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S状結腸鏡によるスクリーニング 

BMJ誌に発表された、「S状結腸鏡によるスクリーニングには限界がある」という論文で勉強しました。



#S状結腸鏡によるスクリーニングは大腸癌を減らさない
ノルウェーの大規模無作為化試験NORCCAPの中間結果

S状結腸鏡を用いたスクリーニングが大腸癌の罹病率と死亡率を低下させる可能性が示されているが、明確な利益を示した質の高い無作為化試験はなかった。
ノルウェー癌登録・大腸癌予防センターに所属するGeir Hoff氏らは、進行中の大規模無作為化試験NORCCAPトライアル1の中間解析を行い、1回のスクリーニング実施はその後7年間の大腸癌罹患率と大腸癌死亡率に有意な影響を及ぼさないことを示唆した。
詳細は、BMJ誌2009年6月6日号に報告された。

NORCCAPトライアル1は、軟性S状結腸鏡を用いたスクリーニングを1回行い、その後の大腸癌リスクと大腸癌死亡リスクを、検査を受けなかった人々と比較する無作為化試験で、ノルウェーのOslo(都市部)とTelemark(都市部と田園地帯が入り交じる地域)で行われている。

55〜64歳の男女5万5736人(平均年齢59歳、女性が50%)を登録。
これらの人々のうち、1万3823人を軟性S状結腸鏡を用いたスクリーニングに1回だけ招待する群(6908人には便潜血検査も勧めた)、4万1913人をスクリーニングなし群に無作為に割り付けた。

両都市の2カ所の医療機関で、1999年1月から2000年12月に集団ベースのスクリーニングを実施。スクリーニングにおける陽性判定は、直径10mm以上のポリープ、組織学的に腺腫と判定された腫瘍(大きさは問わない)、または癌腫が見付かった場合、もしくは便潜血陽性とし、陽性者には全大腸内視鏡検査を行って標本を採取した。
癌と診断された患者は治療を受け、それ以外の人々と同様に地域の医療機関で追跡された。

ノルウェーには、疫学研究用として、癌罹患と全死因死亡にかかわる情報を生涯にわたって登録するデータベースが存在する。
対照群については、該当者に接触することなしに、データベースに登録された情報に基づいて追跡期間中の大腸癌罹患と大腸癌死亡の有無を判断した。

主要アウトカム評価指標は、5年後、10年後、15年後の大腸癌の累積罹患率と死亡率に設定されているが、今回は初めての中間評価として、中央値7年の追跡における累積罹患率と6年の時点の死亡のハザード比を調べた。分析はintention-to-screening(割り付け群に基づく分析)で行った。

割り付けから試験開始(スクリーニング群の場合には、検査日を決めた日を試験開始とした)までの間に、大腸癌との診断を受けた、または死亡した人々(スクリーニング群149人、対照群604人)は分析から除いた。

スクリーニング群で実際にスクリーニングを受けたのは8846人(64.8%)だった。
うち21%が全大腸内視鏡検査を受けた。当初のS状結腸鏡検査とその後の全大腸内視鏡検査で発見された大腸癌をスクリーニングによる検出とした。

スクリーニングによる大腸癌検出は33人で、うち16人がS状結腸鏡のみ、17人が便潜血検査を併用した患者だった。

intention-to-screening解析では、スクリーニング群1万3653人と対照群4万1092人の間の累積罹患率に差はなかった。
大腸癌罹患者は、スクリーニング群123人、対照群は362人で、罹患率は10万人-年当たり134.5と131.9。

次に、実際にスクリーニングを受けた8846人を対象に、結腸鏡が届いた範囲(男性では平均48.9cm、女性では44.0cm)の直腸S状結腸癌の罹患率を比較した(per-protocol分析)。
スクリーニング受検者では35人、対照群では217人が罹患しており、罹患率は10万人-年当たり58と79になった(p=0.103)。

大腸癌死亡は、スクリーニング群1万3653人中24人、対照群4万1092人中99人。大腸癌死亡のハザード比は0.73(95%信頼区間0.47-1.13、p=0.16)だった。
直腸S状結腸においても、死亡のハザード比は0.63(0.34-1.18、p=0.15)で有意差なしとなった。

一方、per-protocol分析では、大腸癌死亡リスク(ハザード比0.41、0.21-0.82、p=0.011)、直腸S状結腸癌の死亡リスク(ハザード比0.24、0.08-0.76、p=0.016)は、共にスクリーニング受検者群で有意に低かった。

全死因死亡については両群間に差はなかった(ハザード比1.02、0.98-1.07、p=0.28)。

なお、発見された癌のステージ分布を比較したところ、集団に占める進行癌患者の割合は、スクリーニング検出グループで最も低く1.2%だった。
スクリーニング時には陰性だったがその後大腸癌が見つかった患者では3.3%、スクリーニング群に割り付けられたが検査を受けなかったグループでは7.9%、対照群は6.4%となった。

#S状結腸鏡検査に起因する重症の合併症はなかった。
今回の7年間の追跡では、S状結腸鏡を用いたスクリーニングによる大腸癌罹患率と死亡率の有意な低下は見られなかった。
だが、追跡期間が伸びれば、差が現れる可能性は残る。

また、実際に受検した者のみを分析対象にすると、死亡率は有意に低下していたが、スクリーニングを広範に実施した場合の利益を明らかにするためには、より精密な設計の無作為化試験を行う必要があるだろう、と著者らは述べている。

Risk of colorectal cancer seven years after flexible sigmoidoscopy screening: randomised controlled trial
BMJ 2009;338:b1846
http://www.bmj.com/cgi/content/full/338/may29_2/b1846


http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/bmj/200906/511242.html
出典 NM online 2009.6.22
版権 日経BP社


<番外編>
以下は、大腸ポリープと大腸癌の検出能力をカプセル型内視鏡と大腸内視鏡で比較した論文です。

原著
Capsule Endoscopy versus Colonoscopy for the Detection of Polyps and Cancer
Volume 361:264-270July 16, 2009Number 3
http://content.nejm.org/cgi/content/short/361/3/264

大腸ポリープと大腸癌の検出におけるカプセル型内視鏡と
大腸内視鏡の比較
Capsule Endoscopy versus Colonoscopy for the Detection of Polyps and Cancer
A. Van Gossum and others
http://www.nankodo.co.jp/yosyo/xforeign/nejm/361/361jul/xf361-03-0264.htm
■結 論
カプセル型内視鏡による大腸粘膜の観察は大多数の患者で可能であるが,その大腸病変検出の感度は大腸内視鏡よりも劣っている.


<医学雑誌斜め読み>
日本医事新報 No.4445 2009.7.4
プライマリケア医のためのIBS診療
辻賢太郎クリニック  辻賢太郎 院長
版権 日本医事新報社、アステラス製薬 

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by wellfrog3 | 2009-07-22 00:48 | 消化器科
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