策がなく,遠隔転移が多数認められる症例を除いて大半の胃がん患者はまず手術を受けていた。 ■当時の手術時における転移の状況は,浸潤が固有筋層(MP)または漿膜下層(SS)までのT2以下では,10%以下の症例を除いてリンパ節転移以外はほとんどなかった。 ■浸潤が漿膜に接しているか,漿膜を破って遊離腹腔に露出しているT3においても,80%近いリンパ節転移率と比べて肝転移6%,腹膜転移18%と低頻度であった。 ■また,胃がんの深達度とリンパ節転移の関係については,T2のMPとSSおよびT3で第2群リンパ節まで転移が認められるpN2症例の割合はそれぞれ17%,28%,41%であり,D2郭清を行わない場合には残存リンパ節転移が高頻度に生じることが明らかであった。 ■このような胃がんに対してD1(第1群リンパ節)郭清以下の手術を行うと,大半が局所再発することを示すデータが米国で報告されている。 ■一方,D2以上の郭清を施行した場合はどうか。 同教授は「再発例の約半数は腹膜再発で,リンパ節を含む局所再発は4分の1程度と少ない。 ほとんどの再発が血行性の遠隔転移である肺がんとは異なり,胃がんではリンパ節をコントロールすることが非常に重要である」と強調する。 D2郭清はD1郭清に勝るか ■1980年代後半から欧州で何件かのRCTによりD2郭清の評価が行われた。 そのうち英国とオランダで行われたD1郭清とD2郭清とのRCTは,いずれもD2郭清の有効性を証明するには至らなかった。 ■英国のRCTはD2郭清の教育も質のコントロールも不良で,手術死亡率の高さ,一度としてD1郭清を上回らなかった生存率曲線など試験の信頼性が乏しい(笹子)。 ■比較的質がよいとされるオランダの試験についても,1施設当たりの症例数の著しい少なさや術後死亡率の高さから,十分な質の手術・術後管理であったとは言えない(笹子)。 同RCTの術後死亡率はD1郭清群の4%に対してD2郭清群では10%と高く,両群の生存率曲線は3年当たりで交差し,その後はD2郭清群が勝ったが,その差が有意とはならなかった。 ■他のRCTと比較すると,英国とオランダの試験はともに1施設当たりの年間の平均症例数が2例以下ときわめて少なく,両試験でのみ10%以上の術後死亡率が報告されている。 オランダのRCTでD2郭清群の5年生存率がD1郭清群を上回らなかった理由として,高い在院死亡率のほかにD2郭清の不完全性が挙げられている。 D2郭清群の約半数の症例で摘出すべきリンパ節番号のうち2つ以上が欠けており,またD1郭清群の6%でD1以上の郭清が行われていた(笹子)。 ■これらの反省を踏まえ,イタリアのトリノグループはD2郭清の安全性確認試験として第II相臨床試験を行った。 登録症例数がすべての参加施設で一定以上になることを考慮した結果,第II相臨床試験としてはきわめて多い191例を登録,術後在院死亡率3%を達成した。 これは,欧米でもD2郭清を安全に施行できることを証明したものだという。 ■イタリアの試験におけるD2郭清のステージ I A, I B,II,III A,III Bによる5年生存率は93%,88%,60%,40%,20%で,オランダの試験の81%,61%,42%,28%,13%とはかなりの差があった。 イタリアのステージ別長期生存成績はわが国の成績に近く,オランダの成績よりはるかに勝っている(笹子)。 術後放射線化学療法は必要か ■D1郭清のみで治療は十分か。 術後補助放射線化学療法と手術単独とを比較したRCTで,興味深い結果が出ている。 ■米国のSouthwest Oncology Group(SWOG)を中心としたインターグループのRCT(INT0116)で,根治切除後の症例に対する45Gyの放射線療法とフルオロウラシル(5-FU)+ロイコボリンによる化学療法が,手術単独を大きく上回る生存率曲線を示した。 手術単独群の死亡ハザード比は1.35で,放射線化学療法により有意な予後改善が得られたことから,現在,米国では根治切除後の胃がんに対しては術後補助放射線化学療法を行うことが標準治療となっている。 