3大パンデミックに学ぶ

今回流行中の新型インフルエンザについてはまだ十分に把握されたわけではなく、今後どのように流行していくのか不明な点が数多くあります。
「新型」のために当然といえば当然です。

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」というのはビスマルクが言った言葉ということになっています。
「アジアかぜ」について検証すれば学ぶことも多いはずです。


抗菌薬時代に広まったアジアかぜ
1957年春に感染拡大が始まったアジアかぜは,罹患者数も死亡者数もスペインかぜに比べれば,けたが小さかった。
しかし,既に抗菌薬が存在した時代としては甚大な被害と言える。
現代より脆弱な医療体制であったとはいえ,アジアかぜと戦った人類の記録から見えるものとは。当時を肌で知る長崎大学の松本慶蔵名誉教授が実体験を交えて考証し,新型インフルエンザ(A/H1N1)への備えを説いた。
 

目立った黄色ブドウ球菌の感染
中国南部から香港を経て,世界的大流行へと拡大したアジアかぜのわが国でのピークは,1957年5〜8月の第1波と,季節性インフルエンザの流行と重なる同年10月〜58年2月の第2波がある()。


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ほとんどの人に免疫がないことから"処女感染"との見方もあったが,70歳代の一部に抗体が見られたため,20世紀初頭に類似したインフルエンザの流行があったと推測される。

記録されている数字では国内で延べ約300万人が罹患,死亡者は5,700人程度。
年齢別の死亡者数は,季節性インフルエンザと同様に体力のない小児と高齢者が多かった。
死亡者数が80歳を過ぎると急激に下がるのは,抗体保有者がいたことに加え,当時の人口構成比率によるものと見られる。
死亡者を詳しく調べたところ,肺炎中黄色ブドウ球菌の2次感染に注目が集まった。
なぜなら,当時は耐性を獲得し,"王者の菌"と呼ばれた黄色ブドウ球菌が,最も多い市中肺炎としてばっこしていたからだ。
死亡などの被害は僧帽弁膜症をはじめとした弁膜症患者や肥満者,高齢者,妊婦に多く見られた。


わずか6種類程度の抗菌薬に大きな効果
瞬く間に広まったというよりも,重症者が多かったという印象が強かったと感じる。
もし,単純にスペインかぜの時代に流行していたと考えれば,ひょっとしたら同規模の大きな被害が生じていたかもしれない。
 
しかし,そうはならなかった。
なぜならば,流行時の抗菌薬はペニシリンやテトラサイクリン,クロラムフェニコールなど6種類程度しか使えなかったものの,抗菌薬が存在していたことが大きかった。
世界保健機関(WHO)によると,アジアかぜの死亡率は6,000〜7,000人に1人とスペインかぜよりもきわめて低かったという。


ウイルスよりも恐怖感が広がる
よく3大パンデミックで亡くなった感染者の数値をクローズアップする報道があるが,多くの抗菌薬と抗ウイルス薬がある現代医療であれば,慌てる必要は全くないことがわかる。
今春は新型インフルエンザそのものよりも,こうした情報の氾濫で恐怖感が拡大したことが混乱を招き,拍車をかけたと見るべきだろう。
 
先月には国内初となる院内感染の事例がニュースとなったが,病院も診療所も過度に心配することはないと言いたい。

抗ウイルス薬の備蓄も世界トップレベルであり,治療も予防も可能ということを前提に考えたほうがよい。
私自身,かつてアジアかぜにかかって3日間,39℃の高熱で寝込んだ経験がある。
おそらく感染者を診察している最中にかかったのだと思う。
しかし,治療をすればすぐにおさまった。院内感染に関しては,高齢者や老人ホームの入所者には優先的に新型インフルエンザのワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種などを講じておけば,季節性と変わらない対応ですむ。


感染拡大は「長くても1か月」
3大パンデミックにしても,季節性インフルエンザの流行にしても,同じ地域での流行は1か月もたてば収束しているという事実もある。
メキシコに端を発した新型インフルエンザの感染拡大も,同国ではほぼ1か月で爆発的な拡大はおさまった。
インフルエンザの猛威は1か月で終わるし,感染しても治療を受け,回復すればすぐに社会復帰できる。
 
今後,どのような形で新手のインフルエンザウイルスが出ようとも,現時点では3大パンデミックのような被害にはならないだろう。
ただし,医療者に過去から未来を学ぶ姿勢がないと,今秋に新型インフルエンザが大流行すれば,たちまち春の二の舞になってしまう。
医療者,そして行政,マスコミが力を合わせて正しい情報を共有することが,何よりのパンデミック対策と考える。


社会的混乱大きく「補償要求」も
戦後最初のインフルエンザパンデミックとなったアジアかぜでは,世界で200万人の死者が出たとされる。
スペインかぜに比べれば"10分の1程度"と見る向きもあるが,社会的な混乱は決して小さくはなかった。

<20日で都道府県の半数超で感染>

中略

<休校措置に異論も>
一方,研究者の間ではワクチンが十分に行き渡る見込みがなく,スペインかぜでは第2波の被害が大きかったことから,秋の流行に備え「早いうちにかかっておいたほうが免疫を獲得できて安全」とする見方もあった。
これらを踏まえ,ある医大学長らはインフルエンザの感染による休校措置に異を唱える声明を出した。
 
