腰椎椎間板ヘルニア・内視鏡手術

東京大学病院整形外科の竹下克志講師の、腰椎椎間板ヘルニアに対する内視鏡手術が本当に低侵襲性で合併症や有効性の点で問題ないのかという問題提起の記事で勉強しました。


#腰椎椎間板ヘルニアに対する内視鏡手術は本当に患者に優しいのか?
#顕微鏡手術とのRCTから

#研究の背景:
#患者の期待はきわめて高いが,合併症や再発の懸念も
腰椎椎間板ヘルニアなど脊椎外科の領域でも,消化器外科,脳外科,泌尿器科などと同じく内視鏡手術がさかんに行われている。
生検など検査目的で始まり,次いで神経除圧や腫瘍摘出,最近では固定手術にまで応用されてきた。
特に罹患患者数が多い腰椎椎間板ヘルニアへの内視鏡手術への期待は高く,1997年に米国のFoleyらが開発したMED(Microendoscopic Discectomy)は大きな注目を浴びて瞬く間に世界中に広まり,特に韓国と日本,ドイツではこうした内視鏡手術がさかんである。

“創が小さい”,“早く退院できる”といった触れ込みもあり,患者さんの内視鏡手術への期待はきわめて高い。
一方で内視鏡手術はラブ手術と呼ばれる一般手術よりも技術的な難易度が高いと言え,合併症発生率や再発率に対する懸念は依然から指摘されていた。
しかし,本当に患者に優しい手術なのか?という課題に真正面から取り組んだ研究は多くはない。今回これまでの報告とは次元を異にする,従来の顕微鏡手術とのランダム化比較試験(RCT)がJAMA(2009; 302: 149-158 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez/19584344)に掲載されたので,この研究をもとに脊椎外科領域の内視鏡手術について考えたい。

#研究のポイント:
#合併症,再発,治療効果で顕微鏡手術のほうが良好な傾向
Artsらは腰椎椎間板ヘルニアの患者に内視鏡手術あるいは顕微鏡手術を行った手術成績を比較分析した。
このRCTはオランダの7つの脳神経外科で行われた。
調査項目は疼痛,機能,患者が感じた回復度である。
ユニークな点として症例を選択する際に小さめの椎間板ヘルニアで神経根への圧迫がはっきりしない症例は除いている。

可変ブロックスケジュールでランダム化を行っており,患者と評価者には内視鏡手術と顕微鏡手術のどちらが行われたかは調査期間中に知らされていない。
したがって“最新の手術法”などといったプラセボ効果は消されている。
一次評価項目としたのは,腰痛の評価では代表的な指標であるRoland-Morrisの坐骨神経評価版(RDQ)である。
二次評価項目は,visual analogue scale(VAS)での下肢痛と腰痛,患者評価による回復の程度,腰椎疾患術後評価として代表的なProlo scale,SF36のいくつかのドメイン,Bothersomeness Index scaleおよび合併症率と再手術率で,術後52週まで調査している。
RDQのMinimally clinical important difference(MCID)を4点として必要サンプル数を300症例と設定し,結果的に328症例を分析している。

追跡期間中,91~99%の症例のデータが有効で,クロスオーバーもきわめて僅かであり,以前紹介したSPORT研究(「腰椎椎間板ヘルニアに対する手術治療の優位性が示される」
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/doctoreye/dr090405.html?ap)と対照的である。

術中合併症は内視鏡手術12%,顕微鏡手術8%,術後合併症は内視鏡手術11%,顕微鏡手術9%と,いずれも有意差はないが内視鏡手術で多かった。
1年目での再手術も内視鏡手術10%,顕微鏡手術7%と,有意差はないが内視鏡手術で多かった。
多くは再発による再手術である。

術後52週で判定した治療効果は,RDQで見ると内視鏡手術4.7,顕微鏡手術3.4で内視鏡手術のほうが有意に高かった(低いほど正常)。
VASで見た下肢痛は内視鏡手術18.3,顕微鏡手術14.1,同様に腰痛は内視鏡手術23.2,顕微鏡手術19.7と,いずれも内視鏡手術のほうが有意に高かった(図)。

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患者評価による完全回復は内視鏡手術2.0週,顕微鏡手術2.1週で差がなかったが,52週で完全回復した割合は内視鏡手術で69%,顕微鏡手術で79%とオッズ比0.59(0.35~0.99)と差があった。総じて見ると,両手術間に大きな差はなかったが,顕微鏡手術のほうが多くの項目で若干よい傾向にあったと言える。

#東京大学病院整形外科 竹下克志講師の考察:
#内視鏡手術には技量と経験が必要,顕微鏡手術の可能性について再検討する必要も
内視鏡手術には2つの利点がある。
1つは内視鏡を操作することで,視野と手術操作部位を変更できるので,小さな空間での手術という制約から若干解放される。
もう1つは腰部の筋肉を分けて入れるので,一般的な手術や顕微鏡手術のように筋肉の骨の付着部への侵襲がなく,さらに筋挫滅が少ない可能性が高いため,術後回復も早いのではないかと期待されてきた。

一方,欠点として顕微鏡のように立体視ができず,深部感覚がなく,組織の判別や操作にかなりの慣れを要求する問題がある。
今回の研究では顕微鏡手術のほうが回復は若干よい傾向があるばかりでなく,下肢痛や腰痛の残存が内視鏡で若干多いことは顕微鏡手術に比べて除圧操作の不完全性を疑わせる結果といえる。

この報告では,結果の最後に統計的有意差はなかったなどとexcuseしているが,施設間格差がかなりあることも示されている。
つまり,一貫性の高い介入が可能である薬物試験と異なり,外科医の技量格差という本質的な問題が残っているのではないだろうか。

そもそも内視鏡手術と顕微鏡手術を全く同等に行える脊椎外科医がどれだけいるのだろうか? さらに,内視鏡手術は技量と経験のいずれが欠けても望ましくない分野と言え,医療統計学が本来馴染みにくい領域ではないかと筆者は思うのである。しかし,この報告はサンプル数の多さや研究デザインの周到さからかなり信頼性の高い研究と言え,内視鏡手術が顕微鏡手術に対する優位性がほとんど示せないばかりか若干成績が劣るという結果は,顕微鏡手術の可能性について再検討する必要性を示している。
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/doctoreye/dr090803.html?ap

出典 MT pro 2009.8.10
版権 メディカル・トリビューン社


他にもブログがあります。
ふくろう医者の診察室 http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き)
葦の髄から循環器の世界をのぞく http://blog.m3.com/reed/
(循環器科関係の専門的な内容)
「井蛙内科/開業医診療録(2)」2008.5.21? http://wellfrog2.exblog.jp/
井蛙内科開業医/診療録 http://wellfrog.exblog.jp/
(内科関係の専門的な内容)

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by wellfrog3 | 2009-09-01 00:11 | 感染症
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