呼吸器感染症の感染拡大防止策

<b>「飲む」,「打つ」より「洗う,着ける」が効果的?
呼吸器感染症の感染拡大防止策に関するシステマティックレビュー
 
コクラン・コラボレーション(イタリア)急性呼吸器感染症グループのTom Jefferson氏らが呼吸器感染症を引き起こすウイルスの伝播を防ぐには,手洗いやマスクによる物理的な感染拡大防止策が有効であることをBMJ 9月21日オンライン版に報告した。
なお,同氏らはワクチンや抗ウイルス薬の感染拡大防止効果は限定的との見方を示している。

手洗いとマスク,グローブ,ガウンの併用でオッズ比0.09に
検証に当たり,コクランライブラリーやMEDLINEなどの医学文献データベースから,インフルエンザや重症急性呼吸器症候群(SARS)など,急性呼吸器感染症を引き起こすウイルスの感染拡大防止に関する59試験(58報の論文)が選定された。

Jefferson氏らは,これらの対象論文から,動物-ヒト,ヒト-ヒト間を問わないすべての物理的感染防止策(隔離,検疫,学校閉鎖などの社会的隔離,隔壁,マスクやガウン着用などの個人的防護,手洗い)の効果を解析。ワクチン,抗ウイルス薬に関するものは除外した。

1日に10回以上の定期的な手洗い〔オッズ比(OR)0.45,95%信頼区間(CI)0.36〜0.57,Number Needed to Treat(NNT)=4,95%CI 3.65〜5.52〕,マスク(OR 0.32,95%CI 0.25〜0.40,NNT=6,95%CI 4.54〜8.03)やグローブ(OR 0.43,95%CI 0.29〜0.65,NNT=5,95%CI 4.15〜15.41),ガウンの着用(OR 0.23,95%CI 0.14〜0.37,NNT=5,95%CI 3.37〜7.12)はあらゆる急性呼吸器疾患に対しても有効であった。
また,これらすべての組み合わせによる相乗効果も確認された(OR 0.09,95%CI 0.02〜0.35,NNT=3,95%CI 2.66〜4.97)ほか,家庭内でのインフルエンザ感染防止にも有効であったという。

なお,N95マスクはサージカルマスクよりも感染防止に優れるが(OR 0.09,95%CI 0.03〜0.30,NNT=3,95%CI 2.37〜4.06),付け心地が悪く高価であるほか,皮膚の不快感を引き起こすなどの問題があると同氏らはコメントしている。

通常の手洗いに殺菌剤を加えた場合の効果については,はっきりしなかった。
検疫に関しては適切に評価した試験がない,社会的隔離については限定的ながらエビデンスが示された,という結果であった。

また,2003年2~6月にSARSに関して中国,シンガポール,ベトナムで報告されたケースコントロールスタディからプール解析を行い,それぞれの感染拡大防止策を評価したところ,有効性(1-ORで算出)は完全殺菌が70%,頻回の手洗い(10回以上/日)が55%,マスク着用68%,ガウン着用が77%,N95マスク着用が91%であった。
一方,手洗い,マスク・ガウン着用の併用で91%と高い有効率を示した。

WHOの新型インフルエンザ予防のガイダンスにも手洗いとマスク着用はほとんど登場せず Jefferson氏らは,既に,2007年に同様のシステマティックレビューを行い,呼吸器感染症の流行を防ぐには手洗いやマスク,グローブやガウンの着用による感染拡大防止策が高い効果をもたらすことを報告している。

今回のレビューにおいて,同氏らはワクチンと抗ウイルス薬を「強いエビデンスがないにもかかわらず感染拡大防止策としておもにこの両者が推奨」,「有効性と,服用や接種で受ける侵襲,それぞれの評価に不均衡がある」と指摘している。
そして,ワクチンについては「少なくともそれを必要としている人,すなわち健康な人には最も効果が高い」としたほか,抗ウイルス薬については副作用があり,便益性は抗インフルエンザ薬の種類により異なるとしている。
同氏らは2006年,各種抗インフルエンザ薬のシステマティックレビューで「ノイラミニダーゼ阻害薬は,大流行期に他の感染拡大防止策と合わせた場合にのみ用いるべき」と結論付けている(Lancet 2006; 367: 303-313)。

一方,物理的な感染拡大防止策はウイルスによる感染症を非特異的に防止でき,効果的,安全,フレキシブルで安価だとしている。

なお,同氏らによると,世界保健機関(WHO)が今回の新型インフルエンザ(A/H1N1pdm)の世界的流行が始まってから発表したガイダンスのうち,手洗いとマスクに関するものは2回,グローブとガウンに関するものは1回ずつだったという。
それに対し,ワクチンと抗ウイルス薬についてはそれぞれ24回,18回もガイダンスがあったとし,世界の感染症制御をつかさどる大本営にもチクリと“解析”を加えた。

同氏らは,物理的感染防止策の最大の問題はコンプライアンス不良とし,国家レベルでの手洗いプログラムの実行や,マスクなど防護具の着け心地を向上させるための取り組みも必要ではないかと結論を述べている。

出典 MT pro 2009.9.24
版権 メディカル・トリビューン社
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by wellfrog3 | 2009-09-28 00:11 | 感染症
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