職場にも欠勤者が続出し,都内の警察署では警察官が足りなくなり,犯罪捜査に支障が生じたという。
東北地方の裁判所では,殺人事件などの弁護士や判事が寝込んだため,公判が延期となった。
 
パンデミックへの備えを万全にする余り,逆に被害を被った例も。
医薬品メーカーが厚生省の指示でインフルエンザワクチンを大量に製造したものの,第2波の被害が想定よりも小さかったため,大量の在庫を抱える羽目になったという。
ワクチンの有効期間は1年程度で,在庫を抱えるメーカーも資金繰りに窮することから,国に補償を求める騒ぎにまで発展し,当時の新聞には「とんだ置き土産」の文字が躍った。
 
あれから半世紀を経たが,ブタ由来の新型インフルエンザに関する情報の錯綜や"診療拒否"問題などを省みると,現代でも同じ騒動が繰り返されないとは限らない。
だからこそ,医療者には正しい知識を備えた対応が求められる。

出典 Medical Tribune 2009.8.27
版権 メディカル・トリビューン社



<番外編>
肝がん細胞:大半を正常化 ハーバード大チーム、マウスで成功
マウスの体内の肝がん細胞の大半を、正常な細胞に変化させる新しい手法を、森口尚史・米ハーバード大研究員らのチームが開発した。肝がんの悪性度などに関与する遺伝子などを使い実現した。
2日、米ボストンで開かれる「分子生命科学会議・幹細胞シンポジウム」で発表する。

チームは、まずがん細胞を作る「もと」になるヒトの肝がん幹細胞をマウスに移植し、肝がんマウスを作成した。
この幹細胞に風邪の原因ウイルスと同種のアデノウイルスを使って、肝臓で働きが低下するとがんの悪性度を高める遺伝子「HNF4α」を組み込むことに成功。
さらに、がん細胞が正常な細胞になる能力を高める働きがあり、海外では抗がん剤としても使われる2種類の化学物質を患部に投与した。

その結果、投与から60日後には体内の肝がん細胞の85~90%が、見た目や機能が正常な肝細胞に戻り、染色体もがん細胞特有の異常が消えることが分かった。
一方、治療したマウス8匹は実験から8週間後まですべて生存していたのに対し、何もしなかった同数のマウスはすべて死んだという。

森口研究員は「今後、安全性を確認し、人での治療を目指したい。完全にがんは消えないが、残りはがんの部位に電極を入れて焼くラジオ波を使えば、手術に比べ体に負担の少ない治療が可能になる」と話している。
http://mainichi.jp/select/science/news/20090902ddm003040080000c.html
出典 毎日新聞・東京朝刊 2009.9.2
版権 毎日新聞社



滑脳症:知能障害、てんかん伴う病気 酵素の働き抑える薬で、治療に光明
遺伝子が欠けていることで起きる先天性の病気「滑脳症(かつのうしょう)」について、大阪市立大の広常真治教授(分子生物学)と山田雅己講師らが、関係する酵素を発見し、この酵素の働きを抑える薬で症状を緩和できることをマウスの実験で確認した。
治療法につながる成果という。
米科学誌「ネイチャーメディシン」に7日、論文が掲載される。

滑脳症は「LIS1」という遺伝子が欠けていることによって起き、発症は新生児1万5000人に1人程度。
この遺伝子が作り出すたんぱく質が不足することで脳の神経細胞がうまく発達できず、通常6層の脳構造が4層になり、表面のしわができない。
知能障害やてんかん、まひを伴い、治療法はない。

広常教授らは、「カルパイン」と呼ばれる酵素が、この遺伝子が作るたんぱく質を分解することを確認。遺伝子操作で滑脳症にしたマウスの胎児に、母親の腹腔(ふくくう)を通してカルパインの働きを抑える薬剤を注射で投与。
すると胎児の脳構造が回復し、運動能力も通常のマウス並みになった。
http://mainichi.jp/select/science/news/20090907ddm012040146000c.html
出典 毎日新聞・東京朝刊 2009
版権 毎日新聞社


<きょうの一曲>  ドビュッシー/月の光
Debussy, Clair de lune (Twilight soundtrack? piano music)
http://www.youtube.com/watch?v=LlvUepMa31o&feature=fvw

David Oistrakh, Debussy - Clair de lune
http://www.youtube.com/watch?v=SKd0VII-l3A&feature=related

John Williams & Julian Bream: C.Debussy-Clair de Lune
http://www.youtube.com/watch?v=T1i_2HYmJkA&feature=related

横浜夜景~ドビュッシー/月の光
http://www.youtube.com/watch?v=yV7lwpw1ZIs&hl=ja

ドビュッシー/月の光 ジャズmix Debussy/Clair de Lune jazz mix (record)
http://www.youtube.com/watch?v=BbgatlKO1IU&feature=related

clair de lune
http://www002.upp.so-net.ne.jp/hidk/mft/clair_de_lune.html

月の光、ドビュッシー~名曲スケッチ
http://www.geocities.jp/mani359/meitukinohikarido.html

【朗読】「月の光」/ポール・ヴェルレーヌ
http://koebu.com/topic/【朗読】「月の光」%20_CLAIR%20DE%20LUNE_#25c3f78eaac8e07a0bbaa3dfb97295a401e2dbf8

月の光
http://web.t-online.hu/yuitobt/clairdelune.html


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http://d.hatena.ne.jp/asin/B000VI6KVY
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by wellfrog3 | 2009-09-08 00:23 | 感染症
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