しかし,この試験ではD0郭清が54%,D1郭清が36%を占め,D2郭清を受けた症例はわずか10%にすぎなかった。 ■有意差こそないものの術後治療の効果はD0とD1郭清群にのみ認められ,D2郭清群では術後補助放射線化学療法の効果は認められなかった。 このサブグループ解析の結果は,D2郭清群が少数のため決定的なことは言えないが,少なくともD0/1郭清を受けた患者では術後補助放射線化学療法が必須であり,また胃がんに対しては良好な局所コントロールが有効であることが示されたと解釈できる(笹子)。 ■漿膜浸潤陽性胃がんを対象としたRCTであるJCOG9206-2とINT0116の術後放射線化学療法群の症例は,偶然ではあるが深達度や腫瘍の局在など重要な予後因子がきわめて類似した2群であった。 しかし,5年生存率はJCOG9206-2の手術単独群が61%であったのに対し,INT0116の術後放射線化学療法群では42%にすぎなかった。 ■直接の比較データではないものの,D2郭清単独がD0/1郭清に放射線化学療法を加えた治療成績を凌駕していることは明白である。 ■コストや放射線療法による腎障害などを考えると,D2郭清が標準であるわが国で放射線療法を術後補助療法に積極的に取り入れる理由はない(笹子)。 ■最近,台湾における単施設でのD1郭清とD2郭清とのRCTの結果が報告された。 同試験の術後在院死は両群ともに0%で,全生存率曲線はD2郭清群が有意に勝っていた。 ■単施設の試験であることや検定の多重性が疑われるなど問題もあるが,D2郭清がD1郭清に勝ることを世界で初めて証明したRCTである(笹子)。 PANDは生存期間を延長しない ■PANDは1980年代後半から広く行われてきたが,その臨床的意義は不明であった。 JCOG9501は胃がんに対するPANDの臨床的意義を評価したRCTで,523例が標準的D2郭清単独とD2郭清+PANDに割り付けられた。 両群の背景因子は均一だったが,PAND併用群は手術時間が1時間長く,失血量が230mL多かった。術後在院死亡率は両群とも0.8%であった。 重度合併症の発生率は同等だったが,軽度の合併症はD2郭清群の9%に対し,PAND併用群では20%と有意に多かった。 ■3年全生存率はD2郭清群,PAND併用群ともに76.4%,5年全生存率はそれぞれ69.2%,70.3%で有意差は認められなかった。 また,層別化解析でリンパ節転移のないpN0症例ではPAND併用群の生存転帰が良好,リンパ節転移のあるpN+症例ではD2郭清群の生存転帰が良好であることが示されたが,その理由は不明であった。 ■肉眼的治癒切除可能な進行胃がんに対しては,手術時間が長く,出血量が多く,合併症率が高く,生存期間を延長しないD2郭清+PANDは施行すべきでない(笹子)。 ■しかし,PAND併用群の術後死亡率はD2郭清群と同程度に低く,QOL低下もD2郭清群と大差がないこと,大動脈周囲リンパ節転移症例の18%が5年生存したことなどから,「PANDそのものは受け入れることができるものであり,今後の課題は対象の選択に移った(笹子)。 ■D2郭清は治癒切除可能な進行胃がんに対する標準的術式であり,わが国の外科医がつくり上げてきた胃がんに対する最高の局所治療である(笹子)。 ■1群リンパ節である幽門下リンパ節郭清1つをとっても,膜構造を理解してさまざまな症例に対応できる手技を身に付けている外科医がどれだけいるか,少なからず不安を感じる。 また,腹腔鏡下胃切除はあくまでアプローチの違いであり,メリットが限られていることを忘れずに開腹手術のレベルを高める研さんを続ける必要がある(笹子)。 出典 Medical Tribune 2009.1.1,8 版権 メディカル・トリビューン社 <コメント> 治癒可能進行胃がんには 大動脈周囲リンパ節郭清(PAND)は不要であること D2郭清をしっかりすること 諸外国の文献は注意して読むこと といったところが結論のようです。
by wellfrog3
| 2009-01-20 00:22
| 消化器科
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